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22.5:告白

 時刻は夜、みんなが寝静まった頃。リリィ=エリアスはアリスの部屋を控えめにノックする。リリィの予想とは反対に部屋の中から「入って良いよ」と言う声が返ってきた。


 扉を開ける。薄いレースのカーテンからぼんやりと月明かりが部屋を照らしている。ベッドの上に腰掛けているアリスの横顔を何処か幻想的に、月の光が照らしていた。


「アリス……体調は大丈夫……?」

「うん。魔力も回復してきてるし、もう元気」


 にこっと笑って、元気であることをアピールするかのようにピースする。いつも通りのアリス。いつも通りの彼女の部屋。


「話があるんでしょ?ここに座ってよ」


 トントンとベッドを叩く。ふわふわのベッドに腰掛ける。


「ねえ、助けてくれてありがとう。……リリィがいなかったら、私、死んでた」


 アリスが手を私の手に重ねて、言う。温かさが手と手を通して私に伝わってくる。どういたしまして、と素直に返す。


 静寂が場を支配する。アリスは私の言葉を待ってくれているが、中々言い出せない。こうして夜中に彼女の元を訪れたのは今日の昼のこと……私の「告白」の件のかたをつけるため。だが、いざ話そうとなると、言い出しにくいというものだ。拒絶されることの恐怖やら恐れやらが相待って、直接な表現を避けて迂遠な言い方になってしまう。


「私が言ったこと……覚えてる?」

「うん、意識が無くなる直前に……少し」


 聞こえてたんだ。言わなきゃ良かった……なんて少し後悔する。あれがなければ、こんな話を切り出す必要もなく、もっと長く、一緒に楽しく居られたのに。そういう気持ちと、アリスなら拒絶しないと言う崇拝にも似た信頼が心のうちでせめぎ合う。


「どう、思った……って聞くのも変かもしれないけれど、アリスは……私のこと、どう思う?」


 目を合わせられなかった。……もし拒絶されたら、いよいよ「吸血鬼()の私」を許せなくなる気がして。恐怖されたら、かろうじて保っている「自分」が崩れてしまうような気がして。……自分で自分を殺してしまう狂気に陥ってしまう気がして。


 止まってしまった心臓が、うるさいくらい高鳴っているような幻覚を覚える。……俯く私に向けて、アリスは落ち着いた様子で口を開いた。

 

「――リリィはリリィだよ。たとえ吸血鬼だったとしても……」


 ぎゅっと手が握られる感触。……私が恐れていたような言葉や反応は返ってこなかった。全くの杞憂だった。そりゃそうだ、吸血鬼を忌避するなら、私が話をしに来るまで待っておく必要がない。……周りに言いふらせば良いだけだ。


 途端、涙が溢れてくる。……馬鹿みたいに単純だけど、「私」が認められたような気がして、頑張ってアイツから逃げて生きている今の私が無駄じゃなかったような気がして……胸がつかえる。


「何なら……私の血……いる?」


 首元を露出して冗談っぽくアリスは微笑む。


「良いの……?」

「うん、リリィだったら……。でも、ちょっとだけだよ?」


 ギュッと抱きついて、首筋にリリィは口を近づける。牙をたてるとアリスの身体が一瞬硬直する。密着すると漂ってくる花のような良い匂い。牙から流れ込んでくるアリスの血はすごく美味しくて、脳がが痺れるような甘美な快感が堪えようもなく気持ちよくて……そう思ってしまう私はもう、疑いようもなく、完全に「吸血鬼」なのだろう。


 ……でも、アリスは認めてくれた。……こんな私も私であることを。こうして、吸血させてくれることで、克明に示してみせた。……なら私も、私であろうとすべきだ。「リリィ=エリアス」は偽物じゃない。明るい私も、吸血鬼の私も、等しくみんな同じ私として……せめて「アリス」の前でだけは、アリスが認めてくれた私自身を拒絶したくない。……心からそう思えてくる。


 少し、「(吸血鬼)」を認めてあげられるような気がした夜。月明かりだけが見守る中、夜は静かに更けていった。

ここから加速していきたい所なんですけど、一旦数話だけ間話挟みます。書いちゃったから。

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