14:冒険者ギルド
受付嬢さんに礼をして、教えて貰った依頼板の所へ足を運びます。……私でもひとりでこなせる依頼があるか確認する為です。やはり冒険者として自立は必須、そのための下調べというやつですね。
――それと受付嬢さんに色々聞いてみた所、冒険者ギルドの仕組みは案外シンプルでした。
大雑把に利点と欠点をまとめるとこうです。欠点として、組合員の義務として、毎年銀貨10枚前後の会員費の納入。銀貨10枚がどれくらいかは知りません。今度アリスに聞きましょうか。
利点としては依頼の集約、分配、一定水準の賃金。そして、それらを支える何よりの「信用」。前者たちの方は、言ってしまえば後者のオマケみたいなものです。
信用が有るからこそ、冒険者組合には依頼が集まるし、価格競争も起きずに一定の依頼料が取れる。まあここら辺は正直当たり前のことですよね。前世でいう同業者組合なんですから。
そして最後に特大の利点。なんと、ギルドプレートは簡易では有るものの身分証明になるそうです。なんでもこの世界では、なんらかの身分証明ができる物がないと、入国審査すら受けられないらしく。……そんなわけでどちらにしても、ここに骨を埋める気なんてさらさら無い私としては冒険者組合加入はマストと言うわけです。
そうこうしているうちに依頼板の前。お昼時だからでしょうか、冒険者組合内は賑わっているのに依頼板の前には数人の人影しか見受けられません。
「えーっと……」
幅15mくらいのコルク板をさらっと見渡すとEランクと書かれた区画に依頼書が数え切れないほど貼ってあります。
ざっと、「キール近郊迷宮10階層のテトラ茸の採取」や「魔導書店の掃除」、「キール東門の警備補佐」、「鉱山都市バルトスへ向かう船の同乗、及び警護」、「キール近郊迷宮に向かう臨時メンバー募集」などなど……、実力が必要とされそうな依頼が多いですが、私でもこなせそうなものもありますね……。
……ちょっとワクワクします。依頼書を引き剥がして受付で依頼を受け、それをこなすと報酬が支払われる。なんだかゲームみたいです。……そう言えば前世にも有りましたよね、モンスターをハントするゲーム。ドンピシャの世代だったから昔ハマっていた記憶があります。
そんなわけで、依頼受けてみたいですけど……アリスに色々話を聞いてからにしましょう。遂行できなかったら違約金を払わないといけないらしいので、リスク管理は大事です。
そんなことを考えていると、いつの間にかずいぶん時間が経っていたようで、
「イリアちゃん!」
アリスの私を呼ぶ声。振り返ると当たり前ですがアリス達三人の姿が。もう、組合長との話は終わったようですね。急いでみんなの元に駆け寄ります。
「……もう冒険者登録は出来た?」
はい、出来ましたと頷くと、アリスは振り返ってルーカスさんとメイさんに聞きます。
「じゃあ、冒険者組合について知っておいた方が良いことは後で説明するとして……。……二人とも、もうギルドに用事は無いよね?」
「ああ」
「特に無いわね」
「おっけー。なら、ひとまず空の揺籠亭でリリィと合流しよっか」
早速、リリィと合流する為に宿に戻ろうという事になって、冒険者組合を出ます。組合の大扉を出ると、クラッと来るほど眩しい日光が燦々と降り注いでいます。
冒険者組合が面する大通りを沿って進んでいる皆について進んでいくと、ルーカスさんが話しかけてきたので、色々お話ししました。
ルーカスさんが提案してくれるには、俺たちのパーティに入らないか、とのこと。これは即座に厚意に甘えさせて貰いました。
パーティとは冒険者組合に所属する組合員達が集まって作る小規模の下位組織です。冒険者は危険な状況に身を投じる事になるので、協力は必須です。しかし、当たり前のことですが、見ず知らずの人とは最高の実力を発揮出来ませんし、その上、金銭トラブルなんかも多発しちゃいます。よって、見知ったメンバーでパーティを組むことが大切なんだ、と冒険者組合の受付の方でも、パーティに入ることを推奨されました。
今の一番信頼できる人達はアリス達ですから……、パーティに入っても問題ないでしょう。
ルーカスさんが続けて言います。
「あぁ、それと。……自立出来るようになるまでの生活費は心配しなくて良い」
“生活費は心配しなくていい”?……えーと、つまりどういう事ですかね。
現実的に考えて、私が冒険者として稼げるようになるまでの生活費を貸与してくれる……か、それとも贈与してくれるか。なるほど、大変ありがたいです……が、甘えっぱなしになるのは色々駄目な気がします。言ってしまえば、「私が異界人である」という嘘があるからこそ、ここまで良くしてくれるのですから。
……とはいえ、どうやって生活するかという問題もありますね。うーん、どうしましょう……?
「……そこまで迷惑はかけれません。気持ちだけ受け取っておきます」
そんなことにあれこれ考えを巡らせること数瞬、流石に申し訳無いからと意を決して断りました。……生活費はどうにかして稼ぎましょう。仕方ないとはいえ嘘をついている私のために彼らにこれ以上の負担を背負わせてはいけません。
断ったのに対してルーカスさんはにこやかに言います。
「遠慮しなくて良いよ」
「いえいえ、もう充分お世話になりましたし」
「いや、大丈夫だよ。本当に」
「ここまでして貰うのも申し訳ないですから」
そんなやりとりを何度か続けていると見かねたようにメイさんが口を挟みます。
「……イリア。生活費が稼げるようになるまでどうやって暮らすの?……野宿するとして危険を退ける実力は無い……違う?」
突然のメイさんの言葉はまさしく正論。反論の言葉一つも出しようがありません。
「そんな状態の子に断られたからって、唯々諾々と従えると思う?……自分から死に向かわせるような選択を笑って許せると思う?……それとも。そんなに私達を信頼出来ない?」
そう言ったメイさんは少し悲しそうで。それを目にした私は、深刻かつ急性の、胸が張り裂けそうなほどの後悔と自責に押しつぶされそうになりながら、どうにか声を絞り出します。
「ご、ごめんなさい」
……ああ、今気付きました。
私の行動は逆に失礼だったようです。彼らは私の事情を知らない、嘘という負い目を知らないのに、見えない罪悪感を理由に断ったら。……一見意味もなく厚意を無碍に断ってしまったら。それはそっちの方が失礼に決まってます。
「……改めて、お世話になっても……良い、ですか?」
絞り出した謝罪の言葉。「気を害してしまっていたらどうしよう……、もしかしてもう取り返しがつかないのでは?」弱気かつ臆病な自分の憂慮を……
「もちろん。……でも、ひとつだけ覚えておいてほしい事があるの。……私達はイリアを手助けするつもり。だから、困った事があったら何でも相談して欲しい」
憂慮を……綺麗さっぱり吹き飛ばしてくれる放つ言葉と優しい雰囲気。それでも気が引けるんだったら、いつか恩返ししてくれれば良いんじゃない?冗談っぽくメイさんはそう続けると、ルーカスさんが
「……俺達は見返りなんて求めちゃいない。だから、安心して頼って欲しい」
そんな、メイさん達の明るい冗談めかした雰囲気に、自責に強張っていた心身がほぐれていくのが感じられます。
……おそらく私は今、安心した様などこか緊張の抜けた笑顔をしているんでしょうね。
「……メイさん、ルーカスさん、アリス。本当にありがとう」
どこか高揚した気分のまま、すらすらと口から自然と言葉が紡ぎ出されます。みんな明るく、にこやかに私の感謝を受け取ってくれます。
いつか、恩返ししたいな。厚意で下さった生活費をお返しするのは失礼かもしれないし、何かプレゼントするとか……ですかね?プレゼントするとしたら……
そんなことを考えながら歩いていると、
「……さ、もう着くよ。あの煉瓦色の屋根、見える?」
アリスが指差した方をみます。
「あれ、ですか?」
「そうだよ〜。あれが、空の揺籠亭……私達が拠点にしている宿だよ」




