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拝啓、乾いてひび割れた夏へ  作者: 檸檬ドーナツ
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プロローグ

 今年も夏がやってきた。

 目覚ましを止めてまず考えたことは「なんで毎年こうも暑いのだろう」ということだった。つい一か月前に散々に雨も降ったのだから、もう涼しくなっていいのではないか。そんなことを考えながら起き上がる。肌がじっとりと汗で濡れている。朝から嫌な気分だ。携帯電話のロック画面を見る。時刻は午前五時半を指していた。

 ―夏休みというのに、こんな時間に起きなければならないなんて。



「虎太郎くん、写真とるのが趣味なんだって?今度広報誌に載せる写真撮ってくれないかな?」

 と、一週間ほど前に僕に言ってきたのは、武藤さんだった。

 彼は市役所勤務で、地域の催し事なんかに関わっている人だったのだが、8月8日から15日までの夏祭りの広報に使う写真を撮るために、写真撮影が趣味の人を探していたらしかった。

 というのも役所内で「今年の夏祭りを取り上げる記事はうんといい写真を!」なんてことを言い出した人がいたそうで(これは後から知ったことだが、去年の記事は写真写りが度を過ぎて最低なものだったため写真なしで掲載するという味気ないものだったらしい)、しかしまともに写真を撮れる人がいない、それなら外部の人で探そうと、簡単に言えばいうことになったという。

 僕は小さいころから何かと武藤さんにお世話になっていたし、夏休み真っ只中といっても友達の少ない僕に大したことをする予定もなかった。その上続けていたサークルでひと悶着あってむしゃくしゃしていたこともあって、何の考えもなしに「やります」と、そう答えてしまったのだ。



 というわけで、今日が夏祭り一日目なのであった。引き受けてしまった仕事なのだから、きちんとやらなければ意味がない。そのため僕は、夏祭りが始まる前から現場に行って、始まる前の状況も撮影しておこうと思ったのだ。

 僕は着替えて、カメラを手に取る。と、いつもより軽く、違和感を感じたので蓋を開けた。やっぱりフィルムが入っていないじゃないか。引き出しを開けてフィルムを取り出し、セットする。

 今時フィルムカメラなんて骨董品を使う人間は相当な物好きだと思うが、僕は古めかしい見た目や撮影したものが現像するまでわからないというドキドキが好きだった。現像するまでわからないのは広報写真を撮る上ではダメでは無いかと思ったが、武藤さんに「やりたいようにやってくれていいよ。君は心配性だからねえ、大丈夫でしょ」と言われたので、好き勝手やることにした。

 カメラを首から下げ、財布と携帯電話の入ったボディバッグをつける。靴を履こうとして、水筒を忘れたことに気づいた。僕は面倒くさいなあ、と内心思ったが、水分がないと簡単に熱中症になってしまうことを知っているので、死なないためだ、とつぶやいて取りに行く。戻って靴を履いてドアを開ける。夏の世界に、今日も入り込んでいく。


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