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月の宮異聞  作者: WR-140
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パーティ・パーティ

ホールは、煌びやかな光と音楽に溢れていた。全てが古風で、そして豪華である。

ドレスコードは不明。

アリッサ・シエルは人々の衣装に目を凝らして、共通項を読み解こうとしていたが、それは不可能と結論付けた。

まず、時代。

ここ数百年にわたっていることはわかるものの、特定の短い時代ではない。

色や形は千差万別。

強いて言えば、セミフォーマルからフォーマルだろうか。

異国風の衣装の男女もいるから、地域限定というわけでもなさそうだ。

つまり、ドレスコードはなし。

そういうことなのだろう。

彼女は少し気が楽になった。

リマノに出てきたばかりの頃は、田舎者とバカにされないよう必死だったから、場違いにならないように、いつも気を使っていたのだ。

図らずもそのころを思い出してしまった。

貴族出身とは言っても、リマノでは通用しない。

ここで貴族と言えばリマノ貴族だけ。

千年以上の歴史を誇る名家も多く、他の国の王族をさえ、歯牙にも掛けない。

ここは無数の加盟国を掌握する、銀河連邦の首都なのだから。


最初名もないこの惑星リマノに、壮麗な館を築いたのが、初代連邦盟主である翠の宮、後の神皇ディーンズムア卿だと言われているが、定かではない。

その頃は、第一次文明が崩壊した後で、人類は多くの世界に進出してはいたものの、恒星間どころか惑星間航行のテクノロジーさえ失われていたという。

その原因は戦争であったとも、疫病であったとも言われている。

何せ数千年前の話なので、はっきりしたことは解明されていない。

第一次文明の遺物の多くは朽ち果て、人類は他の生存圏に同胞がいる事を知っていても、連絡する手段さえなかったのだから。

そんな世界では、彼とその一族の持つ、とんでもないテクノロジーを生かすことは、まだ時期尚早であっただろう。

ほぼ人の住まない広大な荒地に館を構えた後も、卿は権力や冨には全く関心を示さず、僅かな側近たちと共に静かに暮らしていたという。

彼らが人間でないことは、当然の事実として受け止められていた。

ちょっかいを掛けられるような相手でないことは知れ渡っていたから。

小さな紛争や、人口増加にともなうもう少し大きな規模の戦争は頻発したが、彼らが直接介入することはなかった。

相互不可侵。

そのまま数百年。

気が付けば、館の周りには卿を慕って集まった人々により、街が形成されていた。

市街地は年々膨れ上がり、やがて人類生存圏最大の都市に成長したという。

今のリマノ中央区の原型である。

だから、もしリマノに王がいるならば、神皇こそがそれなのだ。

歴代盟主は15代を数えるが、多くは神皇の血筋ではなかった。

当代盟主こそその直系である。


リマノの真の王ゆかりの場所にいると思うだけで、アリッサは陶然とする。

リマノ貴族ごときが何だというのか。

ここに当代盟主が足を踏み入れる事はないかもしれないが、その格式はあまたある離宮の中で随一。

今までこの離宮を与えられたのは、7代黒の宮の正妃シーリーンと、当代盟主正妃のみである。

あとは、他星の王族の迎賓館として使われたことがある程度。

シーリーン妃は自害して果てた悲劇の妃であるが、リマノ貴族としても最高位の家門の出身だった。


リマノ貴族の位階は複雑だ。

アリッサの故郷ならば、最高位は王族のうち、高順位の王位継承権を持つ者であることが多い。

が、ここにはそういう者は存在しないから、家門の由緒や権勢などが基準となる。

便宜上、公爵家、侯爵家などと呼ばれる家門はあるのだが、その中で細分化が進んでいて、二大侯爵家とか、三大公爵家などと呼ばれたり、いわゆる爵位ではないが、他星の騎士や高位の文官に与えられる称号を併せ持っていたりと、複雑怪奇なのだ。

生まれついてのリマノ貴族は、このありえないほど多岐にわたる位階の全てを、徹底的に教育されるらしい。

その全てを把握していないものはリマノ貴族にあらずということだ。


ということは、と、アリッサは、リマーニエ卿を見る。

この偉そうなだけのボンクラも、そういうことだけは知っている訳だ。

卿、という呼び名はリマノ貴族の誰に対しても使えるから実に便利で、一般的には皆これを使う。

貴族などという身分も特権も、法律上は存在していないから、わざわざ敬称をつける意味などないと思うが、慣例とか不文律というものは、なかなか侮れない。

長いリマノ暮らしで、アリッサはそれを嫌というほど経験してきた。

さりげなく軽い敬称を使うことこそリマノ市民の証。

田舎貴族はそれぞれのご大層な爵位だか何だかを誇示しがちだが、それこそが野暮というものだ。

そんな空気が、リマノにはある。


だけど、この素晴らしい衣装と宝石!

時代がかった古めかしいデザインだが、縫製も細工も一級品である。

今時、職人の手作り品なんて最高の贅沢だろう。

あるところにはあるものね…。

アリッサはため息をついた。指輪、ネックレス、ブレスレット、イヤリング…

ああ!

目の保養ってこのことよ。

ここに来てるひとたちって、どういう身分なんだろう?

お金持ちなのは確かだと思うけど…

社交界に関するニュース記事では、月の宮に招かれたリマノ貴族はほんの少しだったはず。

あとは他星の王族とか?

そうかもしれない。随分とエキゾチックな衣装の人がいるものね。

だから、歓迎パーティなのかも。

だったら、ここにいたら、妃殿下にだってお会いできるかもしれないわ!

パーティに招かれた訳じゃないけど、こんなチャンス逃せないでしょ。

リマーニエもそんな思惑みたいね。

ほんと、ゲスくって下心が分かりやすい男だわ。

今はそれがありがたいけど。


リマーニエが娘を探しに行こうとしたり、場違いな質問でこのパーティから追い出されたりする気配がないことを見てとって安堵するアリッサだった。

そのまま他の参加者と当たり障りの無い会話をしたり、いつのまにか手渡された飲み物で喉を潤したりするうちに、突然、音楽が止んで、フロアで踊っていた人々が壁際に退いた。椅子に掛けていた人々が立ち上がったので、アリッサとリマーニエもそれに習う。

これは、どう見ても重要な人物の入場だ。

左右に別れて居並ぶ人々の末席に、2人は並んだ。

「ブリュンヒルデ妃殿下、ご入場!」

朗々たる先触れの声。

アリッサの興奮は最高潮だ。

両開きのドアが開く。

そこから、堂々と歩み寄って来たのは…


評価宜しくお願いします。

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