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海中都市管理NPCの太陽モドキこと、都市防衛型支援機TYPE_R_04。彼女は都市の真上、空中に浮いている訳だが、そこへ行く道が無い訳ではない。都市上部に数本、彼女の近くまで行ける道が架かっており、オレ達はそこを歩いている。
因みにその道は、都市を防衛していると思われるプレイヤーが数人監視していたので、透明化と隠密モードでスルーしてきた。
彼女は既に目の前に居る。滅茶苦茶眩しいが、熱を発しているようには見えない。まぁ、オレには熱を感じ取れる機能が無いので勘でしかないのだが。
『久しぶり………いえ、初めましてですねTYPE_R_04。凍結処理されるまでの短い間に幾つかデータの送受信を行った記録がありますが、こうして会ったのは初めてですし』
『………初めまして、統制官様。それと、TYPE_R_05』
姉妹機の感動の再会って訳ではなさそうだな。いや、初っ端に警報出された時点で何だか嫌な予感がしていたが、険悪な雰囲気だ。
オレの事をTYPE_Rの統制官であると認識はしているようだが、アルのように敬意みたいなものは感じられない気がする。04の態度としては、招かれざる客が来たみたいな雰囲気か。
「初めまして………だな。オレの名前はトワ。偶然だが、成行きで統制官になった。今の所、何かをする訳ではないがこれから宜しく頼む」
………今の所はな。
何故彼女がオレ達の到着の折に警報を出したのか、その理由次第によっては、気は進まないが統制官の命令権とやらを行使しなければならないかもしれない。この都市に居るプレイヤー、特に”海の呼び声“の面子を敵に回す訳にはいかないからな。
『ところで、さっきの警報は何だったのでしょうか? アレが出たせいで、統制官のお立場が危うくなるかもしれなかったんですよ?』
オレがどうやって聞き出そうと考えていた事を、アルがスッパリと聞いてくれた。姉妹機だからか、普通ならば聞きにくい事も特に気にせず………いや、コレ意図的にやってるな。
『申し訳ありません。当機は目覚めたばかりなので、防衛機構を自律機能に任せておりまして、それが05を骸獣として認定してしまったようなのです。………統制官様はTYPE_Rの製造由来を知っておりますよね?』
「あぁ、星冥竜のコピーとか何とか………そんな事を聞いたような」
星冥竜はこの星の味方に付いたようだが、他の多くの星冥獣は敵扱いだったらしい。つまりは、星にとっての大敵だ。
星冥獣と星冥竜の違いは知らないが、恐らくは種類がちょっと違うだけで同じカテゴリの生物なのだろう。星冥竜の劣化コピーであるTYPE_Rは、分類的には骸獣と同じようなモノ………らしい。そんな訳で、彼女から離れている防衛機能がアルを骸獣と誤認してしまった………という事だ。
TYPE_R_04の主張としては、だ。アルの言う通り、オレの害になる行為は出来ないというのが本当ならば嘘では無いとは思うが、直接的には害にならない行為は可能かもしれない。まぁ、そこらへんは考えるとキリが無いので割愛。
『この拠点の近くにも骸獣が封印されておりますので、それの余波が来たのかと判断してしまったようです』
え? ちょっと待て。骸獣がこの近くに居る? そんな事を知ってしまったら、隣の奴がどうなるか分からんぞ?
『あぁ、ぼんやりと反応があるとは思っていましたが、封印されているのですか。この海域となると、アレですね。この事は拠点に集っている“旅人様”は知っているのですか?』
『いえ、知らない筈です。ここを解放した“旅人”は何かしらの情報を掴んでいるようですが、詳しくは知らない筈です』
なるほど? “海の呼び声”のクランマスターである蛸入道のカイリ氏は、何かを知っているかもしれないという事か。彼等が海溝に居るというレイドボスを倒そうと躍起になっているのも、骸獣案件だからなのだろうか。
「その旅人達は海溝のレイドボスを倒そうとしているらしいが、そのモンスターって骸獣に何か関係あるか?」
『現在海溝に居るのは、骸獣から滲み出た余波と呼ばれるモノです。かの骸獣は封印されてはいるものの、封印が綻びかけておりまして骸獣の力の一端が具現化して出てきてしまうのです』
なるほど。滲み出てきた奴がレイドボス扱いされて、“海の呼び声”はそれを討伐しようとしているのか。クラン外の連中は分からないが、“海の呼び声”、特にカイリ氏とその周辺はレイドボスが何なのか知ってそうだな。
『統制官様と05がこちらにいらっしゃったという事は、あの骸獣を討滅する準備が整ったという事でしょうか?』
「いや、それは無い。貴女がアルと同じくTYPE_Rである事を知ったのはつい先程の事であるし、骸獣がこの近くに居るという事も初めて知った。いつかはやるのかも知れないが、今ではない事は確かだ」
04は兎も角、骸獣殲滅するウーマンのアルがそれで納得するのかは分かりませんけどね。
『確かに今はまだ時期尚早でしょう。04も目覚めたばかりで機能も以前のようにはまだ復元されていないようですし』
おや? 珍しくアルが従順だ。骸獣絡みだと目の色を変えて殲滅しましょうとか言ってくるかと思ったのに。
『それに、04の機能が戻れば03の行方も察知出来るでしょう。骸獣討滅はTYPE_Rが揃ってからでも遅くはないでしょう』
『そうですね。各地で眠っている04を起動させれば03の捜索は可能でしょう。幸い、骸獣の封印は後853625007500684はありますし、それまでは、旅人達が繋いでくれるでしょう』
おや。何やらこの姉妹機から黒いモノを感じるぞ。あからさまに旅人を利用しましょうとか言っている気がするが気の所為だろうか。
それに、その矢鱈と長ったらしい数字は骸獣解放までのタイムリミットなのだろうか。単位がどういうものなのか分からないが、まだ猶予はあるという事だろう。まぁ、オレがやれる事は殆ど無いだろうがな。
「ところで、さっき04が複数居るみたいな話があったんだが、ここ以外にも同じような奴が配置されているのか?」
『その通りです、統制官様。当機は第一次製造段階で十億機程製造されましたが、その多くは大戦時に破壊、今現在確認出来るのは片手の指で数えられる程となっております』
片手の指………何の種族基準だろうか。因みに今のオレは片手が二本あるので、残存数は十以下となる。
『因みに04は全て同一機なので、お父様が言うような“同じような奴”ではなく全て同じです』
『稼働している個体ならば、意識同調を適宜行っておりますので、どの個体でもお役に立てると存じます』
なるほど。どこにいるかは分からないが、同じ意識を持った別個体が居るから、そいつを探し出すって感じかなぁ………。
まぁ、暇があったらな。
傀異討調が楽しすぎて筆が進まない。