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オレの好きな様に呼べ、か。捻った所で意味は無いし、ここは安直に決めよう。
「よし、お前の新しい名前は“アル”だ。オレはそう呼ぶ」
『“アル”ですね! 了承しました! 改めて宜しくお願い致しますね。お父様!』
「あっ、うん、はい」
TYPE_R_05改めて“アル”の元気一杯、みたいな咆哮で身体が軽くブレるも持ち直す。
うーん……。しかし、これからどうしよう。この巨体どうにかならないもんか。
『ところで、お父様? 視察と仰いましたが、この施設の視察という事ですか? 冷静に判断して、視察するような場所はもう潰えているかと思いますが』
「あー、視察というか、ここに来たのは偶然でな。ちょっと興味が湧いたから、とりあえずこの施設の最奥部に行ってみようかなと思ってだな」
『最奥部というと、地下五十一階ですね。なるほど。TYPE_S_02を取りに行くのですね! 私にお任せを!』
アルはそう言うや否や、スックと立ち上がり辺りを見渡す素振りをする。
『えーと、方向的にはこの辺?』
ガバリと口を開き、喉奥へ向けて光が収束していく。コイツ、まさか地下五十一階までぶち抜くつもりか?
『お父様のお望みの場所まで、最短最速でご案内致します! どうせ、昇降機は使えませんしね!』
口を開いたまま喋るのって何だか凄い間抜けな面だな。って、そうではなく。
あんな物を吐き出されたら、確かに目的地までぶち抜けるかもしれないが、今この場所に居るオレがそな余波だけで巻き添え死を喰らうのは間違いない。
超生命体であるコイツは、オレが自身と比べてクソ雑魚だって事を分かっていないんだろうな。早く止めなければオレの生命が危うい。
「待て!! 止めろ!! 中止だ中止!!」
オレの叫びが届いたのか、アルはバクンと口を閉じ、収束していた光の玉を飲み込んだ。
『………けほっ。お父様? 如何為されましたか?』
「安易に建造物破壊するのは止めろ。アルはオレとは比べ物にならない位、強大な力を持っているのだから、力の使い処を弁えろ」
『分かりました、お父様。………私的には、グッドアイディアだと思ったんですが』
何とか了解を得られたが、余り分かってなさそうだな。無闇矢鱈と力を振りかざす様になってしまえば、アルは終わりだ。
やはり最初に思った通り、彼女の精神はまだ未熟なようだ。兵器としては恐れもない未熟な方が都合が良かったのかもしれないが、今の時代ではそうも言っていられない。強い力を奮うためには責任が常に伴う。オレがコイツを預かる形になってしまった以上、分別を付けさせなければならないだろう。
もし、このまま放り出したら遊び感覚でプレイヤーを襲うような恐るべきモンスターになってしまうだろう。そうなると、オレの無い筈の胃が痛くなるのは必至だ。
目の前のアルを見上げながら、これからどうするのかを考える。
そういえば、アルの言動から察するに、最下層が地下五十一階であるらしい。且つそこには例のもう一つの兵器、TYPE_S_02があるようだ。TYPE_S_02とやらが、アルと同じような存在かどうかは分からないが、それを確認しに行くのはアリなんじゃなかろうか。一番深い所まで潜れるし。
「確かにオレの用事は最下層にある。但し、そこへ行くのは自分の足で歩いて行くつもりだ。さっき作ろうとしたような大規模な近道は必要ない。オレに気を利かせてくれたのは感謝するが、ああいうのをする時は事前にオレの許可を取れ」
『申し訳ありません、お父様! お父様の意向を無視した挙げ句、勝手に暴走してしまって………。お父様の目的が終わったら私を処分しても構いません。ですから、どうか!お怒りを鎮めて下さい!!』
アルはその場で身を屈め、オレに平伏するようにしている。残念ながら、平伏してもオレよりデカいため、見下ろされている事に変わりはない。
それにしても、若干声が震えているのは、オレが怒ってると勘違いしてるのか?
そういえば、ここは軍事基地であり彼女はここの所属の兵器で、何故かオレは彼女の上司的な存在になってたな。とすると、さっきのアルの行動はオレの許可無しに兵器としての力を使おうとした、となる訳だ。
うーん、よく分からないが、軍規に違反する行為だったのかもね。
「まぁ、分かればいいんだ。これからは無いように努めれば問題ない。ところで、アル………その身体、どうにかして小さく出来ないか? お前を連れて歩こうにもその巨体だとな………」
『お許し下さりありがとうございます、お父様!! それで、私の規格変更ですか。勿論可能ですが、どの程度をご所望でしょうか?』
出来るのか。どの程度ねぇ………。オレと同じ位のサイズか? それとも、若干大きくなってもらう?
『とりあえず、やってみますね。………とぉっ!!』
気の抜けるような掛け声と共にアルの身体を光が包み込む。眩しくて思わず手を翳し光を遮る。光が収まったのを感じ、手を退けるとそこにアルの姿は無かった。………というか、アイツまたオレの指示無視してんな。
「アル? 何処行ったんだ?」
『ここです、お父様!!』
オレの後ろからアルらしき声が聞こえた。いつの間に、オレの背後に………。
声がする方へ振り向くと何だか知らない奴が立っている。
「………アルなのか? その姿は一体?」
『お父様が私の外見を問題視されているようでしたので、お父様に合わせてみました。えへへ』
はにかむ様に笑ったらしいアルの姿は、先程の竜種の見た目から一転していた。
そこに居たのは、オレの腰程度しかない大きさの骸骨兵だった。