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山と谷がある話  作者:
02.海へ行こう
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 今後の面倒臭さを思って遠い目をしていると、横からカーサ博士の声が聞こえた。


『ところで、君はここへは何をしに来たんだい?』


 朗らかに、つい聞いてみた感じを醸し出しているつもりだろうが、声質から緊張しているのが分かる。まぁ、こんな所でいかがわしい研究をしていた所に、対骸獣殲滅兵器を連れた不審者が現れたんだ。警戒するのも無理は無い。

 警戒している割には随分とベラベラ喋るなぁと思っていたが、もしかしたらコチラを殺す腹積もりなのかもしれない。殺されたとしても、アルはどうなるかは不明だが、オレはリスポーンするだけなんだけどな。


「観光だ」


『『は?』』


 声が二重に聞こえたかと思ったら、脇に控えるアルが“何言ってんだコイツ”みたいな雰囲気を出していた。


「信じられないかもしれないが、この軍事施設に辿り着いたのは偶然なんだ。それで、成り行きでアルの統制管になって、そのアルからこの場所にTYPE_Sとやらが居る事を知って、とりあえずその面を拝みに来ただけで、本当に偶然に偶然が重なった結果なんだ」


『それが、本当だとして。君はこれからどうするつもりなんだい?』


 まだ警戒しているな。当たり前か。しかし、オレは別にカーサ博士やTYPE_S_02をどうするつもりも無い。

 ゲームのイベント的には重要なポイントなんだろうが、彼女等の行末とか特に興味無いし。


「そりゃあ、TYPE_Sの面を拝んで目的は達成した事だし、帰ろうかなって」


『はぁ?』


 目の前のカーサ博士はオレの言葉を吟味するかのように黙っている。疑問の声はオレの横から聞こえた。


『お父様? TYPE_S_02は私的にはどうでもいいんですが、このカーサ博士と名乗る不審者は、ここで排除する事を提案します。統制管様(お父様)が命じて下されば一瞬で方を付けます』


 うーん、物騒! オレは無言でアルの頭にチョップを入れた。

 オレの貧弱チョップをアルは避ける事なく頭に当たり、ショックを受けたような雰囲気を出していた。


『………お父様? 何かお気に召しませんでしたか………?』


「まぁ、暴力を奮う前にオレに確認を取った事は褒めておこう。だが、個人相手に武力行使はちょっとどうかと思う。ここは、平和的にな。話し合いで解決するべきだと思うぞ?」


『トワ、さんだったかな。彼女を止めてくれてくれた事に礼を言うよ。ここには、TYPE_R_05を物理的に止められるモノが居ないからね。それで、ここから帰るつもりなのかい?』


 カーサ博士は、先程と比べて若干リラックスしたように話しかけてくる。

 彼女が言うように、ここから帰りたいんだが、上まで直通で行けるような昇降設備は無いものか。降りてきた道を辿って戻るのはかなり骨だぞ。それに、アルを見ると襲い掛かって来る奴等も邪魔だ。カーサ博士は蜘蛛怪人氏の調整をしているとか言ってたし、アレ等も何とかしてくれないかなぁ。

 ちょっと、ダメ元で聞いてみるか。


「他に特に見る物が無いなら帰ろうかと思うんだが、上まで直通で行けるような設備は無いか? それと、例の蜘蛛怪人が襲ってこないように出来ないか?」


『蜘蛛怪人? あぁ、骸獣モドキの事だね。アレ等はTYPE_S_02を介して情報交換出来るからね。それをやってあげよう。………それと、上まで直通というモノは無い。昔は有ったんだが、今はもう使えないんだ』


 やっぱり無いか。まぁ、無いなら仕方ない。それに、帰り道で蜘蛛怪人氏を一々警戒しなくてもよくなるのは良い。迂回したりぶち殺したりするのは面倒だったしな。

 カーサ博士は、初めに見た例の装置の中に入り、あれこれと操作しているようだ。相変わらずシルエットしか見えないので、何をしているのかは分からないが。


『お父様? 本当にここから脱するつもりなのですか? アレ等はどうするつもりなんですか?』


 アルが不審げに問うてくる。と言ってもなぁ。オレはさっきも言った通りただの観光的な感じで来ただけだし、何ならマップ情報を売って金にしようとか考えていただけだし。

 アルが何を危惧しているのかは分からないが、別にこの状況に手を出すべきざゃないと思うんだよなぁ。もし、やってしまった場合、またワールドアナウンスが入るのは間違いないだろう。


「統制管とやらが何をする職種なのかは知らないが、別にここは手を入れなくていいんじゃないか? カーサ博士は、星冥獣(世界の敵)を倒すための研究をしているんだろう? だとしたら、アルの目的と殆ど一緒な筈だ。態々彼女を排除する道理は無いんじゃないか?」


『それは、そうですが。………ですが、TYPE_S_02の研究は凍結されたのです。何をもって凍結されたのかは私には分かりませんが、当時の統制管様の意向を無視して研究を続けるなんて、何か良からぬ事を企んでいるに決まっています!』


 疑いだしたらそれこそキリが無い。

 アルの言う事には、多少頷ける物もあるが、カーサ博士は現時点では海の底で引き籠もって星冥獣の研究を続けているだけの無害な存在だ。………今の処は。

 それに、今ここでカーサ博士を物理的に排除してしまったらどうなるか。まぁ、どうにもならないんだが、ひたすらに蜘蛛怪人氏が量産されるだけだ。量産を終了させる目処が着いていない以上、カーサ博士が居なくなったら、今後かどうなるかは分からない。

 何にしても、TYPE_Sや蜘蛛怪人氏を管理する者は必要なのだ。

 オレとしては、カーサ博士より、いつかここに乗り込んで来るであろうプレイヤーの方を警戒しているんだけどな。

 プレイヤー達が何を目的にして来るのかは知らないが、TYPE_Sを見たらどうなるか………ちょっと想像したくないな。

 まぁ、とりあえずカーサ博士を物理的に退場して頂くのは無しだ。


「アル、言っておくが、カーサ博士の殺害許可は今は絶対にしない。ここの管理は必要だからな」


『………分かりました、お父様。今は(・・)従います』


 ………やっぱり何かあるのかな?



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[一言] この主人公、不穏の種を生む役回りなのか…
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