そして、日々は続く
最終話となります。
日々は続いていきますが、これにて一旦お別れとさせて下さい。
月の宮では、新たな住人を迎えてささやかなパーティーが準備されていた。
カーンは黒の宮と面識があったから、本宮より月の宮の方が宿泊先として適当であろうとの判断がなされたのだ。
カミラは盟主妃の近くにいる必要がある。2人とも世界を渡っても全く問題がないほど強力な魔族で、偽装にも長けていた。
偽装とは、つまり人間のフリをすることだが、2人とも外見上は人にしか見えないタイプだし、魔力を注意深く隠蔽出来るほどに長い経験を積んでもいる。
本宮の研究設備を使用する際に、大いに役立つスキルだろう。
厨房には、なぜか盟主夫妻と助手役の汎用アンドロイドが働いていた。
「え?リヒトさんと来るもう1人って?」
「オルタ嬢だ。たしかお前、リヒトは既に魔に喰い荒らされた抜け殻に過ぎないと言ってたよな?」
「その通りだけど。…あ、まさか?」
「ふむ。彼女がいれば、リヒトの失われた部分が回復するかもしれない。」
「そうかあ!いいな。羨ましい。」
「何を羨むことがある?お前には俺がいるだろ?」
「アル中サディストのヘンタイ色魔でしょ。おまけに私の赤ちゃんを殺そうとした人じゃなかった?」
「俺の子供てもあるんだが?」
「それは子供達に決めてもらおうよ。だから産まれてくるまでは私だけのものよ。」
「しかし…」
「龍ちゃんがやろうとしたこと、しっかり教えなきゃね。それで判断して貰うのがフェアってもんでしょ。」
「千絵ーっ!」
パシっと小気味良い音が響く。
彼女が、肩に掛けられた手を思い切り払いのけたのだ。
「今更泣きごと?バカじゃないの!ほら、手が止まってる!」
「いや、あの、俺が悪かった。この通りだ。」
彼はガバっとその場で土下座した。
が、彼女は傲然と彼を見下ろす。その視線は極めて冷たい。
「ほんっと、似合わないわね、土下座。」
心底呆れた口調である。
「今日は龍ちゃん料理人なんだから、似合わないことはやめてさっさと働きなさい。わかった?」
「あ、ああ。」
厨房の出入り口から覗いていた黒猫がため息をついた。ああ、あまりにも情けない。
ご主人さまは最強の神族のはずだが、姫さまにかかったら普通の人間の男にしか見えないのだ。
それも、ダメンズ属性の。
ドラゴンには夫婦みたいな関係はない。卵は一族の孵化場で孵るし、子供は共同育成される。
『人間って、とっても面倒くさいよね。』
黒猫はもう一度ため息をついた。
「社交界デビューって、今更なんなのかしらね。」
うんざり顔のサーニが、鏡から振り向いた。
「確かにまともなデビューはしてないけど、もうそんな歳じやないわ。結婚もしたし、それに、試験にパスしたら来月から大学生になるのよ?」
リューは頷いた。
「ごめんね、サーニ。君も僕も忙しくて結婚式は出来ないってことで、僕の家族は納得してくれたんだけど、それなら別の形でお披露目して欲しいって。」
「だからって。」
リューの所属するカルルス一族は、名門貴族である。家名だけのサーニの実家と違って、手広く事業を行い、経済界や政界の人脈も豊かだった。
リュー自身は三男で学者だから、一族の事業にはあまり深く関わってこなかった。
それでも、いくつかの会社や団体の役員として名前を連ねていたし、形ばかりと言えど取引先などとの関係は疎かにはできないのだ。
その辺りの事情を思えば、カルルス一族が結婚式をしないことを認めてくれたことは、大きな譲歩と言えた。
それはありがたいことではあるし…。
サーニは唇を噛んだ。
「仕方ないわよね。あなたのご家族に、わがままばかり言えないもの。でも、私なんかがあなたの妻だなんて。ご家族が恥ずかしい思いをされなければいいけど…。」
サーニの心配は、主として父親の現在の状態に起因している。
月の宮に父親と愛人らが押しかけてきたあと、3人とも命に別状はなかったのだが、サーニの父は、すっかり精神のバランスを崩してしまった。
回復は見込めないだろう。
無気力に支配され、このまま緩やかに死へと向かうはずだ。
今はそういう人達の施設で暮らしている。
愛人と記者は、父の利用価値がなくなった途端にどこかへ去った。
幸い父の借金については、カルルス家の顧問弁護士と会計士が整理してくれた結果、全て片付いたが、その件もあってサーニはリューの家族には恩義を感じている。
それはそうなんだけど、と、やはり複雑な気分は拭えない。
今日は、デビューの予行演習として、仕事から離れて着飾ってみたけれど…。
鏡の中の自分は、客観的にそんなにみっともなくはないが、目立つほど綺麗な訳でもない。
実家の家名だけは立派だが、それ以外サーニには何もないのだ。
つまり、フランツ・リュートベリの妻としての説得力に欠ける存在。
いくら2人が愛し合っていても、結婚はそう簡単なものじゃない。
「僕は君じゃなきゃダメだって知ってるよね。」
「それは…嬉しいけど。でも、私はリマノ貴族がどんなものか知ってるわ。知っていながらあなたと結婚した。だから、わがままばかり言ってられないわよね。」
サーニは強いて笑顔を見せる。
月の宮の侍女で、盟主正妃付きというポストは社交界ではかなりインパクトを持つ。
最初はそんなつもりでここに来たわけではなかったのだ。
彼女を売ろうとした父の無茶振りから身一つで逃げ出した。ただ一つ、戴冠式に先立つ盟主正妃の演説だけを頼りに、月の宮までたどりついた。
それからはあまりに目まぐるしい日々だった。
危険も多かったけれど、振り返れば毎日が本当に楽しかった。
色々な不思議に出会えた日々。
目の保養には困らなかったし、次の食事に事欠くこともなかった。
最高の職場だ。
そして今は、自分自身の人生を手にここに立っている。
リューの隣りに。
巡り合わせとは本当に不思議だ。
夢に見たことさえなかった形で、未来は続いていく。これからも、いろいろなことがあるだろう。
「どうしたんだよ、サーニ?」
「え?あら、どうして?」
涙が一筋頬を伝い、リューの指先で止まる。泣いた自覚はなかったのに。
「無理もないか。君は苦労してきたもんね。」
「そんなんじゃないわよ。ただ、これからも人生が続いて行くかなって、そう思っただけなの。色々あるだろうって。」
「そうだね。君とずっと一緒にいられたら嬉しいな。」
「ええ。わたしも。」
「サーニ…」
リューの腕が背中に回り抱き寄せられたところで、突然、ドアがノックされた。
はい、と答えつつ、何故か素早くリューを押し退ける。
別に悪いことをしているわけではないのに、なんだが顔が熱い。
ドアを開けたのは、盟主妃だった。
今日は裏方宣言をしたからか、ジーンズにTシャツにエプロン姿で、長い黒髪は三つ編みにされていた。
ノーメイクだと、やはり中学生くらいにしか見えない。ただし、飛び切りの美少女ではあるが。
「ごめんなさいね、お支度中。これを叔父様から預かって来たの。」
そう言って差し出したのは、ジュエリーケースだ。
「これは?」
「結婚祝いだって。倉庫から探し出すのに手間が掛かって今日になったらしいわ。開けてみて。」
月の宮な倉庫は、広大な迷宮である。
ケースの中には、ネックレスが納められていた。
横から覗いたリューが感嘆の声を上げる。
「ルビーか。それもこれ、キヌへ産のブラッド・ティアじゃないですか、姫さま?」
サーニにはなんのことかさっぱりだが、わからないのは盟主妃も同じらしい。
「それって、何?」
「ルビーの最高峰です。100年以上も前に掘り尽くされたんですが、このグレードの石1つでも国宝クラスの逸品です。」
ネックレスには、大粒のルビーが5個、そのほかに小粒のものがたくさん使用されていた。
「そうなの?私はよくわからないけど、でも素敵じゃない?リューの目と同じ色。」
言われてみればまさにそれだ。
リューが以前魔物に囚われて鳥の姿に変えられていたのも、この珍しい赤い目のせいだった。サーニが大好きな色。
「ですが姫様、これはとても値段なんかつけられない品物です。僕らなんかの結婚祝いに頂けるようなものでは…。」
石1個で国宝クラスとリューは言った。
彼の一門は、宝石を取り扱う商社を経営してもいる。だから、リューは目が超えているはずで、鑑定眼が本物なのはサーニも知っていた。
その彼が尻込みするほどの逸品である。
「あら、そんなの気にすることないわよ。叔父様があなた方にって言うんだから、貰っておけばいいんじゃない?叔父様、怒らせたら怖いわよ。じゃあね。」
盟主妃は、風のように去った。
サーニの手にルビーのネックレスを残して。
「神皇家の方の基準はぶっ飛んでるな。」
と、リュー。
「公式行事におつけになるジュエリーは、少国を買い取れるほどの逸品ばかりだし。だけどこれはいくらなんでも…。」
などと、呟いている。
「リュー、そんなに難しく考えることないんじゃない?」
「しかしサーニ。」
「本当に、あなたの目と同じ色。だから、レヴィさまは私たちに下さったのだと思う。レヴィ様にとっては、それだけのことなんだわ。」
「確かに君の肌の色にも、髪の色にもよく映るね。」
「あら、ありがとう。それに、レヴィ様って、贈り物を断ったりしたら、気を悪くされるわよね。」
「あー。うん。まいったな。」
「ネックレス、つけてくれる、リュー。」
「うん。」
リューは、優しい笑顔で降参を示し、彼女の指示に従う。
「前から思ってたけど、君の方が僕よりずっと度胸があるよね。あ、イヤって訳じゃないんだ。そのおかげで僕はここで君と再会できた。人間じゃなくなってしまうところで、君に救われた。レヴィ様にお会い出来て、研究も進んだ。一生縁がないと思っていたいろんな経験をさせて貰ったんだ。その上、君が僕を選んでくれたなんて、今でも信じられない。ほんとうにありがとう。これからもよろしくね。」
後ろから肩を抱かれ、赤毛のひとふさにキスされた。
胸が温かいもので一杯になる。あの温室で初めて会った日から、ずっとこの優しさに救われてきたのは自分の方だったのに。
「ありがとう。」
そう答えるのが精一杯だった。
伏せた視線がルビーに吸い寄せられた。
リューの目と同じ、その色に。
「何故ホムンクルスだったかとお尋ねですか、ヴォルティス博士?」
月の宮の大ホールに続く、控室の一つである。正装した男女は、今日の主賓であるカミラとガラムことカーンだ。
奇しくも、濃い紫のカミラのドレスと、ペアであるかのように同じ色調を持つのが、彼の髪色だった。
今の姿は、姿勢のよい中年男性である。
頭髪はオールバックに撫で付けられていた。鋭い鼻の線に濃い紫の目。銀のモノクルのデザインまでが非常にシャープで、神経質そうな印象を与える。
誰がみても貴族、それも高位貴族にしか見えない、重厚な存在感。
ようやく解呪が完了して本来の姿に戻ったのは、実に十年ぶりだ。この十年、誤差はあるが人界のそれと大差はない期間だ。
つまり長命な魔族にとっても、ある程度の長さと認識されて然るべき時間である。
さすが、黒の宮に、〝偏執狂的〟と形容されただけあり、こうと決めたら突き進む性格を表す時間とも言えた。
その期間、魔王ベルゼを欺くための渾身の変身魔法だったのだが、最初から見破られていたのはショックだった。
「最悪、衝突、といいますか、ベルゼ陛下の逆鱗に触れれば瞬殺されることはわかっていましたから、どうしても部下を派遣するわけにはいかなかったのです。ホムンクルスとはいえ、自我を持つ存在でしたから抵抗感はありましたが、彼ら自身も、その細胞の元の持ち主も志願したので。」
カミラ・ヴォルティスは鷹揚に頷いた。
姿は少女だが、魔族最高齢だけあり、その存在感は女王然としている。
「結果は完敗でした。まさに瞬殺。紫の宮は、実に恐ろしい方ですな。」
いやはや、と、両手を広げて首を振る。
誰1人殺さず無力化することは、殲滅する何倍もむずかしい。
「当然ですわ。あのお方は、魔族と神族、それに人間のハイブリッドです。人間は、最も弱く短命な存在ですけれど、他の2種族が持たない可能性を持つ存在なのですから。そして、正妃様とのお子様が!」
普段蒼白なカミラの頬が紅潮し、深淵にも似た紺色の目が、感激に潤む。
「ああ!今まで生きてきて本当に良かったわ!何という幸せ!素晴らしい研究対象が目の前に!」
「は、博士、少し落ち着かれては。」
「そう仰る公爵様こそ、興奮されているのではなくて?今日、お嬢様のご子孫についての手掛かりをもつ人間に逢われるのでしょう?」
「はい。」
彼は、感慨深げに頷いた。
スロヴェシアという国の国王だというその人物は、娘の子孫達が何人か生存していることを、既に突き止めたという。
「お嬢様が、ただ1人のお子様でいらしたのよね?」
「そうです。私なりに大切にしていたつもりでしたが、今となればこうなるべくしてなったのかとも思います。安全のためとは言え、娘の意思に反して閉じ込めようとしたことは間違いでした。」
カミラは薄く笑った。どことなく寂しげな笑顔である。
「後悔しておいでなのね。でも、私はその後悔ですら羨ましい。」
「博士?」
「私は、生まれつき繁殖能力がありませんのよ。ですから、一度でも我が子を愛することが出来たあなたが羨ましいのです。」
「そうでしたか…。」
少しバツが悪そうな彼を見てカミラはコロコロと笑う。
高く澄んだ少女の声で。
「あら、同情などなさらなくて結構よ。過ぎたことは過ぎたこと。今は、私たちの種の未来を掴むため、何ができるかが大事ですわ。そのために私達、ここにいるのではなくて?」
「まさに。」
「早速ですけど、アプローチの方向性としては…」
「…ええ、私もその点は、更に、タナトスの君は…」
「なるほど、それならばこの点も…」
いずれ劣らぬ偏執狂、もとい、学究の徒の議論は次第に白熱していく。
そのころ。
庭園の池のほとりにひっそりと立ち現れた白い人影は、予期しない出迎えを受けた。
ホワイトオパールの鱗に覆われた大蛇である。
「お待ちしていました、オルテア様。」
「…あなたは?」
首を傾げるオルテア。
サラサラと金髪が滑る。
大蛇が一礼した。
「私は、サルラ。ナーガが一体とお見知りおきを。」
「エネルギー生命体ですね。これは興味深い。分解してみても?」
「それはご勘弁を。」
この場合、分解とは、素粒子レベルあるいはそれよりもさらに細かいレベルをさす。さすがのサルラでも、気安く同意できる話ではなかった。
オルテアは、サプライズ・ゲストである。
出迎えを頼まれて待ち構えていたのだが。
「あなたは、深宇宙の存在ではなかったですか、サルラ?」
ずいっと身を乗り出して、オルテアがサルラに近づく。
「はい。その、龍一さんにスカウトされまして。」
サルラは、知らず知らず一歩下がっていた。なんだろう、この人、なんか苦手かも?
「スカウト?ああ、捕獲の婉曲表現ということですね。」
更にずいっと距離が縮まる。
「うっ…。」
「ふむ?この肉体ならば切り刻んでも問題はなさそうですが?」
問題はない。問題はない筈だが、なんだか、何というかこれは、イヤだ。
サルラは更に一歩下がって気がついた。
「オ、オルテアさま、そ、その剣は?」
いつのまにか、オルテアの手には一振りの剣が握られていたのだ。
「アビスブリンガーですか、それが何か?」
にこやかに言い放つ瞬間、剣が一閃した。
「‼︎」
「ふむ。」
何が起こったか、サルラが理解するのに一瞬の間があった。戦慄とともにそれを理解したとき、オルテアが呟く。
「ああ、なるほど、こういう…。」
彼の手のひらには、薄いナイロンがビニール片のような何かが乗っていた。
ほとんど透明で、光沢はない。極めて薄く軽いそれは、折からの微風に簡単に吹き散らかされ、消えた。
分子一つ分の厚みさえない、サルラの表面の切片である。
「か、かつらむきって…。」
思わず呟いていた。ドラゴン少尉が盟主にかつらむきにされた恐怖を語るたび、サルラは鼻で笑っていたわけだが。
そのことを、いま深ーく反省した。
怖い。これは、怖すぎる。
カイに会ったらぜひ謝ろうと、そう心に決めた。
この場を生き延びたら、だが。
「あなたは、母上のガーディアンですね。いつもご苦労様です。」
「は、母上?私は千絵さんの、あ、そういうことですか。」
シャ=ル・レインの件は聞いていたが、いくら遺伝的に近いとはいえ母と呼ぶのはおかしい、はずだ。だが、そこを突っ込む気にはなれなかった。
怖い。この男、怖すぎる。
こんな感覚は、龍一に捕獲、いや、スカウトされて以来だ。
サルラの内心とは裏腹に、オルテアは陽気に続ける。
「母上には振られてしまいましたが、何、チャンスはまたあるでしょう♡」
「チャンス、ですか?」
鸚鵡返しに聞いてしまってから、サルラは深く後悔する羽目になる。
「もちろん千絵さんを私のものにするチャンスです。考えただけで胸が高鳴ります。こんな感覚は、何千年ぶりでしょうか。」
うっとりとオルテアは微笑んだ。
「待ち遠しいですね。」
「は、はあ…。」
コイツ、危なすぎる。
それがサルラの正直な感想だった。
龍一は大概鬼畜だが、コイツに比べたらまだ可愛げがある。
とにかく、パーティが終わるまで、何ごともないことを祈ろう。
「おや?」
オルテアが呟いて、足を止めた。
「こちらにいらっしゃい、青のユニコーン。」
オルテアが片手を差し伸べた。
少し離れた木の陰に、ひっそりと佇んでいたのは青のユニコーン、コータローだ。
いつになくギクシャクした足取りを見て、サルラは気付いた。
聞いてたな、コータロー。
「いい子だ。君も彼女のガーディアンですね。たしか、コータローでしたか。」
コータローは、ギクシャクと頷いた。生きたユニコーンというより、ゼンマイ仕掛けのギミックみたいな動作。
完全にビビっている。
やっぱり聞いてたか、とサルラは思った。
まあ、今日だけの辛抱だ。
なんとか今日を乗り切れば、当分大丈夫。
自分に言い聞かせる。
しかし、その思惑は無惨に打ち砕かれた。
「あ、サルラ、私はしばらくここでご厄介になるつもりなのでよろしくお願いします。コータローもね。」
爆弾発言である。
き、聞いてない!
大蛇とユニコーンは、思わず顔を見合わせた。
冗談だよな?
それか、悪夢?
申し合わせたようにオルテアに視線を向ける。微風にサラサラと靡く眩い金髪。
背は高いが、女性と見紛うばかりの華奢な姿体。
春風に似た笑顔。
サルラとコータローは機械的に頷くと、それきり無言で先導を始めた。
完全な〝無〟表情で。
1人オルテアのみが清々しい庭園の風を深呼吸して、気分よく歩いて行く。
庭園の木々の向こうで、月の宮が彼らを優しく見守っていた。
ー完ー
ここまでお付き合いいただいた皆様に、心から感謝を。
読んでいただくことで、どれほど励みになったかわかりません。
本当に、ありがとうございました。
まだまだ書きたいことはたくさんありましたが、またお会い出来る日が来ると信じて。
評価、ご感想、お叱りの言葉、全てお待ちしています。