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10:吸血姫と月夜③

 リビングを辞して、アリスに手をひかれて、部屋に入ります。赤い高級そうな絨毯が敷かれた室内。大きめの姿見、深い黒のデスクとカンテラ。少し大きめの寝台が一つ。壁に嵌った純度の高いガラスからはささやかに夕陽がさしています。


 アリスはカーテンを少し閉めて、カンテラに魔力を注ぎ、小さな火を(おこ)すと、ベッドに腰掛けて、その隣をトントンと叩いて、私を招きます。


 私は求められるがままアリスの隣に座ります。ベッドがふかふかです。……どうでもいいですが、こう書くとイケないことをしてるみたいでちょっと……いや、なんでもないです。


「……イリアちゃん。……イグゼアさん、怖かった?」


 ……怖かったのは、本当はアリスや、みんなに(あし)き『吸血鬼(魔物)』だとバレた時の反応。でも、正直にそう言える訳じゃなく、かと言って、ほかになんとも言えず。ただ、小さく頷きます。


「……私もね、最初はイグゼアさんが怖かった。……私の全てを見通して来ているかのような、そんな言葉をいうの。……多分だけど、イリアも何か秘密にしてることがあるよね」


 見事にそう言い当てられた私は、何も言えません。


「一つ、助言じみたことするね。……イグゼアさんは悪い人じゃない。全てを見透かすような不思議な人。だけど、きっと助けになってくれる……だから、あまり怖がる必要は無いとおもうよ」


 アリスはそう言って私を励まします。……ここ数日で気づいたのですが、私は恐らく、昔の「処刑」が原因で人を信じれないようなのです。そんなイリア(わたし)の性質がどうしても、たとえ、信じてみようと決めたアリスの言葉でも、心の底から信じさせてくれない……。だから、安心できずに心のどこかに常に恐怖がある。私は、アリスの優しさに救われながら、アリスに恐怖してる。不安定な精神……自覚は、ある。


「……イリアちゃん……」


 意識のうちに俯いて、黙りこくってしまった私の手に、アリスは優しく手を重ねます。アリスの手から温かさが伝わってきて、しばらくそうしていると、さっきまでの恐怖の感情がどうでもいいくらい安らかな気持ちになります。……アリスと出会って、まだそんなに時間は経って無いですけど、旧友と同じくらいアリスが、好き……かも。そう思うのは流石に私、ちょろすぎでしょうか。


 ちろちろとカンテラの炎の微かに柔らかい光。


 ……しばらくして、アリスが静寂を破ります。


「……イリアちゃんは、記憶の欠損とかは無い?」


「……前世、ですか?」


 うん、とアリスが頷きます。……しかし、記憶の欠損……ですか。直ぐには思い浮かばないですが、頑張って、思い返してみましょう。


 ……私の名前は周防明里、東京住みでブラック企業就職。趣味は旅行、でもブラック勤めだからなかなか行けなくて悲しかった。前世で出来なかった観光……、今世ではしたいなぁ。頑張って働いて、働いて気づいたらこの世界……。……よく考えたらそれ以外覚えて無い……、ですね。小さい頃とか、友達とか、前世の色々とか。


「……あ、身近なことは覚えているのですが、子供の頃とか、西暦とか、思い出そうとしてもぼやっとしてる……気がします」


 イリアとしての記憶も、よく思い出そうとしてもあやふやな所がありますね。


「……なら良かった。」


 アリスがそう言って、少し微笑みます。……でも、その笑顔は儚げで、いつもと違って少し翳りを含んでいる……そんなふうに見えました。……揺れるカンテラの光が陰影を濃くして、そう見えただけかも知れませんが。

 

「……異界人は、世界を渡る時に記憶を喪ってしまうんだ。固有スキルの獲得の時もそう。強い力には大きな代償が伴う……そう言われてるんだよ」


 重なったアリスの華奢な手。そこから微かな震えが伝わってきます。


「……わたし、私……は。」


 アリスはぽつりとそこまで言って、それから言葉が出ずに口を閉じます。


「……なんでも無い。急にごめんね。……そろそろ寝よっか」


 どうしたのかな、と心配する私をよそに、アリスは明るくそう言うと元気よく立ち上がって魔力を高めます。


『浄化の祝福を、ここに』


 そうアリスが言うと、アリスの手から綺麗なキラキラと光る粒子にようなものが溢れて、私とアリスを包みます。微かな暖かさと清涼感。先程の影がかかった様子が見間違いかと思うほど、いつも通りになったアリスによると、この魔術はアリスが自分で創り上げた光系浄化魔術の一種らしいです。なんでも、服や身体の汚れとかをキレイに落としてくれる魔術らしいです。……便利すぎません?


「……魔力消費がおっきいから、便利だけどあんまり使っちゃダメってルーに言われてるんだけど……、今日くらいは……ね?」


 そう言って、悪戯っぽく微笑むアリス……天使ですか。……ふとした仕草が可愛すぎます。愛してます……冗談です、アリスが可愛いのは紛れもない真実ですけど。


「……今日は疲れただろうし、そろそろ横になる?」


 アリスがそう言って、私が頷いて、すぐに寝ることになりました。二人で同じベッドに横になって、アリスが色々な話をしてくれることになって。アリスが通っていたという南方の魔術学校の話や、エラードという迷宮で冒険した話などですね。そして、その“異世界っぽさ”にワクワクしていると、眠気が襲ってきて。……そんなで意識は沈み、私は束の間の眠りへと誘われていくのでした。

イリアの言ってる好きは、それだけ心を開いてると言った意味です。友愛的な?

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