22:戦勝祭
組合に報告をしに、雨の中を出来る限りの速度で走っていくと、既に組合の中には冒険者達が続々と集まって来ていました。組合も街もこの異常事態に気づいているようで、緊急の警報であるらしい鐘の音が周期的に町中に鳴り響きます。
アリス……、アリス達は今日、急な用事でマイアナ大森林に行かなくてはならないと私に言って出発しました。……そういえばここ数日、ルーカスさんはしきりに武器の手入れなどをしていたり、メイさんも不死者の私からすると見るだけで気持ちが悪くなってくる聖水を買い揃えていたり……確かにみんな「何かと戦う」準備をしているようだったことを今更ながらに思い出します。
ただ、E級の私達に出来ることなど何もなく、応援の人員が森に向かって、どうやら神話存在の討伐をやり遂げたらしい4人を連れ帰って凱旋しました。興奮した様子のガヤがあげる声から、どうやら邪悪の魔女という神話存在を討伐したそう。
私は応援の人員が帰ってくるまで、アリス達の無事を必死に祈ることくらいしか出来ませんでした。
……もし私に力があれば、こんな時にお祈りしか出来ないなんて状況にはならなかったでしょう。もし「あの時」、強さがあれば、ニーアと今でも一緒に暮らせていたかもしれません。……力をつけねば、ならない……焦がれるほどに強く、切実にそう思います。もう一度、理想郷を作り上げた時に前回と同じ轍を踏むようではいけませんから。
この一刻ほど、恥ずかしながら取り乱してしまっていた私を励ましてくれていたファルが、組合内で組合員達に囲まれて讃えられている4人を尻目に耳打ちしてきます。
「……あの人達と、知り合い?」
「ええ、私を助けてくれたんです。いい人達ですよ、きっとファルも仲良くなれます!」
「……どうだろ。コミュ障……だから、無理かも」
「きっと仲良くなれます。後で話しにいきましょう」
本当にコミュニケーションが苦手らしく、外出するとなると出会った当初の全身鎧姿に戻ってしまったファルを連れて、近付きます。
……む、囲まれていて皆に近づけません。
「……近づくの無理そうですね」
「S級の、神話存在の討伐はそれくらい、凄いことですから……多分、明日あたりに、街を挙げて戦勝祭でも、開催するかも」
「戦勝祭?」
「……はい、今回は脅威が街に迫る前に討伐されたから実感が湧かない……かも知れないけど、街が滅んでいても、おかしくなかった、災害ですから。それを退けた英雄を讃える祭り……ですね」
国やキールからの褒賞も出るはずですよ、それくらいの偉業、ですとファルは説明してくれる。……祭り、祭りかぁ。良いですね、異世界のお祭り!俄然、ワクワクしてきました。
「明日……一緒にお祭り、回りません?」
「え……あの方達とは、良いん、ですか?」
英雄を讃える祭りなら、あの4人は主役でしょう、多分忙しいはずです。そんなふうに考えて、ファルと約束を交わします。そうこうしているうちに、2階へ通じる階段から組合長が降りてきて、ルーカスさん達を冒険者達の中から連れ出すと、執務室へ向かって行きました。……依頼の事後報告……とかそんな感じでしょうか?
まだ時刻は昼を過ぎたあたり。ファルがお昼、一緒にどうですか?と誘ってくれたのでお言葉に甘えさせて貰って、ファルの屋敷にもう一度赴きます。申し訳なさも有りますが、「頑なに断り続けることも失礼になりうる」ということをメイさんに教えて貰った私は多少の借りを作ることに対してはなるべく過剰な忌避感を持たないように努力しています。
借りを作るのが悪いことじゃない、返すことさえ忘れなければ良いだけです。私は対人関係に敏感過ぎるようである事を自覚したので、治していこうと思います。
そして、やけに広いファルの屋敷で彼女のお父様とお母様に挨拶を済ませました。……何故か、とても歓迎されました。いつでもいらして下さいね、って……流石に社交辞令でしょうけど。優しそうな目をしたご両親で、二人とも顔がすごく整っている……なるほど、ファルが超絶美少女なのにも頷けます。遺伝子って強いですね。
そして料理、感動するほど美味しかったです。the異世界といった謎の肉のステーキ(脂身は少なめ)、レタスみたいな野菜のサラダ、あとはおそらくポタージュスープ。どれも美味しく、目新しさ満載の料理は大抵お母様が作っていらっしゃるようで、本当に尊敬です。……異世界料理、できることなら習ってみたいですね。
食後、ファルと訓練しようという話になって、庭園になっていない方の中庭へ。メイドのレインさんは大剣を使えるようで、その影響を受けてファルも「大剣使い」らしいです。レインさんと言いファルといい、細身で童顔の少女が、明らかに不釣り合いなサイズの大剣を構えている……ギャップが凄いです。カッコ可愛い。
大剣を握らせて貰って多少振ったりしてみました。……金属製よりも軽い木製のはずなのに、剣に振り回されている感が否めません。……ファルが軽々と扱う金属製のやつも持たせて貰ってみたのですが、まずまず振れませんでした。これを扱う筋力が、細身なファルの身体の何処に眠っているのか……生命の神秘ですね。
「夕刻の鐘……帰らないと」
そうこうしてるうちに鐘の音がオレンジに染まった街に響き渡ります。……夕方を知らせる鐘ですね。日が暮れるまでには帰らないとアリス達を心配させちゃうので、そろそろ帰らないといけません。
「……帰る?」
「はい、あまり遅いと心配をかけちゃうので、そろそろ」
「宿屋……何処か聞いておいても、良いですか?」
「空の揺籠亭。大体、組合の訓練所かそこにいます」
「了解、です。……あの、今日は本当に楽しかった、です。また、明日……イリア」
二三言、ファルと別れの言葉を交わし、見送られて屋敷を去りました。
あなた疲れてるのよ、レベルに誤字&名前違いがあったので修正しました




