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暫定竜種の声はやや甲高く、おさなげな声質だった。竜種の声なんて聞いた事無いから知らんが、コイツ自体は身体は巨大で立派なモンだが、精神的には幼いのかもしれない。
だが、その前に聞く事があった。
「えーと? お父様? オレが?」
『その通りです、お父様。統制管様には“お父様”とお呼びすれば第一印象はバッチリだと学習しました。………あっ、それともお母様でしたでしょうか?』
ダラリと横たわった姿勢から飛び起き、ズシンという地鳴りと共に竜種が正座する。座っていても凄まじい大きさだ。遥か上から見下されている分、かなりのプレッシャーを感じる。
それにしても、お父様か。どういう教育してるんだ? というか、誰がそんな事を吹き込んだのだろうか。
「いや、オレは………そういえば骸骨兵に性別ってあるのか? あぁ、お父様でいい。………って違う。オレの名前はトワだ」
『承りましたお父様!』
うーん。このやり取りで言葉は通じるのに、話しが通じてない感があるなぁ。
「えーと、さっきまで管理調整ユニットとやらに大まかな話を聞いていたんだが、自身の事を理解してるか?」
『勿論です!私の型式番号はTYPE_R_05。星冥獣の身体の一部を利用して造られた対骸獣殲滅用兵器R型の五番目として製造されました。詳しいスペックはこちらのデータをご覧になって………なって………あれ?』
竜種は指をスイと横へ動かす動作をし、思ったような結果が得られなかったのか不思議そうに小首を傾げる。巨体と威圧感で全く可愛くない動作だ。
『あれ?………データ送信出来ない?』
「データ送信も何も、この基地は既に死んでいるぞ」
この軍事基地がとうの昔に機能停止していた事は知らなかったらしい。何故、このカプセルの維持機能が生きていたのかは知らないが、相当前に基地からの情報は途絶えていた筈だ。
『え? 何を言ってるんですかお父様。私は、骸獣を殺すために存在しているんですよ? その使命を果たす前に、バックアップ施設が無くなるってどういう事なんですか?』
おっと。何かヤバい気配がするな。ブチキレられても困るからそれとなく誘導してみるか。
「その骸獣ってのも、オレは聞いた事が無い。どうやら、アンタが製造されてから大分長い月日が経っているらしい。骸獣とやらも絶滅してるんじゃないか?」
『………そんな筈ありません。骸獣は確かにまだ存在しています。私は奴等を殺すしかないんです。そのために造られたのです。星冥竜の寄生虫共を殲滅するためだけの存在なのです。統制管様の代わりに戦う事で生存が許されているんです。私にはそれしか無いんです。私には使命があるんです。私は、私は………』
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WARNING!!
■■■■■■■■■■エリアにて、世界災害、“対■■殲滅用兵器■■”■■■が解放されました。
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最近何処かで見た、何だか不穏なアナウンスが表示されている。
混乱している様子の竜種に、過去の事は忘れて現代を生きようみたいな話に持っていこうとしていたら、何故か後押ししてしまったようだ。いや、こんな回想してる場合じゃない。
「いやいやいや!! 待て待て!! 早まるな!! 目の前に居るのは誰だ!? オレが居るだろう!?」
何だか小っ恥ずかしい事を言っている自覚はあるが、四の五の言っていられない。お父様と呼ばれた事、何故か知らんが統制管とやらの役職に就いている事、諸々利用して破滅を回避してやる。
『………お父様?』
「あぁ、ここにはオレが居るだろう。確かにここの軍事拠点は滅びてしまった。しかし、貴様を統括するためのオレが居るんだ。何を不安がる必要がある? 確かにまぁ、施設を使えないのは痛いかもしれないが、それも致し方無いだろう。不測の事態にも対応しなければな。そういう事は学習していないのか?」
『………あ、いえ………学習しました。でも、私は………』
また、マイナス方面へと悲観していやがる。ここは、強引にでも進めるしかないか。
「いいか、よく聞け。オレは兵器たる貴様の使用者なんだよな? なら、オレが下す最初の命令だ」
『ッ!!………何でしょうか、お父様』
「まず、骸獣殲滅とやらは一旦脇に置いとけ。それで、お前はオレの旅………視察に付き合え。オレの目的が済んだら骸獣とやらを殺しに行け」
『骸獣殲滅は何をおいても第一に優先される主上命令では? ですが、了承致しました。お父様のお望みとあらば、私はそれを受け入れましょう』
何とか上手くいったようだな。ちょっと怪しい感じがあるけど、まぁ何とかなるだろう多分。
しかし、あんなアナウンス出ちゃったし、コイツはオレ達プレイヤーの敵って事なんだろうなぁ。
「ところで、何て呼べばいいんだ?」
『お父様の如何様にもなさって下さい。“おい”でも“お前”でも“この✕✕野郎”でもいいですよ?』
………コイツに変な学習させた奴出てこい。




