71
『とは言っても、僕が直接的に操作して製造している訳じゃあない。長らく停止していた機能を復旧させただけさ。ただ、そのせいで止め方が分からないのが欠点でね………。今は停止の制御コードを打ち込む研究をしているのさ』
「じゃあ、そこら辺に居る奴や上に居た奴等も、そのTYPE_S_02から造られたモノなのか?」
『その通りだとも。まぁ、アレ等についての研究は粗方終わっているし、ここには必要ないから、他の場所に放逐しているよ。僕に対しては無害になるようにしているしね。云わば外敵警報器みたいなモノかな』
なるほど。奴等が警備員みたいな真似事をしていたのはそのためか。
しかし、カーサ博士の言う事を信じるならば、蜘蛛怪人氏はこの軍事施設で造られたモンスターとなる。では、何故アルとは敵対しているんだ? カーサ博士がアルに敵意を持っているのなら、長々と喋ってないで周りの奴等で袋叩きにすれば良い筈だ。
特にアルの弱点とも言える統制管を。
「上の階層では、奴等に襲われたんだが? それに、奴等はアルを敵と見做してたぞ?」
『あぁ、アレは超劣化しているとはいえ、骸獣と同じだ。骸獣を滅ぼすために造られたTYPE_Rを見たら排除しようとするのは本能なのだろうね』
いやいや、生物を創り出したのなら、それの行末まで責任持てよ。せめて、同じ所属の奴にはデフォルトで敵意を抱かないとかさ。
『あっ、噂をすれば、だ。そろそろ生まれるよ?』
カーサ博士がTYPE_S_02を指差す。
何が生まれるって?
彼女が指す先に、TYPE_S_02の首から垂れた神経のような筋の先に丸い膨らみがぶら下がっているのが見える。
丸い膨らみはドクンドクンと脈動している赤黒い肉塊だ。それは、オレが見ている間にブチリという音を立てながら筋から切り離され、地面に落下。落下した場所に真っ赤な血溜まりが広がる。
………そういえば、あそこの地面はやけに汚れていると思っていたが、アレが落ちてくるせいなのか。
血溜まりの中で蠢くモノが見える。アレは、蜘蛛怪人氏の上半身か。脚が無いように見えるが、大元が首だけという事だし、製造するための不備でもあるんだろうか。
何処からともなく多脚戦車が近付き、モゾモゾと蠢く蜘蛛怪人氏を摘み上げ、何処かへと運んでいく。そのまま、いくつかある装置の中へと蜘蛛怪人氏を突っ込むと、仕事が終了したのか、多脚戦車は去っていく。
「………今のは?」
『今のがTYPE_Sの能力の一端だよ。兵力を定期的に無尽蔵に製造する能力。まぁ、今は戦闘能力は余り要らないから脚部を生産しないように調整してるんだけど……、ちょっと憐れみを感じてね。あの装置の中で人工的に多脚戦車と融合させて脚を生やしているのさ。まぁ、そのお陰でこの崩壊した基地の何処にでも警報装置として配置出来るようになったのだけど』
やっぱり、あの機械の脚もコイツのせいかよ。しかし、あの蜘蛛怪人氏の下半身があったからこそ、ここまで辿り着けたのは事実だ。その点に関しては感謝しないといけないのかもな。
「カーサ博士がアイツ等に機械の脚を生やしているのは分かったが………実は地下十七階で生っぽい脚を生やした個体を見掛けてな。アレは一体何だったのかと疑問が湧いたんだが」
『恐らく、自己再生能力の暴走だね。アレを機械に融合した弊害なのかは分からないけど、武器類を身体に取り込む習性があるようでね。その個体は分かりやすい銃器ではなく、同族の手足を取り込んだんだろう』
白々しく言ってるけど、戦闘能力を奪うために脚を造らないようにしたんじゃないのか? それなのに、武器類を所持使用するのを許容している? 一体、コイツの本当の目的は何なんだ?
あと、さっきからアルがずっと沈黙しているのが凄い気になる。カーサ博士の存在が不快とも言ってたし、カーサ博士自体の身体にも何か骸獣に関係しているのかもしれない。
………うーん、何だかとっても面倒な事になってきたぞ。そもそも、オレはここには観光で来た訳で。それで最下層まで辿り着いて、TYPE_Sなんていう目的の物を拝めた訳で。まぁ、他にもアルに会ったり、骨が進化したりと色々あるけど。
そろそろ帰っていいかな?