始まりの日、終わりの日。その二
八月三十一日、異常な熱をもった陽射しが天蓋を成す硝子から部屋を照らし出す。照明の無い空間は日の光だけが乱反射して、やけに白く感じた。そんなやけに白い部屋に、光の無い瞳で足を踏み入れる少女がいました。
◇
その光景はあまりにも非日常的だった。白いワンピースを着た華奢な少女が果てしなく黒い瞳を携えて、果てしなく白い空間に佇んでいる。
時刻は午前十時を回ったところ、少女の胃は空だった。
◇
シャワーヘッドからホースを伝って申し訳なさそうに床に落ちる水滴。
黒い瞳は奈落のようで、その目に映る何もかもが瞳の奥に落ちていく。
少女は浴槽に水を張る、水はその勢いのわりには酷く気まずそうだ。ぎこちない水で満たされた浴槽は、少女の瞳に応えるように深く深くなっていくように見える。
少女の思考は空だった。
浴槽の縁に、少女は腰を掛ける。そのまま水面に背中を預けるようにして、沈んだ。
◇
私はなんとなく水死体になってみたかった。特に理由はない。これまでだってそう、特に理由はない。私という概念が出来上がって以来理由があったことなんてない。そう思っていたが、ふと気づいた。では、私は何故生きているのだろうか。何時出会ってもおかしくなかった、それがたまたま今だっただけ。
考えないようにしていたこと。見て見ぬ振りをしていた疑問。その瞬間、なんでか分からないが酷い違和感が私を襲った。眩暈がする。黒い霧が晴れてくれない。本当はそこにあった、死という概念は生という概念と背中合わせで、つまり生きている私は死んでいる私と背中合わせなんだ。振り返ってはいけなかった──────そこには「何もない、、、」死んでいる私はいないのだから。
水死体でなければならない理由はないが、生まれて初めて理由、つまり動機のある行動に出た。
死んでいる私の在処を知りたくなった。
お出かけの気分だった。なんとなく買った白いワンピースを目にしたから、それを着た。
「行ってきます。」
そう誰かに告げて、私は沈んだ。
◇
空を映す水面に沈む気分は、幾分悪いものではなかった。
酷く白い部屋に酷く青い天蓋があった。沈まなければ気づけなかっただろう。綺麗だった。
浴槽は確かに深かった。私を包む水は冷たく、蒼かった。
蒼い水中の中で、淡い記憶の奥を見る。
だんだんと青が深くなる。意識が、遠くなる。
走馬燈は猶予だった、死ぬまでの空白がだった。
強制的に思考を加速させる、そんな空白があった。
果てしなく黒い瞳の底を感じさせてしまうほど、空白の存在感はとてつもなく大きかった。
だから、だから私の瞳は本来の機能を取り戻した。
私が通り過ぎてきた景色を視た。だから、否が応でも気づかされる。
「──────私の人生はあまりにも空だった。」
だから浮いてしまった。
そこで私は私と出会った。
時刻は零時を回った。
◆
九月一日の深夜。世界の色彩の美しさに瞳を輝かせる少女が目を覚ます。
生と死が背中合わせになっている。




