24:カミングアウト!
「簡単に話すと、そんな感じです。悪い吸血鬼ではありませんよー」
色々事情があって吸血鬼なのに、数年間もの間一切の吸血行為をしていなかったから死にかけていたこと、そして瀕死の吸血鬼に転生したこと、そういう経緯で今は半分異界人で半分吸血鬼のような状態であること。二人とも戸惑ってはいるものの、「魔族に対する嫌悪」みたいなものは抱いていないようで、ひとまず良かったと内心胸を撫で下ろします。
「それで、イリアは種別としては何になるの?」
「種別……?」
「吸血鬼といっても血の濃さで色々あるでしょ?」
「……そうなのですか?初めて知りました」
「ほら、例えば私は元は人間の中位吸血鬼だし……そんな感じの種別!」
元人間!?聞いたこと有りません。私がいた時代の、私以外の吸血鬼は、タチの悪い神話存在……話の通じない化け物みたいなのがほとんどみたいなイメージでした。文字通りの「災害」ですね。私は特殊なタイプで、だからこそ「吸血姫」なんてちょっと恥ずかしい呼ばれ方をされていたりしたものです。でも他の吸血鬼の方々がそんな調子ですから、勘違いされて当時の英雄達で構成された討伐隊が組まれちゃったこともありましたね……これはニーアと出会う前の出来事なので、昔も昔、それはもう大昔のお話ですけれど。ちょっと懐かしいです。
「私は生まれた時から吸血鬼ですよー」
かるーい気持ちでカミングアウトしてみると、リリィの表情がはっきりと判るくらいに強張ります。
「え、真祖の吸血鬼ってこと……?」
「とぅるー?……まあそれが何かは分かりませんが、ヴァンパイアではありますよ」
とぅっとぅるー、流行りの挨拶みたいな響きですね。ちょっと古いですか、さいですか。
「……血、吸ってないの?普通に死ぬよ?」
「その……確かに、体調は悪くなる一方でしたけど」
「そりゃそうでしょ。私みたいな「血」が薄い吸血鬼でも吸血しないとヤバいっていうのに」
――血吸いの化け物という神話から生まれた存在は、どう足掻いったって血を吸わずには生きていけないということ……ですかね。確かに「後期」は歩くことさえしんどいような状態でした。あのまま行くところまで行っていたら、本当に死んじゃってたのでしょうか?
「でも目覚めてからはすこぶる体調が良いんです。今は吸わなくてもヘーキです!」
「なら良いけど……」
心配するような目線を感じた私は、今は元気ですよとアピールをしてみます。それが功を奏したのかリリィは納得したようなしてないような微妙な表情ながら、ひとまず頷きます。
――さて、問題はアリス。さっきから混乱しすぎて頭がパンク気味になっている彼女です。
「えーっと、つまり……何故か、私の周りには二人も吸血鬼の子がいたってこと?」
「そうだね」
「ですね」
難儀なものですね。それは動揺もしちゃいますよ。リリィに聞いたところによると、彼女がアリスに吸血鬼だとカミングアウトしたのは、偶然にもこの前の邪悪の魔女討伐の日の夜だったそうで……。つまるところ、立て続けに周りの人が吸血鬼だと分かったのですから、動揺もしない方が無理な話です。
「ま、まあ種族なんて飾りだよね。……リリィはリリィ。イリアちゃんはイリアちゃん――特に何も変わらない、よね?」
「ですね。……他の人に内緒にだけして貰えれば大丈夫です」
続けて、顔を真っ赤にしながら、いつもと違うか細い声で、とんでもないことをいうアリス。
「で、でも……2人から吸われちゃったら枯れちゃうかも……?や、優しくしてね?」
混乱しすぎているのでしょうか。食べられる前の子羊みたいな表情で、首筋を押さえながら上気した顔でそんなことをいうアリス。――これは、もしや私……誘惑されてますか?それとも、冗談?……普通に我慢出来なくなっちゃいそうなので、そういうアブナイ言動するのやめてほしいんですけど。……本当に。
「大丈夫です。吸いたいのはやまやまですが、私は吸血しませんから」
「え、な、なんで?」
「なんでって、さっき言った通りです。私は目覚めてから吸わなくても平気になったんですよ。……寧ろ、一度吸っちゃうと止まらなくなっちゃうかもです」
「あ、そうだったね」
混乱のあまり良く話を聞いていなかったのでしょう。……いつも冷静な彼女にあるまじきミスです。年相応に感じられる今の動転したアリスは非常に可愛らしいのですが、これでは話が進みません。仕方ないので、手を握って落ち着かせようと試みます。
「ひゃっ」
「アリス……落ち着いて下さい。深呼吸です」
「し、深呼吸」
すってー吐いて、すってー吐いてを繰り返して。
そうするうちに落ち着いてきたみたいで、次第にいつもの調子に戻ります。……早くいつも通りに戻ってもらわないと困りますからね。主に私の理性が保つか、みたいな理由で。さっきのアリスは色んな意味で危なすぎました。
そうこうしているうちに、無事アリスは完全に正気を取り戻したよう。先程までのことを思い出しているのか、非常に赤面しながら謝ります。
「――ごめん。ちょっと動揺しちゃってた」
「全然、大丈夫です」
むしろもっと動揺してほしいくらいです。ギャップ萌えというやつです。……いや、過激な言動で吸血鬼の本能を刺激するのはやめて欲しいですけど。
そんな馬鹿な感想を抱いている私の前で、アリスは少し考えた後口を開きます。
「――みんなが隠し事しないなら……私も一つ言わなきゃならないことが……ある。……皆みたいに、深刻な事情って訳じゃないけど……、実は私も異界人なの」




