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二日目・前編

トビアスの机は、ペンと紙の擦れる音で満ちていた。

指先が黒くなった手が、一文字ずつ丁寧に文章を書いていく。階下からは少し前から、数人の話し声が聞こえていた。母親と父親、そして昨日友達になったニアは判別できる。


あと二人分の知らない声も聞こえていた。それがお医者様達なのだろうという予感があった。時計が約束の時間を知らせる。ちょうど手紙を書き終えたトビアスは、椅子から立ち上がって、インクが乾くのをそわそわしながら待った。


たくさんの足音が階段を上がってきた。最初に部屋へ入ってきたのは険しい顔をした父親で、次に母親が涙を拭いながらやってきた。

そしてニアがやって来る。残りの足音は廊下で止まった。

「こんにちは、トビアス。体の調子はどう?」

「ニアお姉さん、こんにちは。今日はあんまりいたくないよ」

「よかった。少し手を握らせてね」

「はぁい」


差し出された手をニアが包み込み、柔らかな光が生み出された。

昨日と同じくトビアスの体へ染み渡っていく。

父親がニアの手首を勢いよく掴んだ。

「それが。それを……息子を悪魔の力に依存させようと言うのですか」

「先程お話した事が全てですわ。……とはいえ、私も浅学非才の身。ここは専門知識を持つ二人に任せたいと思います」


ニアが父親を、そして母親を見つめる。父親は小さく謝罪して手を離した。母親がトビアスを抱きしめる。ニアはそっと部屋の隅へと移動した。

「私のかわいい坊や。トビアス……ッ、う、ぁ」

トビアスの肩口に顔をうずめ、嗚咽を漏らし始めた母親に、トビアスは心配そうな顔をする。

「お母さん、どうしたの。どこかいたいの? ニアお姉さんに手をにぎってもらう?」


雰囲気がよどみ始めた室内で、ただ一人トビアスのみが首をかたむけていた。ドアが強めにノックされる。

「そろそろ診察をしたい。入室していいか?」

「お医者さま! はぁい、どうぞ!」

元気よく返事をしたトビアスを、母親が強く抱きしめる。

ドアがゆっくりと開き、入ってきたのは鷲の頭部をもつ青年と、頭部に猫耳を生やした長髪の女性だった。


「お医者様、こんにちは! トビアスです!」

「こんにちは、トビアス。俺はヨノンだ。今日は君を診察しに来た。こちらの女性は薬師で、ハルディンという」

猫耳が生えている女性が会釈する。

「ハルディンです、よろしくね。気軽にハルって呼んでくれると嬉しいわ」

「はぁい、ハル先生!」

香水だろう。爽やかなレモンバームの香りが、陰鬱に傾きかけていた部屋の空気を一新していく。

「ヨノン先生は、きぐるみが好きなんですか?」

「きぐるみではない。本物だよ。触ってごらん」


冷たい声質のハスキーボイスだが、ヨノンから怖い感じはしなかった。

子供が好きなのかもしれない、とトビアスは感じた。しゃがんで目線を合わせてくる鷲の、人でいう頬に当たる部分へ触れてみる。温かい羽毛の奥から確かに脈動を感じた。鷲がトビアスの頭を優しい手つきで()でる。

「旦那様、奥様。診察は終わりました」

驚く二人を意に介した風もなく、ヨノンは嘴を開いた。


「この子は不治の病です。現代医学では治せない。そして――」

父親に向き直ったヨノンは、その鋭い目で彼を見据えた。

「そして、この子の未来はあと三日しかない」


爽やかなレモンバームの香りが、場違いなほど香っていた。

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