07
ログイン六回目。
墓地の外が魔境過ぎる件。
いや、全体的に見るとレベルは低いのかもしれないよ? でも、オレにとっては難易度が高いというかなんと言うか。現に禄に戦闘とかしないまま四回も死んでいるからな。
というか、普通に生命力半減が痛い。ついでに打撃弱体がクソ。
とにかく普通の戦闘が出来ていない。初心者用装備が残っていればそうでもないのかもしれないが、オレに装備も金も無いから何も揃えられない。………というか、普通の街に入れないので何かを購入とかも無理。
オレは悟った。
戦闘は諦めよう。
今までは最寄りの街を目指して森の中を彷徨いたり、横道に逸れていたりしたけれど、ここは敢えて街とは反対側に行ってみよう。
墓地の周辺案内図によれば、街と反対方向には、エルデス山脈とやらが広がっているらしい。まぁ、イッカクはエルデス山脈の麓にある訳だが。
そもそも、街に入れないのならば、街方向に進む意味は無い。ならば、山方向に進んでも良い筈だ。だが、問題となるのはその難易度。
普通に考えるのならば、平原方面に下るよりも難易度が高い筈だ。勿論、モンスター的な意味でだ。
だが、街方向で四苦八苦どころか、何も出来ずに死に戻りしているオレが行く事は出来るのだろうか。まぁ、何はともあれやってみないと分からないよな。
オレは共同墓地の外へ出て、街方向ではなく山へ向かう事にした。
第一村人………また、ブラックスライムか? こいつエリアボスの癖にエンカウント率高くない? これで二回目だぞ。
前のと同じ個体かどうかは分からないが、ブラックスライムって上位種なのだし、そんな奴が大勢こんな最序盤の所には居ないと思うので、多分オレを溶かしたブラックスライム氏だろう。
件のブラックスライム氏は、今日も元気に何かを捕食している。オレには目もくれないようだ。実際、オレは骨だけだし食いでが無いのだろう。
オレはブラックスライム氏をスルーし先へ進んだ。
ブラックスライム氏を横目に見つつ進んだ少し先、木々の陰に第二村人………ゾンビを発見した。頭上に名前が表示されていないので、ゾンビーフ氏ではない。
ゾンビーフ氏にとっては、雑魚であろうがオレにとっては強敵だ。
今回も先程と同じようにスルーする事にした。ゾンビに見つからないように少々迂回して進むのだ。
ゾンビを横目に、視界に収めつつ慎重に進む。そもそも、ゾンビってどうやって索敵しているんだろうか。脳が腐っている奴等にまともな思考があるとは思えないので、生命感知とかいうスキルを持っているのかもしれない。知らんけど。
オレは無事やり過ごしたゾンビ氏をチラリと見る。ゾンビは相変わらずボサッとその場に突っ立っている。
ゾンビに見つからずにスルー出来たところで一息吐く。何か矢鱈と疲れたな。何かこういう事してると、隠密行動とかスキルが生えてきそうだ。
瞬間、ゾンビが爆発した。
「は?」
何が起きた? いや、何故爆発した? いや、本当に爆発したのか? 何故? 火魔法? プレイヤーか? それとも?
超絶嫌な予感がしたオレはその場に身を投げ出す。
オレが立っていた場所を黒い影が通り抜けて行ったのが少しだけ見えた。
アレは、ヤバい奴だ。
ブラックスライム氏と比較とかそういうレベルじゃない。明らかに格上。ブラックスライムがエリアボスとすると、コイツはレイドボスとか、そういうクラスなのではなかろうか。
頼む。気付かないでそのまま去ってくれ。でも、木っ端ゾンビを轢き殺したのなら、オレを見逃すとは考え難い。やはり、オレには山方向はまだ早かったのか。
頼む。気付かないでくれ、頼む。
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能動的スキル、死んだふりLv1を獲得しました。
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何て?
能動的スキル?死んだふり? 何でこのタイミングで? っていうか、オレは死んだふりとかしていない。いや、ここはこれを使う場面だ。でも、どうやって“使用”すればいいんだ? 声に出したら絶望に拙いような気がする。とりあえず、寝っ転がっておく?
オレの身体がフワっと浮き上がった気がした。これアレだわ。幽体状態だわ。つまり、死んだのか? 何だよやっぱり死んだふりとか意味ねぇじゃん。
オレのそばに黒い影が近付いてくる。
何だか黒っぽい靄を全身に纏った獣、何となくだがジャガーっぽい見た目だ。
黒ジャガー氏は、放置白骨死体状態のオレに頭を近付け臭いを嗅いでいるようだ。暫し後、黒ジャガー氏はオレから顔を上げ彼方を睨む。その口元には白っぽい何か。というか、オレの骨。
黒ジャガー氏は、オレの肋骨を咥えながらテテテーと去っていった。
黒ジャガーが完全に居なくなった事を確認し、オレはむくりと身を起こす。
身を起こした事により、死んだふりが解除されたのか、幽体状態から元に戻る。
どうやら、死んだふり状態はまさに死んだ状態になるようだ。推定レイドボスすら誤魔化せるとは、中々凄いスキルなのではなかろうか。
オレは一部無くなった肋骨を摩り、部位欠損状態とLPの上限が減っている事を確認し、溜息を吐いた。