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16:マイアナ大森林

Ep.0を追加しました。並びにEp.1及び2の文章を少々改善しました。

 視界いっぱいに広がる、瑞々しい若緑色の平原もこの日のうだるような暑さの前では少し萎びている。穏やかにも思える緑の波の中、リリィ=エリアスは過去類を見ない程、神経を尖らせて臨時パーティの面々を先導していた。


 風が運んでくる熱気や爽やかな草原の香りは平和そのものだ。だが、何故だかリリィは“嫌な予感”を感じていた。それも、今すぐ引き返したくなるほどの、背筋を撫ぜるような気配。それも、リリィ達の目的地……マイアナ大森林に近づくごとに強くなっている。


 気のせいかも知れないが、“嫌な予感”と言うものは信じた方が良い。一般人よりも感覚が遥かに鋭敏な冒険者の勘は良い方であれ、悪い方であれ、よく当たるのだ。

 やはり、言おう。リリィはそう決心すると、臨時パーティのリーダー、ソロのB級冒険者であるガラルに撤退の進言をする。臨時とは言え、パーティを組んでいる以上リーダーに判断を仰がねばならない。それは冒険者のある種の掟のようなものだ。


「……あのっ、リーダー。撤退を提案します、嫌な予感がするんです」

「嫌な予感だぁ……?」


 熊のような大きな体躯を誇る男は顔を顰めて周囲を見渡す。注意深く数度マイアナ森林に意識を向けるが、すぐに怪訝そうな表情で首を捻る。


「おいっ、お前らは何か感じるか?」

 

「いや何も」

「私も特に。」


 何も感じ取れなかったのは、若き魔術師(マギ)、リリィと同じC等級である青年ウェリーと、リリィの顔馴染み、組合(ギルド)で会うと必ず話すくらいには気心の知れた神官(クレリック)である女性ペペーナも同じだったようだ。


「……だそうだ。B級の俺が感じ取れてねえ“嫌な予感”とやらを専門の斥候役(シーフ)でもないお前さんが感じとれるとは思わんがな。気後れしているだけじゃないか?」


 ダメだ、全く信じてくれていない。そりゃそうだ、私だって同じ立場なら気配察知に長けた盗賊(シーフ)でもない小娘の戯言なんて、取り合わないに違いない。

 ……だけど、駄目だ。それじゃ駄目なんだ、今回ばっかりは。今回だけは、信じて貰わないと、私たち全員死んでしまう。マイアナ大森林が目と鼻の先の所まで近づいたことによって嫌な予感は確信に変わった。

 

 私には、B級(ベテラン)の戦士であるガラルさんさえ感じ取れなかった、微かな、しかし確かな“死の気配”を感じとれる理由がある。その理由さえ言ってしまえば、みんなの命は助かるだろう。……この街に私の居場所は無くなるけれど。


 リリィは数瞬考えて、その選択肢を放棄する。


 ――やっぱり、言い出せないし、言ったとしても信じてくれない。私が、中位吸血鬼(ミドル・ヴァンパイア)……人類の敵だなんて。


「そう、ですよね。……変なこと言って、すみません。」


 リリィは無意識に顔を俯き唇を噛む。マイアナ大森林の奥に感じる気配は、過去に彼女が従属させられていた高位吸血鬼(ハイ・ヴァンパイア)から感じるものに似た、不死者の濃密な“死”の気配。リリィよりも遥かに格上の怪物の気配だ。……それも、ガラルが気づけないほどまで息を殺して身を潜める‘’知性”すらある。



 

 ――みんなが死んでしまったら、理由を言い出す勇気もない私の責任だ。せめて、助けるために、力を使う覚悟をしなくちゃならない……でも、本当に出来るの?自分自身への疑問が頭をよぎる。――臆病者の私に?


 そんな尋常でないリリィの様子を見て、ガラルも多少気を使ったのか、頬を二、三度掻いて、言う。


「まあ、なんだ……慣れねえうちは恐怖に腰が引けちまうなんて、よくある事だ。……そんなシケた顔すんな」


 見た目に似合わず優しい人だ、とリリィは思う。それと同時に自己嫌悪で死にたくなる。本当に最低だ、反吐が出る。勇気が無いだけ、臆病で、持つ者(力ある者)なのに、持たざる者(弱者)の様に思考して、逃避して――なのに、一端(いっぱし)に罪悪感なんて覚えている私が許せない。他人を犠牲にしてまで、“人間”として生きようとする蛮行が許されて良いわけが無い。――そんな『自己否定』の言葉が心に突き刺さる。


「……森の中まで確認してさっさと終わりにしよう」


 寡黙な青年、魔術師のウェリーがそう言うと、立ち止まった私に代わってガラルが先導して歩き出す。止まっていた行軍が再開される。


「コイツの言う通りだ。早く終わらせて酒場にでも行こうぜ」

「えー、飲むの?私、酒苦手なんだけど」

「へっ、なら牛乳(ミルク)でも飲んどけ。こういうのは、親交を深める為にやるモンだ。……パーティでも組んだらどうだ?ソロの神官(クレリック)さんよ」

「余計なお世話よ。私はソロが好きなの……でもまあ、今日くらいは付き合ってあげても良いわよ。臨時とはいえ、パーティ(仲間)なんだから」

「ふんっ、素直じゃ無いな」

「……ならあんたもその荒々しい口調止めなさい。誤解されるわよ」

「それこそ、余計なお世話って言うやつだ」


 仲良さげに話している声も、リリィの耳には入ってこない。緊張した面持ちで腰に差して携帯している双剣を見つめながら歩く。その首筋をつっと冷や汗が伝った。 

ep.0を追加しました。


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