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月の宮異聞  作者: WR-140
19/109

ボク、ペットでいいんです。

同じ頃。

月の宮の本来の主人、黒の宮の自室である。

「と、いうわけなんですう、レヴィ様。」

黒目がちの、まん丸な目を潤ませた黒猫と、対するのは黒の宮だ。

「ふむ。苦労を掛けたな、カイ。千絵にとことん付き合って守り抜くなんぞ、お前にとっても荷が重いだろうに。」

喉の辺りを指先で撫でられて、なぜかゴロゴロと目を細めるあたり、猫被りが板につき過ぎだが、人型の擬態より感情表現が豊かだ。

「しかし、六芒星か。ありふれた紋章ではあるが‥。」

被害者クルトが述べた、殺人犯の唯一の手掛かり、それが六芒星なのだ。

「お心当たりが?」

カイは小首をかしげた。

地球流にいうと、ダビデの星にあたる紋様だろう。2つの合同な正三角形を、ぶっ違いに重ねた形だ。

「心当たりというほどではない。奇妙な符号という程度だな。今日お前達が行った場所なんだが、あれは俺が即位する原因になった疫病の死者の埋葬地だ。かつては、その地を示す符号が六芒星だった。今となっては忘れ去られているが。」

「あ、それでかな?」

「それで、とは?」

「地下に、新旧いくつかの封印のあとがありました。古い魔法陣形式の対魔結界には六芒星の符号が。」

黒の宮は頷いた。

「封印の地を示すためのシンボルとしたのだろう。あの時は、全人口の7割強が病死したから、社会機能が完全に麻痺していた。更にそのせいで落命したものまでカウントすれば、死者は9割近くにも達しただろう。

だから当初は仮埋葬のつもりが、改葬しようにもその力がなかったはずだ。

…封印するのが精一杯だったか。」

やや遠い目で、黒の宮はそう呟いた。


火葬とかしなかったのかな?

火属性の同族なら、簡単だろうけど。あ、でもさ、市街地ごと灰になっちゃうか。

んー、ついでに消毒出来ていいと思うんだけどなー。いっそ、惑星表面全部焼いたら効率的だよねー。保菌者も片付くし。


「おい、カイ。なんか物騒なことを考えていないか?」

黒の宮にじっと目を覗きこまれ、カイは、さっと顔を背けた。

「え?な、何も考えてないですけど?」

ちょっとドキドキする。

 ホントだもんね。ボクの基準では、大したことは考えていないし、第一、レヴィさまにだけは言われたくないですけど?

それにしても、ご主人さまといいレヴィ様といい、なぜ考えを読んだみたいなことを仰るんだろう?ホント謎。


「復習だ。お前たちドラゴンって、基本的に傲慢だよな。だから、神皇家の許可なくして戦闘行為は出来ない。例外は?」

「神皇家の方や、自分自身と同胞に危険が及ぶ時と、多くの生命が危険に晒された時は、自己判断が許されます。」

カイはよどみなく答える。

 そんなの、卵から孵る前に覚えさせられたもん。ボクが忘れるわけないじゃない。

「その通りだ。今回の件で、ドラゴンが力を行使したことは、既に各方面に知られているだろうが、問題はない。

しかしなカイ、例えば、多くの生命とは、どう解釈する?」

「人とか、それに準ずる種族、あとは、動物、とか?」

黒の宮の真意をはかりかね、カイは首をかしげる。

「魔族はどうだ。あるいは、魔獣や妖獣の類いは?植物は?数だけなら、細菌は膨大な個体数だが。」

「それは、ケースバイケースかと。」

黒の宮は頷いた。

「その認識は正しい。つまり俺が言いたいのはな、ルールなど、どうとでも解釈可能だということだ。だからこそ、力あるものはできる限り公正であらねばならぬ。

ただし。

お前が暴走した場合、俺や龍一が抑止力になるが、龍一がそうなったら、誰も止められない。いまあいつの唯一の抑止力は千絵だ。奴は、千絵を自分のものとしておくためならば、文字通り何でもする。彼女の望みとあれば、命をかけて職責を全うしようとしているように。

女ひとりにそこまで執着するなど、実に情けないが、そのためにあの怪物が安定しているのなら、是非もない。

だからな、カイよ。

お前の責任は、とんでもなく重大だ。

俺からも、改めて頼む。

千絵を守り抜け。そのためなら、死んでくれ。」

非情な要請である。もとより、主家の命とあれば、拒む筋ではないが。

「承りました、レヴィさま。」

答えた黒猫の目はただまっすぐで、そこには何の迷いも気負いもなかった。

彼にとっては、当然のことだ。


竜の一族は、親や兄弟を知らない。

生物学的には、両親は存在するが、それは受精卵を作った者にすぎず、養育は共同で行われる。だから、実の両親と特別な関係を結ぶことはない。

同族とは、ある程度親しい関係を築くこともあるが、人間のように婚姻することはない。

彼らに家族があるとすれば、それは主家である神皇家の構成員である誰かだ。

カイにとっては、紫の宮がそれに当たる。

高い知性と強大な力を併せ持つドラゴンの一族だが、主人と定めた者に対しては、無条件の信頼と愛着を、生涯もち続ける。

それは、彼らの本能の奥深くに刻まれた習性なのだろう。

その対象が、神皇家に限定される理由は不明である。

口さがない神族には、神皇家のペットと揶揄されたりもするが、カイは気にしない。

 ボク、ご主人のペットでいいもんね。

退屈しないし、側にいたら安心するから。

無茶振りなんて、いつものこと。

うん、それで満足さ。


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