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まだ生きてるエレベーターなんて在ったのか。そんな物があるなら、行きで使えば良かった。………いや、あの時は一通り見て回った上で、あのシャフトを降りるしか無いと思ったんだ。となると、オレが物理的に行けない………例えば瓦礫で埋まっている先にあるエレベーターが在ったとか。
「25が偶然に発見した物なのですが、道が瓦礫で塞がれていましたので、使用するためには瓦礫を撤去する必要があります」
やはり、瓦礫の先に在ったのか。しかし、25とやらのプレイヤーは瓦礫で埋まっているのをどうしたんだろうな。不定形生物とかなら瓦礫の隙間からヌルリと抜けられそうな気がする。
「瓦礫を撤去すれば使えるかもしれない、と。他には、何かありませんでしたか?」
「エレベーターシャフトを見つけました。残念ながら籠はありませんでしたが、最近何者かが降りて行った痕跡がありました」
「誰かが降りた痕跡? 私達以外で既にこのダンジョンを攻略している者が居ると?」
「シャフト内の梯子に残された痕跡を調べた所、二足歩行の何者かでした。少なくとも“海の呼び声”ではない事は確かです」
シャフト内の痕跡? オレかな? これは、オレが居る事がバレたらヤバそうだな。
それに、“海の呼び声”といえばヒラメ氏が所属しているクランだ。言い方に若干の棘を感じたので、もしかしたら、階下に居るあの集団は“海の呼び声”に対抗しているクランなのかもしれない。
「あの海底都市のように、彼等に先を越される訳にはいきませんからね………。先を進んでいるであろう、プレイヤーなりNPCなりは発見したら処分する方向で行きましょう。ここは、我々“海の牙”が発見し管理すべき場所です。皆さんも努々忘れる事ないようにして下さい」
あの魚人、物騒な事言ってるなぁ。これは本格的にオレの存在が露呈したらヤバい事になりそうだな。戦力的にはアルが居るので負ける気はしないが、相手はプレイヤーだ。一度撃退しても、クラン単位で粘着される恐れがある。性格も悪そうだし。
ここは、とっととお暇した方が良さそうだな。彼等が何を目的で来たのか気になるが、オレの用事は済んだし帰ろう。
オレが色々と考えている間に、“海の牙”とやらの集団はエレベーター前の瓦礫を撤去する方向で動くようだ。
魔法使いと思われるプレイヤーが破壊魔法で瓦礫を粉砕し、小さくなった瓦礫を外の通路へと一纏めにしている。
クランとして統制が行き届いているのか、それぞれの動きに淀みが無い。瓦礫はあっという間に撤去され、彼等はぞろぞろと通路の中へと入って行った。
『今なら奴等を一網打尽に出来ると思いますが』
確かにここで、後ろからアルの破壊光線を放てば彼等を全滅させる事が出来るだろう。しかし、それをすると、“何者かから攻撃を受けた”と認識する訳だ。それに、あのクランメンバーを全滅させる程の攻撃だ。生半可なモノではない事は自明の理の筈だ。そうなると、次はもっと大人数で、殺意の高い装備を身に着けて来るだろう。その頃には、オレ達は既に居ないが、最下層にはカーサ博士が居る。万が一、あそこまで辿り着いてしまったら、彼女の身に危険が及ぶだろう。………いや、オレは気にしないけどね?
まぁ、下手に突く必要はないだろう。
『不法侵入者風情がお父様を処分するなんて宣うんですよ? 断じて許す事は出来ません』
「もし、奴等がオレ達を見付けたらの話だ。それに、アルが居る限り一方的に処分されるなんて事は起こらないだろう」
アルを窘めていると、通路内から何かが擦れるような異音が大きく響き、ついでに絶叫が聞こえた気がした。
「うわああぁぁぁぁああぁああ!!」
「おい! 落ちたぞ!? 大丈夫なんじゃなかったのか!? マスターは無事か!?」
通路から響く叫び声。慌てふためいて通路から出てくる何体かのプレイヤー。
あの異音と叫び声とか諸々を鑑みるに、どうやらエレベーターが落ちたようだ。やはり、見た目は原型を保っていても駄目だったか。中に何体入ったのかは知らないが、安全装置も働かない籠もとい棺桶ごと落ちたら、中に居る者は一溜りも無いだろうな。
「オレ達が手を下すまでも無かったようだな?」
『そのようですが、あの昇降機は恐らく地下十階層までの物です。流石に死んではいないかと思います』
まぁ、これで彼等に対する興味は特に無くなったな。
オレ達は、階下で慌てて走り回るプレイヤー達を後目に、上へと昇って行った。