12:辺境都市キールにて
「もうすぐ到着だよ」
ルーカスさんのそんな声が聞こえたのは、私がアリスに魔術の基礎を教えてもらい始めてから数刻ほど後……馬車が森を抜け、草原の青い匂いが気持ちよく、お日様が真上に近いところで光を注いでいる……そんな時でした。
やっと到着ですか……久方ぶりにする魔力操作、意外とキツくてもう疲労困憊、へろへろです。
身体全体が筋肉痛にでもなったと錯覚するような疲労感。手の平の上に魔力を集めて丸く纏める……ただ、それだけの訓練をしたのですがこれが難しくて。初めの数時間は、球を作るなんてもってのほか魔力を集めることすら出来ず。つい一時間くらい前になって、ようやくコツを掴んで数秒くらいならできるようになりました。
アリスによると、一日二日でできるようになるものではない……魔力を自覚するのでさえも才能がそれほどなければ数年前後はかかるくらいらしいので、比較的才覚に溢れていると言える私は喜ぶべきかもです。アリスにもイリアちゃん天才!といっぱい褒められましたし。
ま、魔力の扱いが上手いのは当然と言えば当然なのですがね。私、今はニアリーイコール人間な感じですけど、生まれ落ちた時から無詠唱魔法を使えるくらい天才でしたし!別に自慢じゃないですけど!
まあ、そんなで私の集中力も切れて、休憩の兼ね合いで訓練は一旦終わり。暫くして、辺りの緑色の平原がその色を人の手の入った小麦色に変えてきた頃、遠くに豆粒のように見えていた――今から行く、そして私がこれから長い間滞在するであろう都市――辺境都市キールの城壁が大きくなってきます。
石組みの城壁は巨大で堅牢。実に異世界情緒溢れてます。辺境都市とだけ聞くとすごく田舎のように思えるのですけれど、想像しているような寂れた感じは全くなく、城門のサイズ感といい、theファンタジー都市って感じがして良いですね。
城門には兵士さんがいて、ルーカスさんが通行手形のような見せると無事街中に入ることが出来ました。
前世で言うヨーロッパ風の赤い屋根でベージュ基調の家屋が立ち並ぶ街並み。城門前の大通りは道ゆく人の活気に満ち満ちていて、特に大通りをずっと向こうに行ったところにあるという露店市はこの都市に於いて最高峰の賑わいを誇るところです。
そんな街中を、御者の青年とお別れして、向かう先は冒険者組合。メイさんの説明によると冒険者組合は冒険者達の権利を守るための同業者組合。冒険者組合には等級というものがあるらしいのですが、高ランクのランク証を提示すると大抵の都市に入れるくらいの信用……権威の高さを冒険者組合はどうやら誇っている様子です。
そして、そのことは行手に見えてきた冒険者組合の建物からも見てとれます。
遠くから見てもわかるほど一際大きな暗赤色の屋根。深みのある黒、重厚で、かつ細かな装飾が施された木製の大きな両開きの扉が開け放し。中に足を踏み入れても、お約束のように薄暗く黴っぽいとかいうこともなく、二階まで吹き抜けで、広間も開放的。壁には一定間隔にランタン型の魔導具(魔力を籠めると魔法が使える道具ですね。昔からありました)が設置されています。
人もそこそこいて、冒険者達の活気が肌で感じられます。……これが冒険者組合。これが今、私の現実。冒険者達のざわめき。活気に当てられて、微かな興奮と高揚感に浸りながら、二階へずんずん進むルーカスさん達に着いていくと、
「あれ、ルーカス達だ。今帰ったとこ?」
唐突に向かいから歩いてきた、元気溌剌とした金髪ツインテールの少女に話しかけられました。ルーカスさんが。
年齢は見た目から私と同年代くらい、つまり14,5歳くらいでしょうか。私と同じ色、美しい紅玉のような瞳は、緩くウェーブのかかったツインテール、艶やかな金髪によく似合って映えています。
ルーカスさん達の知り合いでしょうか。
「ただいま、リリィ。上層部の予想通りだったから直ぐだったよ。寧ろ移動時間の方が長いくらいで、ちょっと退屈だったな」
「8割方確定してたことだしね。……そんなことより、その子が例の異界人の子?」
どうやらリリィと言う名前らしい金髪ツインテの子はそんな会話もそこそこに、興味津々と言った様子で私に近付いて、まじまじと見つめてきます。
ふわりと漂ってくる良い匂い。この世界にも香水というものがあるのでしょうか。
「ああ、彼女はイリア。同年代だから仲良くしてもらえると助かるよ」
「言われなくてもだよ。……えーっと、宜しくね!イリアちゃん」
私に向かってぺこっと軽く一礼して、微笑んでそう言います。……なんて可愛い。元気でハキハキとした声はもはや魔性の可愛らしさです。
「イリアで良いですよ。リリィさん」
「なら私のことも気軽にリリィでいいよ」
「……じゃあ、えっと……リ、リリィ。これから宜しくお願いします」
緊張しすぎて、少し噛み気味。それでもしっかりそう言い切ると、リリィは「こっちこそ宜しくね」と言って、にこっと微笑みます。か、可愛い。本当にこっちの世界の人はみんな容姿端麗ですね、とちょっと感心します。道行く街の人たちも大抵そうでしたし。
そんな私たちの姿をニコニコと見守っていたルーカスさんは、そろそろ、と声を上げます。
「じゃあ、リリィ。俺達は組合長に今回の依頼の詳細について報告してくるよ。終わったら空の揺籠亭で。」
「りょうかいっ。じゃあ、また後でね」
軽快に返事をしたリリィはバイバイと手を振ってタタタっと階段を駆け降り、去って行きます。元気いっぱいの子でしたね。
……さあ、彼女も去ったことですし、いよいよ組合長との対面ですか。隠し事もあるので引け目も有りますし、緊張しますね。




