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月の宮異聞  作者: WR-140
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ナイチンゲールと首なし幽霊

サーニは、ちょっとがっかりした。

まあでも、幽霊説は確定ね。

顔が見られないのは、残念だけど。

それは、美形にこしたことはないのよね。でも、凄みがあるとか、渋いだとか、味のある顔なら、それでいいし。

人生初の、幽霊との遭遇だもの。


それはそうと、首なし幽霊の首と胴体の間って、どうなってるのかしら?

生前に、首を斬られたから、首なし幽霊なのよね、たぶん。

 生々しい感じの切り口?

それとも、服の中には何にもない、とか?

指先みたいに、つるんとしてるとか?

などとあらぬ想像を膨らませ始めると、止まらなくなるのがサーニである。

どうしても確認しなければ、おさまらなくなるのだ。

今まで、この癖のせいで、かかなくてもいい恥をかき、更にはいらぬ危険を招いたことは数知れず。

もはや病気の域であるが、彼女は反省はしても、行動を改めるつもりはなかった。

 だって。そんなの、私じゃない。

ジワジワと、幽霊ににじりよる。

ライトはつけたままなので、相手はとっくにサーニの存在を知っているはずだ。

今更気を遣ったところで、意味はない。

しかし、ワクワクが止まらないから仕方ない。本当は走り寄りたいところを、ぐっと抑えた結果のにじり寄りなのである。

相手は動かない。

が、ナイチンゲールがサーニの方を向いた。嘴が開くが、音は聞こえない。

しかし。

 何か言おうとしてる?私に?

それは直感だった。ナイチンゲールはどこかもどかしげに見える。伝えたいことがあるのに、通じていないことに対する苛立ち?

 新月のこの夜は、自分の直感を信じること、それは、妃のアドバイスではなかったか。ならば。

サーニは、遠慮なくナイチンゲールに歩み寄った。彼と首なし幽霊の交流(?)に割り込む形になるから、一応、幽霊に向かって丁重におじぎすることは忘れない。

幽霊は動かない。しかし、近づくほどに強くなるこの圧は、何なんだろう?

 幽霊、ってことは、もう死んだ人よね。

首もないのに、生きている人より重圧を感じるわ。

これって、威圧感と、あとは何かしら?

 危険?

そうだわ。とても怖い気配。背中がゾッとするような。このひとを、絶対怒らせちゃダメだ。

ああでも、み、見たい!

首の切り口がどうなっているのか!

ひと目でいいから、見てみたいっ!


サーニは、全く気付いていなかった。

初めて月の宮を訪れた日と同じく、自分が知らないうちに、考えを口に出してしまっていたことを。


不意に、首なし幽霊の身体が揺れた。

 あ、あら何かしら?

これ⚡︎・・、笑っている?何故?

ナイチンゲールはと見ると、両方の羽根で両目を覆っていた。

汗までかいている、ような気がする。

鳥の仕草ではなく、それはひどく人間臭い動作だった。

 呆れてるの? え?何で?何に?

サーニには全くワケがわからない。

ナイチンゲールと幽霊を交互に見ながら、

どうしたらいいか判断出来ずにいた。


不意に、幽霊が立ち上がった。

サー二が思っていた通り、かなり上背がある。時代がかった衣装は、青と銀を基調に、レースやモール、刺繍や飾りボタンと、絢爛豪華な装飾に満ちていた。

だが、幽霊の立ち姿は、それ以上の華麗さでサーニに嬉しい驚きを与えた。

 まるで、スポットライトを浴びた、舞台の上の名優を見てるみたい。

どこからどう見ても破綻ひとつないわ。

まさに完璧なバランスよね。

 なんて素敵。ああ、首がないのが本当に残念だわ。

見とれるサーニの前で、幽霊は、少しナイチンゲールの方にかがんだ。

 何か、話してる?

ナイチンゲールが翼をバサバサと振った。

 うーん?何か驚いて、焦ってるわね。

 また汗かいてる?あらあらあら。

首なし幽霊は、ひょいとナイチンゲールを持ち上げ、自分の肩に乗せた、

そのままで歩き出す。

ナイチンゲールは、まだかなり焦っている様子だが、覚悟を決めたのか、鳥らしくないため息をひとつ。チラリとサーニを振り向く。

 「ついてこいってこと?」

鳥ははっきりと頷いた。

 わあ、不思議。やっばり言葉がわかるんだ。前からそんな気はしてたけど。

もちろん、ついてくわ。ああ、ナイチンゲールが羨ましい!肩の上なら、どうなってるか、じっくり観察できるでしょ。


幽霊の肩が揺れた。笑ったのだ。

が、サーニは、まだ気づかないでいた。

考えがぜんぶダダ漏れになっている件について。まあ、その方が幸せかもしれない。

ナイチンゲールは、密かにため息をつく。

そう、彼女はこういう子だった。

昔から。


首なし幽霊は、肩にナイチンゲールをのせ、後ろにサーニを従えて、暗闇の庭園を行く。

迷いのない足取りだ。

方向は、まっすぐに離宮の建物を目指していた。

サーニは、急に不安になってきた。

 いいのかな、このひとたちを連れていっても?連れて行くってより、私が付いて行ってるわけだけど、姫さまに危険が及ぶことはないわよね。

 不安だわ。ガーディアンたちはいるけど、龍一さまはきっとまだお帰りになってないだろうし。何かあったら・・・。

 うん、考えたってしょうがない。

私は、姫さまの侍女。

非力だけど、盾にはなれる。

少しでも時間を稼げたらそれでいいわ。


思い切りの良さがサーニの特徴だ。

くよくよ悩むのは性に合わない。

覚悟を決めたら、あとはできることをやるだけ。


首なし幽霊が、ナイチンゲールに話しかけ、彼らは二言三言会話した。

サーニには聞こえない。が、何だかむず痒いような、妙な気分。

 まさか、わたしのこと?

何か、失礼なことをしてしまったかしら?

下手に弁解とかしたって、逆効果ね。

ここは知らないフリしとこ。


そうこうするうちに、一行は建物を取り囲む石の回廊から、建物内部に進んだ。

 変ね?

ここまで一度もガーディアンに会わないなんて、そんなはずないけど?

私だけならともかく、お客様がいらっしゃるのに。

首なし幽霊は迷わない。

 幽霊ってことはつまり、迷ってる霊なわけだけど、すごく慣れた足取りだわ。

ここにゆかりのある幽霊さんなら当然だろうけど、まっすぐ向かう先って、姫さまのお部屋?!

え、ちょっと待って!

そ、そのドアは!


止めることは出来なかった。

この建物は、害意ある侵入者を許さない。

ここまで入れるということは、この侵入者が、月の宮に認められたということだ。

それは、侍女などがどうこうできるものではない。

 しかし、ここは、姫さまの。


幽霊は、ノックせずにドアを開けた。


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