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あれから何度か蜘蛛怪人氏をアルが察知したが、障害になりそうな奴は物理的に排除し、そうじゃない奴は放置したり迂回してスルーしてきた。アルが通りすがりに瞬殺してくるとはいえ、一々相手するのも時間の無駄だからだ。
蜘蛛怪人氏の下半身乗り物は今も健在だ。余り無茶な動きをさせないようにしてきたからだろう。
あの時オレが二人乗りは止めてそれぞれで乗ろうと提案したからかどうかは知らないが、アルは蜘蛛怪人氏を処理する時に、頭部を含めた上半身破壊した後、一緒に下半身も粉々に破壊するようになった。
アル曰く、他の蜘蛛怪人氏が再利用するのを防ぐためとの事だ。本当かなぁ?
今は特に問題はないが、この乗り物にガタが来た時に乗り換え出来ないと困るな。まぁ、その時はアルに壊すなと命じれば済む事か。
蜘蛛怪人氏はアルと敵対している事から、この軍事施設由来のモンスターではないらしい事が分かっている。いわば、コイツ等は外来種のようなものだ。しかし、コイツ等は何のために巡回みたいな事をしているのだろうか。何処かに蜘蛛怪人氏にとって、大事な場所でもあるのだろうか。そのために、侵入者を警戒している? アルを破壊しようとしているのは、この軍事施設の中で最大の脅威だからだろうか。
ところで、コイツ等何喰って生きてるんだろうか。そういえば、アルは一応生物だ。オレとは違って食事が必要なのかもしれない。
「ところで、アルは食事が必要だと思うんだが、何を食べるんだ?」
『私は、空気中の魔力を吸収しているので、基本的には必要ありません。一応、消化器官は保有していますので、摂食する事は可能ですが、何かを食べるという行為は未経験ですので分かりません』
なるほど。食費は掛からないと。
オレ、訳有って無一文だからな。あの巨体を維持するためにドカ食いする感じだったらヤバかったな。入る目処は立っていないが、アイテムボックスの倉庫番になる所だった。
『お父様は何を食べるのですか?』
「オレは不死者だからな、食事は必要ないんだ」
『なるほど? でも、もし必要だったら言って下さいね! そこらの蜘蛛怪人を解体しますので!』
いや、食事が必要な種族でも流石にアレは食べたくないかな。
食事を必要としないオレ達はスタミナを気にする事なく活動出来るのが丁度いいな。こんな所で食糧が尽きてしまったら、アルの言う通りに蜘蛛怪人氏を食べるしかなくなるだろうし………。
そうこうしている内に下へと降りられる所を見付けた。まぁ、またエレベーターシャフトなんだが。
やはりここも、昇降機は死んでいるため自力で降りるしかない。
しかし、この乗り物はどうしよう。流石に縦方向に移動は出来ないし、ここに捨て置くしかないかな。
『ここは、地下二十階まで降りる事が可能です。それより下へ行くためには、また別の場所に行かなければなりませんが』
「なるほどな。じゃあ、コイツはここに置いて、下へ降りるか」
『えっ。………お父様! この乗り物は必要です! 下にあの蜘蛛怪人が居るとは限りませんし、持っていくべきです!』
とは言ってもなぁ。じゃあ、どうやって?という疑問が出てくる。ここは、コレを諦めて下の階で蜘蛛怪人氏を探す方が手っ取り早いと思うんだが。
『私が! 運びます!』
アルはそう言うと、オレの膝から飛び降り蜘蛛怪人氏の下半身の下に潜り込む。
それなりに重い筈の下半身は乗っているオレ毎浮き上がり、そのままエレベーターシャフトの方へと移動していく。
『これなら、大丈夫ですね! 私は飛べますから持っていく事は可能です!』
そういえば、アルはこんな芸当も出来たな。スケルトンなのは見た目だけだから、見た目にそぐわない怪力を発揮出来るし、どういう原理かは分からないが宙も飛べる。ここはアルに任せた方がいいだろう。
一つ懸念があるとすれば、シャフト内で敵性存在が出てきたらどうするかという事だ。まぁ、アルが何とかするだろう。非力なオレに出番は基本的に無いからな。
「うん、アルに任せよう」
『了解です!』
アルがふわりと浮き、そのままシャフト内へと入っていく。
この体勢だと下を覗き込めるから変な感じだな。相変わらず内部は真暗闇なので、どこに何があるかは分からない。何処かに蜘蛛怪人氏が貼り付いていたら、面倒な事になりそうだが、アルが探索しているだろうし大丈夫か。オレは大船に乗った気持ちでいればいいだろう。多分。
地下二十階へ着いたようだが、案の定扉が閉まっているため、そとの状況を窺い知る事は出来ない。そして、アルの両手は蜘蛛怪人氏の下半身乗り物を支える事に使われているため、こじ開ける事も出来ない。では、どうするか。
アルに蹴破って貰うという発想が一瞬過ぎったが、それより先にアルが下半身の多脚の内の二本を動かし、メキメキと音を立てながら扉をこじ開けた。………そういえば、動かせる手足はここにもあったな。
シャフト外へと出るとちょっとした広場のようになっており、幾つかのゲートと受付カウンターらしき物が在った事が分かる。
『データでは、ここは地下二十階から二十九階までの入退場を管理する場所だったようです。既に機能は停止していますが、稼働していた頃は多くの利用者が居ました』
「ここの二十九階までのフロアは何のための場所なんだ?」
『主に研究フロアですね。兵器の研究や敵性存在の研究、骸獣によって汚染された大地を浄化する研究等ですね。それに伴う大規模な実験を行うフロアは、地下三十階からになりますが………お父様、何か来ます』
アルが何事かを感知したようだ。
また蜘蛛怪人氏だろうか。アルが居た層を抜ければ居なくなるといいなぁ、と思っていたが、そう都合良い事にはならなさそうだ。
『上で遭遇した蜘蛛怪人ではなさそうですが、奴等に似ている部位もあるようです。恐らく警備用兼鎮圧用の多脚戦車だと思うのですが、アレはもっと下の階層に配備されている筈………』
アルは何だか煮えきらない感じで言葉を濁す。しかし、蜘蛛怪人氏でない事は確かなようだ。
暫くするとガシャガシャと音を立てながら、何かが近付いて来る。
ゲートを乗り越えて姿を表したのは、アルが言う通り、五体の蜘蛛型の多脚戦車だった。胴体部に取り付けられた砲門が開きオレ達の方へ向けられる。やっぱり、コイツらも敵か。アルに友好的な存在は居ないのか、この軍事施設は。
『侵入者、発見。符牒読取り………統制管Lv0を確認。警戒解除しま……し…しまししししししし………』
あー、これ駄目な奴だ。途中まではもしかしたら大丈夫かなって思ったけど、バグってやがる。
多脚戦車達は一瞬動作を停止したように項垂れると、再度砲門を開きオレ達にねらいを付ける。
ドゴンッと炸裂音を響かせ、多脚戦車達は榴弾を発射し、そのまま四体に直撃し大破した。残りの一体は項垂れたままだ。
何の事はない。アルが戦車達の認識機能を奪い取り、それぞれに当てるように誘導しただけだ。一体を残したのは、情報を抜き出すためだろう。
『お父様! 蜘蛛怪人なんていうよく分からないモンスターが使っていた物より、こちらの方が断然性能が高いですよ! 是非乗り換えましょう!』
違った。