14.5:メイ=グラントの償い
場所は、宿屋の酒場。上品な雰囲気漂う、酒場というより喫茶店めいた雰囲気の一角にある丸テーブル。
儚げな雰囲気を放つ少女を新しくとった部屋に案内して、メイ=グラントは息をつく。
「メイ。大丈夫か?」
「ええ、大丈夫。……ようやく一安心出来るわ。」
“ルー”こと、メイ達のパーティである「光剣」のリーダーである剣士、ルーカス=ファーブニルが案じるような表情でそう言う。
「イリアちゃんも中々気を許してくれないね」
「まあ、当たり前でしょう。恐らく、転移してきて混乱しているのよ」
アリスは、明るい口調で言う。……確かに、中々、イリアは頼ってくれない。
弱いけど、自分で生きたがる。人に迷惑をかけることを恐れている。いや、人そのものに関わりたがっていないのだろうか。……そして、何より無性に「生き急いで」いる。
「でも、段々心を開いてくれているようには感じるけどな。俺は時間の問題だと思う。幸い、一年という時間を訓練に費やすことには納得しているみたいだったしな」
「……そうね、ゆっくり手助けしましょう。リキルくんみたいになって欲しく……ないから」
今、焦っても仕方がない。過去、亡くした異界人の少年のことを思い出して、改めて誓う。二度と、救える筈だった命を、手のひらから溢さない。
漂ってしまった沈黙の重い空気を払拭するように、アリスが明るい声をあげる。
「そういえば、イリアちゃん、魔術の才能持ってたよ。それも、ほぼ全部オールA」
「え、マジかよ。羨ましい」
魔術の才能が皆無なルーカスが羨むような感嘆する様な声を上げる。
「なるほどね、あの子はそっち系かー……」
異界人は往々にして特異な才を持つ。それは例えば、異質かつ強力な固有スキルであったり、あり得ない程秀でた身体能力だったり。
何故、異界人がそれほどの能力を持っているのか不明だが、一説によると“世界の壁”を超える時に、異界人の持つそれぞれの身を焦がすほど強い願望が具現化している……なんて言われたりしている。
それがどうやらイリアの場合は圧倒的な魔術の才という形だったというわけだ。
「珍しいわね、固有スキルじゃ無いなんて」
「確かにね〜、『万能の勇者』くらいじゃない?全属性適正持ちの異界人なんて」
そういえば、と難しい顔でアリスが言う。
「イリアちゃん光属性魔術は少し苦手みたいだから、私じゃあんまり力になれないかも」
「風の適正はあるよね!なら、私も教えたいっ!風属性ならちょっとは自信あるよ?」
それまで黙って話を聞いていたリリィが手を元気よく上げ、言う。
「んー、じゃあ、風属性はリリィに任せようかな」
「やったぁ!ありがと、アリス〜」
懐っこい笑顔を浮かべて嬉しそうに、アリスに抱きつくリリィ。
「因みに1番得意な属性はどれなの?」
「んーとね、確か闇属性で、適正“S”だよ」
「S⁉︎……万能の勇者よりも上ってこと⁉︎」
属性適正とは、万能の勇者シンヤが作ったシステムの一つだ。それゆえに、適正測定水晶で測った属性適正はシンヤ様の能力に、相対性をもつ。
EからBまではシンヤ様以下、ごく普通の適正を示す。Aランクになると、シンヤ様と同等レベルの属性干渉を持つ。それより上のSが示すところは……女神の加護を受けた彼を上回る適正を持つということ。
勿論、必ずしも適正が強さとイコールであるわけでは無い。……又、適正は、“才能”を示す訳でも無い。正確に言うと、適正とは魔力に属性のイメージを伝える力……属性干渉の強さの指標である。訓練次第で変化するからこそ……、魔術未経験でこの適正は“才能”だ。
「まだ、修練を積んでもいないのに、適正Sって……、末恐ろしいわね」
「ほんとにね、私じゃ荷が重いかも。……王都の魔術学院にでも任せた方が良いかもね」
アリスはくすりと笑って冗談めかして言う。案外、良い案かも知れない。王都……グランツェはアイバス王国の主要都市であり、魔術の研究機関も相応の質を誇っている。私達で基礎だけ教えて、後は本職に教えて貰った方が彼女のためになる可能性は高い。
「王都か……。そうなると、組合長の話が懸念点だな」
「多分、大丈夫よ。あの龍は《忌狩り》が嬉々として狩りに行っているという話だったでしょう?」
組合長から聞いた話では、今、王都は大変な騒ぎになっているらしい。凡そ3日前、王都近郊で神話災害が起こったのだ。顕現した神龍は王都の魔術師総出で拘束しているらしく、被害は軽微との事だ。
「……《忌狩り》がいるなら、きっと解決するよ。……そんな事より、身近な神話災害の方が心配。私達の方は、イリアちゃんの「転移」だったから大丈夫だけど……。リリィ、キール平原の調査はどうだった?」
アリスの質問にリリィが表情を曇らせる。リリィの、伺う様な視線に、ルーカスが頷く。
「じゃあ、1番始め……。私がキール平原に行った時から説明するね」
そうして、リリィは真剣かつ不安そうな表情で、ゆっくりと口を開いた。




