92
ログイン二十六回目。
あの後、ベンジャミン氏とは名もなき山の頂上で別れ、オレ達は次の山を目指す事にした。
ベンジャミン氏から貰ったお守りが効いたのかは分からないが、道中他のプレイヤーに絡まれる事なく、有意義な登山が出来たように思う。
丁度、名もなき山から六つ程山を巡った頃にはアルの風景画も百を超える枚数になっていた。………いや、いつの間にそんなに描いたんだ。
ここに来る迄に他のプレイヤーもNPCにも出会っていない。流石にここまで登ってくる物好きは居ないという事だろうか。
因みに今回登頂した山は、恐らくではあるがエンデス山から見えた他より抜きん出た山なのだと思う。眼下に連なる山脈が見えるし、何より標高がかなり高い故か辺り一面が凍結している。
いやぁ、この光景を見ていると持ってて良かった“寒暖無効”と“呼吸不要”スキル。骸骨兵の種族スキルとして勝手にくっついてきた奴等だが、このスキルが無ければここまで来れなかっただろう。物理的な身体を持っていれば凍結判定は免れないだろうし、呼吸が必要ならば酸素不足で死に戻りしているかもしれない。………アルは超生命体なので、基礎能力のみでこの過酷な環境を克服していた。
環境は問題ないが、やはりオレの最大の敵は風だ。しかし、過去の教訓を活かしてそれも克服している。何せ今のオレには腕が四本もあるのだ。これを活かさない手は無く、まぁちょっと危うい場面もあったが無事登頂する事に成功した。
後は次の山に向けて安全に下りて行くだけなのだが、大丈夫かなぁ?
特に何事もなく、下りて来る事が出来た。
嘘だ。途中足を滑らせて滑落しそうになった。あの時は流石に死んだかと思ったが、アルのファインプレーによってオレは救われ、以前のように地面サンと仲良死になる事はなかった。
そして、何事もなく隣の山を散策していたのだが、先程から妙な奴等に絡まれている。
『■■■■■■■■? ■■■■! ………■■■■■?』
先程から頻りにオレ達に何事かを話し掛けているのは、魚人だ。何でこんな所に。しかも、何語を話しているのか見当も付かない。
魚人の知り合いというと、ヒラメ氏やヴィセル氏くらいしか居ないんだが、少なくとも彼等ではないことは確かだ。
『■■■。■■■■■? ■■、■■■……』
言葉少なに、何かを確認するかのようにオレ達に語りかける巨人。背が高すぎてオレ達と視線が合わない事を配慮しているのかは分からないが、片膝を立てて座り込んでいる。
『…………■■』
そして、オレ達の周りを飛び回る複数の光の粒。何か言っている気がするのだが、声が小さすぎてよく聞き取れない。
………何、コイツ等?