6:吸血姫の安らぎ
全力でアリスの優しさに甘えて泣いていると、裏切られて、死にかけて、たくさん寝て一命を取り留めて、それ以降冷えきっていた私の心がゆっくりと涙に清められていくような、そんな気がしました。
――反対に、未だ心の奥底に楔のように穿たれた黒い炎はチクリと痛みを伝えてきますが、仕方のない事です。復讐を終えない限りその炎が治まる事はない、そんな気がします。
でも折角の異世界、復讐心に駆られて生きていくのは勿体無いですからね、復讐は出来る機会が回ってきた時に存分にこなすとして、ポジティブに異世界観光をしていきたいと思います。
――あ、そうそう、今はみんなで休憩を取っている最中です。私が泣き止んだ後、ルーカスさんが暫く休息をとる事を提案してくれて、みんなで休んでいるという体ですが、実際には私が落ち着くまでの時間をくれたのでしょう。気遣いが出来て顔も良い好青年……多分モテますね、私ですらクラッときたのですから間違いないです。
……まあ、冗談ですけど。好意を抱いているとしても、親愛の情の方で、恋愛感情の方ではないです。
まあ、そんな冗談もほどほどに、みなさんを待たせているので、目元を拭って深呼吸一つ、早く落ち着いて普段の私に戻りますか。
あ……、みんなの前で思いっきり泣いて、落ち着いた後に「やってしまった」と顔を赤くしたのは内緒ですよ。新たな黒歴史です。……人前で泣くのは、我ながら子供っぽすぎたと思ってちょっと後悔してます。
「あの……、私はもう大丈夫なので、そろそろ出発しませんか?」
「……本当に?」
アリスが心配そうに聞いてくれます。……ええ、もう大丈夫ですとも。何も事情を知らないのに、泣く私に寄り添ってくれてありがとう。涙で服濡らしちゃってごめん。……などと言いたいことはいっぱいあるのですが、今くらいは彼女の優しさを素直に受け取っておきましょうか。いつか、感謝の言葉は伝えるとして、今はただ首を縦に振るだけにとどめます。
「良かった。……じゃあ、出発しよっか!」
アリスがそう言うと、メイさんも、魔物が来ないか見張り役をしていたルーカスさんも頷いて、荷物を纏めます。
さあ、私のために中断していた帰途もそろそろに出口です。色々あって、なかなか長く感じられた迷宮攻略ももう終わり。これからは待ちに待った異世界の地上ですね!
――あ、皆さん気になっていたかも知れませんが実は私、太陽の光は平気なのです。吸血鬼は太陽の光が苦手とか太陽光を浴びると灰になって死ぬとか言われていますよね。
実際この世界でもそうらしいです。でも、私は体質なのか何なのかわからないのですけれどあまり太陽の影響は受けなくてですね……。まあ、昔は少し体調が悪くなったり、魔力が乱れて上手く魔法が使えなかったりしましたが、吸血断ちをしてからは完全に大丈夫になりましたね。むしろ日光浴大好きです。
と言うことで、私に心配事はありません。安心して久方ぶり、明里としては初めての地上へ向かうとしましょうか。
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