18:鎧少女とメイド
キールに来てから数日くらい後のある日。
アリス達は今日急用が出来てマイアナ大森林に行ってくるとのことで、少なくとも今日丸一日は留守番。なので、暇です。ここ数日、午前中にやっている身体強化の訓練も無しで午後からやる魔術の訓練もお休みなのですから。
「暇……」
――そうだ。自主練でもしましょうか。
そう思い立って、魔術師用の訓練場に行く為に冒険者組合にむかいます。
そういえば、魔術師用の訓練場って基本過疎っているそうですね。理由は実践形式で試合してみたり、実際に魔術を撃ってみたりする必要が薄いから……普通なら迷宮に潜ってみて試すらしいです。……でもまあ、過疎っているとは言え、訓練場は訓練場……魔術の使用で近隣に被害が及ばない様に、頑丈な結界が張られています。魔術を使えるとは思えませんが私が好き勝手試してみて、暴発してあらぬ方向に飛んでいったりしても全く無問題というわけです。
組合内はそこそこの賑わいでした。ここ数日ですっかり顔見知りになった受付さんと会釈を交わし、広間を通り抜けて、一直線に訓練場へ向かいます。
「あの……、すみません」
後ろから聞こえてくるか細い声。まさか、私に言ってきてる訳じゃ有りませんよねーと思いつつ、一応確認する為に振り向こうとした瞬間、肩をチョンチョンと突かれます。……!?え、私ですか!?
「……は、はい、何でしょう……?」
精一杯の笑顔を浮かべて、お相手の方に向き直ります。そこにいたのは、ピカピカに輝く全身鎧……から響く場違いなほど控えめな、可愛らしい声。脳が激しく混乱します。
「えーっと、友達……に、なって欲しい、です」
「……ともだち?」
ともだちって、あの友達ですよね。仲が良いひとみたいな意味の……、え?
……見た目のギャップで脳がやられてしまったらしく、未だ混乱しっぱなしで話が理解できません。そんな混沌とした状況を見兼ねたのか、
「突然の非礼お詫び申し上げます。……お嬢様、先ずは名乗っては如何ですか?」
混乱を助長する様に新たな人物が登場します。聞き覚えのある声で、こちらに深くお辞儀して非礼を詫びてきたのは、メイド服を着た少女。金に近いきめ細やかな茶髪を後ろで括り、フリルのカチューシャで着飾っている少女は目鼻立ちが整っており、耳が生えていないことを除けば、まるで私の旧友でもあり、命の恩人でもある“ニーア”そっくり…………。……そっくりと言うか……ニーア?
私があまりの驚きに言葉を失っていると、“お嬢様”と呼ばれた全身鎧が抑揚に欠ける声で
「……私はファルアー=キールと、言います。気軽に、ファル、とか好きな様に呼んでください」
「……よ、よろしくお願いします。私はイリア……イリア=アークノルド。好きな風に呼んで貰えたら、嬉しいです」
沈黙が舞い降ります。どうやら、ファルという名前らしい鎧少女の方へちらりと視線を送ってみますが、顔まで覆う全身鎧のせいで、全然表情がよめませんっ!会話しづらすぎます……。
……なんの話振りましょうか。て、天気とかで良いかな……?
「イリア様。一度、場所を変えさせて頂いても宜しいでしょうか?」
「は、はい」
謎の空気を取り払ったのはニーア……に滅茶苦茶似ているメイドさん。その提案をよく考えないままokすると、ではこちらへ……と手を引かれて組合の外へ連れていかれます。日差しの元にでたら、隣を歩く全身鎧が光を乱反射してあまりにも眩しいです。
「あのー、その……ファル、は何故私に声をかけたのでしょう?」
「……それは、イリアが、異界人だから……」
「なるほど、です」
なるほど……?異界人だから?、声をかけたらしいです。謎です、大混乱です……まずまず、大通りを全身鎧が歩いている状況も違和感と言ったら違和感ですし……いや、もしかしてこの時代では普通だったりするんですかね?
混乱しつつもメイドさんについていくと、到着したのは目を見張るほど大きく豪奢な邸宅でした。鉄柵と生垣に覆われてよく見えませんが、中庭も広そうです。全身鎧のお嬢様が押すと細かい装飾がなされた鉄製の門扉がキィと音を立てて開きます。
「入って……どうぞ」
「……お邪魔します」
屋敷にお邪魔させて貰います。
途端目の前に広がるのはあちらこちらに咲く青系統の美しい花々。可憐な青い花が咲いている煉瓦のポットが宙に吊られていたり、煉瓦の花壇に咲く一面水色の海があったりします。
そんな手入れの行き届いた花いっぱいの庭をずんずん奥に進んでいくと、少しひらけた場所があり、そこには、小さなテーブルと椅子数脚が並べられていました。華麗な装飾が施されたアンティークな金属製の代物で、まるで童話の中でお茶会に使われているかのような印象を抱きます。お嬢様という呼称といいこの広い中庭といい……さてはファル、あなた貴族ですね?
「こっち……座って、下さい」
ファルが椅子を引いて、私を招きます。私を見事にエスコートしてみせると、対面するような形でティーテーブル越しに彼女が座ります。全身鎧は特別な物なのか、全く音がしません。動く時にガチャガチャうるさそうなイメージありますけど。いや、静かなのは別に良いんですが、何というか……兜だけでも外して欲しいです。表情が分からないのでコミュニケーション取りにくいです、さっきから。
「……その、これは聞いて良いことなのか分かりませんが……どうして全身鎧を着込んでいるのですか……?」
「それは……色々事情が、あります」
「……差し支えなければ、ヘルムだけでも外しませんか?……お茶が飲めないでしょう?」
「確かに……忘れてた。外します」
おぼつかない手付きでヘルムを外すと、さらさらとした金髪が束になって姿を現します。整った顔立ち。凪いだ湖面のような美しい碧の瞳。お人形さんみたいに綺麗な、多分リリィと同じくらいの年の少女。……私の周り、美少女多すぎませんか?目の保養になりすぎます。
「その、あんまり……見ないで……」
あまりにイメージ通りな金髪碧眼の美少女を前に、感動して見つめすぎてしまっていたのか、手で視線を遮られます。照れてしまったのか、少し上気した頬で恥ずかしそうに身を縮めています。……可愛い。可愛すぎる。……そっちの気は全く有りませんが、こうも照れられるとちょっとこう、来るものがあります。
「ご、ごめんなさい」
「……別に、嫌なわけじゃないん、ですよ。……その、少し、人見知りというか……」
籠手を外して、メイドさんがいつのまにか用意してくれていた紅茶に口をつけると、落ち着いたらしくゆっくりと言葉を紡いでくれます。どうやら、気を害してはいなかったようです、良かったです。
「あの、本題に入っても、良いですか?」
「ええ、もちろん」
というか、私からすれば早く本題がなんなのか知りたい気分……こっちは何がなんだか分からないまま連れてこられている訳ですし!世界が別だったら誘拐ですよ、誘拐!
……でもまあ、美味しい紅茶と、美少女が見れた眼福の分で割と気にしてませんが。……今日暇だったので、新鮮で楽しい気持ちもあります。
「……ここでの会話は内緒にして、欲しいんですが、お願いできますか?」
はい、勿論!と力強く頷きます。そんな私の耳を少し信じられない言葉が通り過ぎていきました。
「あの、イリアの出身地って地球、ですよね……?」




