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18.5:物語は動き出す

 月が見えない、曇天の夏の夜。王都にある『魔術師達の塔』最上階。黒いローブを身に纏った女が王都の城壁……その更に奥の上空に目を凝らしていた。

 

 女の目線の先にあったのは、信じられないくらいの巨体を持つ蛇の様な龍だった。龍は花火の様に輝く幾つもの魔法陣から放たれている「光の鎖」に雁字搦めにされて、それでも尚空中で藻がいていた。まるで、()()から逃れようとでもしているかの様に。


 視力の良い女の目が遠く、龍の首元から噴き出す赫赫たる焔を捉える。龍の身体の上で跳ねる豆粒のような人影。苦しそうに悶える巨大な龍。


 女は目を細めると、胸元からペンダントの様なものを取り出し、口の端を歪めて笑う。

 

「おーおー、派手にやってるねぇ」


 紅く鈍い光を放つ円型のペンダント。数日前から光る様になった“それ”は、ただの装飾品ではない。「吸血姫イリア」の血を使って作られた魔導具……この世に獲物(イリア)が存在する時に反応する血の羅針盤(高位魔導具)


 ……これが反応しているということはつまり、百数十年前、この辺りで失踪したイリアが復活したということ。探しに行く為、王都での軽い捜索を終え、身を潜める先として利用していた魔術師組合に暇を告げた。


 羅針盤とはいっても、対象の場所を教えてくれるような大層な代物じゃない。……吸血鬼イリアが最盛期の頃だったら、その馬鹿げた魔力量を探すのは一瞬で済むのだが、今は探知すら出来ないほど弱っている筈……つまり探すのは手当たり次第、自分の足を使わなければならない。だが、そのお陰で見つけさえして仕舞えば煮るなり焼くなり好きにできる。

 

 さて、確か――王都近辺の町として考えられる候補は三つほどあった筈だ。キール、ラメス、ターへ……何処から探そうか。


 女は軽く考え決めたのか、ニッと笑い、地を蹴って塔から身を投げる。自然の摂理に反して、その身体は地に吸い寄せられることなく、滑るようにして暗い宙に消えていった。

 


*****


 

 その翌日、昼頃、マイアナ大森林内にて。四人の冒険者が慎重に森を進む。木の葉から漏れる光が揺れる。不気味に静まり返る森の雰囲気も相まってか、何処か奇妙な、背筋が寒くなるような冷たい気配が辺りを覆っていた。


 先導するリリィに、ルーカスが引き締まった表情で周囲を警戒しながら言う。


「疑っている訳じゃないが、本当にヤバいやつなのか?……アリスじゃないと、歯が立たないくらいに」


 リリィは蒼白な表情で頷き、震える手を双剣に置きながら答える。……確実に不死者の元に近づいていることが、強くなっていく肌が粟立つような怖気によって、リリィには感じられた。

 

「今回は、ほんとに危ないかも……。今すぐ逃げた方がいいくらい、に」


 私は普通の女の子並に臆病だ、そう自覚している。何せ、元はただの村娘……英雄でもなんでもない、ただの一般人。


 ……本当なら、みんなと一緒に逃げたい。そう思うが、リリィは決して口にしない。ルーカス、メイ、アリス……みんななら、絶対に怖気付かずに立ち向かう。自分の命を賭してまで立ち向かう勇気を彼らは持っている。そんな英雄に、「逃げよう」なんて言葉は似合わない。

 

「俺たちがやらないとキールが危ないんだ。……あとは、進んで、その化け物を倒すだけ。何も心配いらない……そうだろ?」

「ええ、私達が前衛で耐えて、アリスが魔術を使う時間を稼ぐ……作戦としてはいつも通りじゃない」

「うん……そうだね」


 励ますような二人の言葉にリリィは少し落ち着きを取り戻し、深呼吸する。……覚悟は決まった。みんなが死ぬくらいなら、私が本気を出す。……それが私達の関係にどんな影響を与えようと、愛する仲間が死ぬのを黙って見ているくらいなら、なんだってやる!


 リリィが覚悟を決めたその時、突然。魔術の詠唱保持と並行して魔力探知を使っていたアリスが大声で警告する。彼女の背後の空中に数十の魔法陣が突如、現れる。


「私にも、見えたっ!……前方50m、その……木の裏っ!」


 アリスが叫び、翼のように展開していた魔法陣が一斉に発光する。カッと無数の閃光が見えたと思った瞬間には、何が何だか理解する暇も無く、視界が眩む。爆音が轟き、熱波と爆風が肌で感じられる。少し、遅れてまた轟音。今度は衝撃波が来なかった事を考えると、アリスが魔術で防いでくれたのだろうか。


 視界が戻ってくると同時に額にポツリと雨が降ってくる。空は魔術で天候操作された時のように、急激に黒い雲が渦巻く。次第に雨足は強くなり、やがて本降りになることが予想された。


「……防がれるなんて、意外だったな」


 アリスが呟くように発した声に応える声が一つ。


『……光魔術カ……忌々シい』


 歪み軋むような鳥肌の立つ声質。爆発の余波で辺りに充満していた真白な水蒸気のカーテンが上がると、ソイツの姿が徐々に見えてくる。……やけに見晴らしの良くなってしまった森の一帯。その爆心地から姿を現したのは、黒いローブを被った一見すると人間にも思えるような姿形の不死者(アンデッド)。しかしローブの下に見える痩せこけ骨ばった青白い肌を一目見れば確実に人ではないことが理解出来る。


 邪悪の魔女(マリス・ウィッチ)。……大昔に実在した魔術師(マギ)の成れの果て。虐げられ、人を憎み、国を2つ墜として、人の身ながら神話存在(伝説)の座にのし上がった、人類へ憎悪を向け続ける化け物。文字通り伝説と化してしまった過去の厄災は、多大なる被害を人類に齎しながらも大昔の英雄に打倒された。……しかし、彼女の怨念は生き続ける。幾度滅されようと、人類を滅ぼす為に神話存在(ミュトス)として何度でも、蘇る。


邪悪の魔女(マリス・ウィッチ)……お得意の軍勢はどこに隠しているのかな?」

『……無駄話に、付キ合うつもリは無イ』


 アリスの問いに答えるように邪悪の魔女(マリス・ウィッチ)が右手を肩の高さに掲げる。途端、空気が溶けるように滲んで、魔女の後ろ、そして私達を扇状に包囲するように数十体の強力な不死者(アンデッド)が姿を表す。高度な隠蔽(シール)系の魔術で隠されていたのだ。


「さあ、作戦通り行くぞっ」


 ルーカスの掛け声と共に私は駆け出す。アリスが放った二射目の閃光によって数体の不死者が消し炭にされて、長きに渡る死闘の戦端が、今開かれた。

後で改稿するかもです

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