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夢持たぬ者

 一人、彼は道を歩いていた。とても細い、一本道だ。


 その道は誰かに敷かれたものであり、通ることを命ぜられた道であり、そして彼の意思無き道だ。


 彼は高校生だった。今年受験を控えている、一人の高校三年生。


 見た目は大した特徴も無く、整った容姿でなければ、社交的で明るい雰囲気でもない平凡な見た目。唯一トレードマークと言えるものは、右の後頭部からぴょこっと跳ねた寝癖の後。


 性格も暗くそのせいか友達も少なく、ましてや彼女などいるはずも無い。常にいつも、一人で過ごしている。


 彼は帰宅途中だった。九月頃の午後六時半頃、夕日に照らされた真っ赤な空の下で猫背になって背負っているバッグを無駄に重そうにしてゆっくりと歩いている。


 彼はふと俯き、一言呟いた。


「……めんどくせ」


 これが彼の最近の口癖だった。静かな場所にいると、決まってこう呟くのだ。


 なぜこう呟くのか、彼には明確に理解出来ていた。勉強をする事が、あまりにも嫌だったのだ。


 受験生という肩書きを背負わされ、特に目標もないのに、周りの人間たちから『大学に行け』『賢くなって立派に生きなさい』『家を出て自立しなさい』と毎日毎日、親に先生に親戚に言われる始末。


 頑張る目標、夢を持ってすらなない彼にとってこの言葉たちはあまりにも障害だった。


 だが、彼は受け入れるしかなかった。


 なぜなら、この言葉達が正しいと理解しているからだ。そして反論できないことも同じく理解していた。


 彼は成績が良くなかった。クラス内順位はいつも最下位、全体でもあまり良い方とは言えないほど勉強が苦手だった。


 そんな彼が周りに何を言ったところで相手にして貰えないことなどは言うまでも無い。


 だが、やはり自分の本音には逆らえない。


 自分を騙してまで無理に努力することなど、彼には到底できなかった。


 努力する目標も無いのに、何をしろというのだといつも心の中で周りに対しての不満を募らせている。


 最近の歌によくあるフレーズとして『夢は叶う』だとか『努力は裏切らない』だとか『夢の数だけ人は強くなれる』などと言っているものが多いが、彼にはひとつも当てはまることなどない。


 そう、彼に「夢」は無い。


 目標も、信じる道も、逸れる脇道も休める場所も。


 ただ周りが黒く覆われた景色の中に見えるたった細い平均台程度の幅しかないような一本道。


 それが、今の彼の心の中にある唯一の道。


 この道は、誰かによって生み出されたものであり、彼が無意識的に伸ばしてきた道だ。


 何も考えず、ただ言われた通りの道を言われた通りに作り、伸ばしただけの道だ。


 そこに意志はなく、まるで機械のように効率と正しさだけを詰め込んだような味のない淡白なもの。


 その結果、今彼は思春期と言う心の荒波と受験生であるという圧倒的な現実によって、慣れない人間性を抱き、この現実を直視させられている。


 あと一年で、人生における大きな分岐点を決める戦いが始まる。だと言うのに、自分の進むべき道は、取るべき行動が一つしかない。


 この現実を受け止めた時、既に彼に逃げ道はなかった。作っていなかったからだ。周りが作る暇を、その案を出さなかったからだ。


 逃げずに目を逸らさずに立ち向かうよう、仕向けたからだ。


 彼に意志があれば、早く自立できていれば、逃げ道を作る暇も、休憩所を作ることだって出来たはずなのに。そんな道は、もうどこにもなかった。


 だから彼は、無気力ながらに、誰もいない寂しい道で、絞り出すように、逃げるようにこう呟く。


「……めんどくせ」


 夢なき者に、意志無き者に明るい未来はあるのだろうか。








気分で書いた。それだけです。


暗い、ですかね?

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