閑話:初めてのダンジョン!
特産品として多彩な迷宮産出品が挙げられる辺境都市キール。中心部にある露天市には多くの冒険者達が毎日のように各々の露店で産出品を売り出しており、アイバス王国北西部において有数の都市であるキールの露天市は、様々な人々によって賑わっています。
そんなキールの少し南方……馬車で2時間と少しの所にある、「キール近郊迷宮」と呼ばれてる大規模迷宮。キールの発展の礎と言っても過言ではないその迷宮はかなり整備が進んでいます。入り口付近には小規模ながらもキャンプのようなものが用意されており、上層はフルマッピング済み、中層の一部は貴重な鉱石が採れるため、関係者以外侵入禁止のロープが張られていたり、といった感じですね。
ただ、深層はまだ未踏破の部分があるらしく現在確認されている最深層は34階であるとか……残された階層は多くないだろうと予想されてはいますが、未だ最奥まで“未攻略”であるという点も、他都市の冒険者達さえも惹きつける魅力となっているのかもしれません。
とまあ、そんなキール近郊迷宮ですが、低層では出現する魔物の類も大体判明しているので、新人冒険者である私達の初迷宮としてはぴったしというわけなのです。
「わぁ、これぞ迷宮、といった風情がありますねー」
「ですね」
場所は迷宮1階。ファルと私のコンビはおのぼりさんよろしく迷宮を楽しみながら奥の方へ向かいます。そのまま、魔物が出てくるということもなく2階層へと繋がる階段前まで。このような大規模迷宮では、一階はあまりに魔力濃度が薄すぎて魔物が滅多に出現しないとかザラにあるのです。
「この階段を降りたら2階層らしいですね、地図によると」
「ですね」
ちなむと、明かりは魔導具のカンテラです。魔力を浪費しないように事前に魔力は貯蓄させてあります。ぬかりはありません。……まあ、私は吸血鬼アイのお陰で多少の暗闇程度見通せるんですけどね。ファルのためです。
「あ、出た!粘水生命!」
「出ましたね」
緊張感のかけらもない感じで早速、魔物が出現しました。ヌメヌメした地を這う流体……最弱の名をほしいままにしているスライムさんは一般人でも勝てるレベルの魔物です。さっさと倒しましょうか。
「強酸粘水かもですから、気をつけましょう」
「おけです」
一応、そんな最弱魔物にも注意は必要です。粘水生命と殆ど同じ見た目の強酸粘水という変異体が時たま現れます。そいつは名前の通り身体が強酸で出来ているので、迂闊に素手で核を潰そうとすると手が焼けたりします。……図書館で読んだ魔物図鑑によるとそれで田舎の子供が怪我したりしなかったりするそうです。
ですが、所詮はスライム。意外と俊敏な動きでこっちに飛びかかってくることにだけ注意すれば、あとは剣やら魔法やらで核を潰すだけ。簡単な作業です。
「初討伐!」
「おめでとう」
ファルが気づかれる前に真上から大剣をグサっと突き立てて倒しました。……スライムは特殊な個体を除いて、目を持たないので索敵能力がとても低い事が特徴です。薄い本ではやたら強かったりする魔物ですけど、この世界では弱いみたいです。……危ない危ない、強かったらノクターン行きになる所でした。
「あ、もう一匹いる」
「ですね」
「今度はイリアがやる?初討伐」
「します」
お言葉に甘えて、倒すとしましょう。まだ気づかずにちょっと向こうの地面を這っているので、踏み潰してしまえばそれでおしまいなのですが、初討伐がそれというのも味気ないです。ちょっと、お洒落に倒しちゃいましょうか。えーと、できるだけ手加減して……
【元素は火、ささやかな炎の顕現、鏃の形状をとり、射出せよ】
目の前に直径10cmサイズのミニ炎の矢が浮かんで、スライムの核目掛けて飛んでいきます。ボンッという少しくぐもった音と共に、無事核を貫けたようです。何気にファルに炎魔術の初お披露目です。
「わぁ、魔術……良いなぁ」
「いかにもファンタジーっぽくて良いですよね」
「そう、だね。私も最近、練習してます」
初討伐を果たしました。やりましたね、全然達成感は有りませんが。
「予定通り、このまま3階まで、行っちゃいますか?」
「ですね、行っちゃいましょう」
予定通りといえば予定通り、2階は楽勝すぎたので3階へ移ります。3階は割と広い階層で、出る魔物にばらつきがあります。「迷宮らしさ」が出てくるのはここからですね。絶対に安全とは言い切れないのもこの階層からです。
「3階ですね。気をつけていきましょう」
「了解、です」
ちょっと緊張してきました。……ほんのちょっとだけですけど。
「接敵です。犬です」
「犬ですか」
犬……もとい小狼を倒しました。全身鎧のファルが前に立って守ってくれているので安心感が違います。……というかファルだけで犬を倒しちゃいました。ほぼほぼ、私はカンテラの光で視界を確保する係と化してましたね。
「敵です。コウモリです」
「ですね。近づく前にやっちゃいましょう」
炎の矢でコウモリを堕とします。コウモリはそのまま延焼して、倒れました。コウモリ初討伐、ですね。あんまり達成感が無いです。
「わぁ、可愛い」
「ファル……この兎さんは魔物ですよ。愛くるしいですけど」
「わかってます。でも、本当に可愛いですよね」
「ですね」
つぶらな瞳をした兎が現れました。……言わずもがな強敵でした、色んな意味で。地面に潜って逃げようとしたり、弱い魔法で土塊を飛ばしてくるだけで、直接の危険は有りませんでしたが、非常に心にきます。攻撃しようと思っても、集中が乱れてしまって魔術を発動出来ませんでした。
「あれ、3階って案外楽勝……?」
「そうですね。4階行っちゃいます?」
「それ、ありです。れっつごー」
私の提案が採用されて急遽4階に行くことに。階段をさらに降ります。4階層目です。
「4階って、確か3階とほぼ同じ、ですよね?」
「確かそう……あ、敵」
動く骨。言わずとしれた不死者代表格の魔物。
「おー、初不死者」
「動く骸骨ですねー、倒しちゃいましょう」
倒しました、ファルが。……私は観戦です。しゃーないです、光魔術まだ使えないんだもの。
「犬」
「魔術使う系の犬ですね」
先制攻撃で炎の球を飛ばしてきた炎小狼。ただし、直撃してもノーダメージなのでファルが鎧で受けます。
「熱くない」
「でしょうね。鎧ですから」
こっちも火の矢を二、三本飛ばして倒しました。火の魔術を使うからと言って別に火に強いわけでもないです。可哀想ないきもの。
いつのまにか緊張感というものが霧散してしまった、迷宮らしからぬほのぼのとした空気の中歩みを進めます。油断しているわけではないですが、テンション上がるのは仕方ないでしょう?だって異世界にきて初迷宮攻略にきているのですよ。ファルもいつもより声のトーンが高いので楽しんでいることが伝わってきます。
「ゲームみたいですね」
「ね。あれ、イリアはゲームとか、するんです?」
「勿論ですよ。シ⚪︎ンとかF⚪︎シリーズとか、いろいろ。」
「奇遇。⚪︎Fは私も好き、でした」
住んでいた住所はさっぱり覚えていないのに、ゲームタイトルは覚えているの地味に社会不適合者な気もします。
「5階の階段……」
「もうここまで来ちゃいましたか」
道中で苦戦はしなかったとはいえ、階層がそこそこ広いものですから、なんやかんや迷宮に潜ってから結構の時間が経っています。
「イリア、どうします?」
「5階って確か、ちょっと出てくる魔物の格が変わる……みたいな話でしたよね」
「ですねー。でも、4階は楽勝、でした」
ファルは楽しそうに言います。先に進みたがってるみたいです。予定では、迷宮初めてだし行けたとしても4階までにしようという話だったのですけれど……まあ、大丈夫でしょう。多分。
――それに、私もちょっと先に進みたい気持ち有りますし。なんか、楽しく無いですか?段々と敵が強くなっていくの……ゲームみたいで。
「ちょっとだけ行ってみます?」
「了解。進みますね」
カンテラを掲げて先導しながら、私はコツコツと階段状の岩の段を降りるのでした。
諸事情により、最長3月末くらいまで更新できないです。申し訳ないです。




