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アルを伴いつつ泡頭達の間をすり抜け花畑を進む。この花畑も花の種類が増えたというか、彩りが鮮やかになったというか。誰かが世話でもしてるのかな。
『これは、星間大戦時に海に放出され溶け込んだ毒素を吸収し、無害な物質に変える機能を持たせた海淵草の一種ですね。開花しているという事は、この辺りの海域は無毒化された事を示しています』
「へぇ。この花畑にそんな機能があったとは」
いや、それよりも星間大戦? 何か気になる言葉が飛び込んで来たが気の所為だろうか。それに、毒素を無害化するためのモノだったとは。もしかして、他の地域には毒素が濃い海域もあるのだろうか。
『件の星冥獣は星間大戦終結間際に出現した災害です。大戦時の漁夫の利を狙って来たというか………まぁ、奴等は端的に言って宇宙のゴミなので、その考えを推測するのはリソースの無駄ではあるのですが』
星冥獣サンに対する当たりが強い。しかし、アルの“お父様”とやらも星冥獣ではなかったか? 父親をゴミ扱いとは、実は嫌いなのではなかろうか。
『確か、海淵草は開花すると余り時間が経ずに枯れてしまう筈なのですが、おかしいですね? もしかしたら、私が知っている品種ではないのかもしれません』
いや、アルが言っていたのは、毒素を分解する機能を“持たせた”ようだし、これが遺伝子改良していない原種なのかもしれない。
アルと他愛のない話をしながら海底都市に入る。頭上には、相変わらず太陽の如く煌々と輝く管理NPC。
心なしか、周囲の建物が刷新されているような気がする。
『あれ? アレは』
アルが太陽モドキを見て何事かを呟く。やはり知っている間柄だったのだろうか。
アルが見つめる太陽モドキの輝きが増した気がする。というか、実際光量が強くなっている。眩しすぎて見ていられない。
当然、この異常現象に他のプレイヤー達も気が付く。何が起きているのかは分からないが、何かヤバそうな事が起ころうとしている。やはり、アルを連れてここへ来るのは早計だったか。
『緊急通達。都市内に世界獣■■■■■が侵入……しんにゅ…、しししましましししたたたたた。都市しし………に所ぞぞ属くく…く……全ててててはががががが該当…該………在を、を…ををををををををを』
何だか見た事ある光景だなぁ。
突然辺りに響いた声は、何者かから妨害を受けたかのように音声をバグらせ、途中で断線したかのように途絶えた。
まぁ、多分隣のアルが何かをやったんだろうとは思うが、早速面倒事になる予感。それと、どうやら、あの管理NPCとアルは敵対している様子だ。さもなきゃ、あんな放送が入る筈がない。
『お父様、どうやら敵性存在が都市内に入り込んでしまったようです。ですから、ここは危険です! 安全地帯へ避難致しましょう!』
「いや………色々言いたい事はあるんだが、とりあえず脇に置いといて、安全地帯って? もしかして、外へ出るのか?」
『いいえ、お父様。安全地帯は彼処です』
そう言って太陽モドキを指し示すアル。骸骨面なので表情は分からないが、満面の笑みを浮かべているような気がした。