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海底までには特に何事もなく着いた。途中、流れが早い潮流に巻き込まれかけたが、気を利かせたTYPE_R_03が他の面子と一緒に、舟にしがみついてくれたお陰で誰かが流される事もなかった。
「さて、ここから海流に乗るまでは暫く徒歩だ。体調は問題ないな? 呼吸は問題無くても、水圧で死にそうな奴は居ないな? 目的地までは泳いで行ってもいいが、泳げるか怪しい奴が居るし、暗視技能を持っていないと逸れるからな」
そんな訳で、海底を歩いて進む事となった。例の暗視であるが、驚く事に全員持っているようだ。但し技能レベルが低いため、逸れる可能性の高い移動法は取らないらしい。
「トワ様、私はまだ暗視のレベルが低く、目の前がぼんやりとしか見えません。なので、迷子にならないように手を繋ぎましょう」
そう言ってオレの腕………を覆っているTYPE_R_03に己の腕を絡ませてくるクオン。手を繋ぐんじゃなかったのか?
「些細な違いじゃないですか? 余り細かい事を気にしていると将来禿げるらしいですよ?」
禿げ………骸骨なのに? 本体の方もそういったモノとは無縁だ。コイツは何処からこういった知識のようなモノを拾って来たのだろうか。
しかし、こうして海底を歩いていると、見た目が普人族のゾンビーフ氏とクオンの異質さが目立つな。ゾンビーフ氏は不死者が普人族に擬態している姿なので問題ないが、クオンはそのままの姿である。
周りに居るのが、不死者と魚人と魚類だからな。本来活動圏では無い生物が海底に居ると、何だか変な感じがする。………しかし、鰓呼吸をしている訳でもないのに、水中で呼吸出来るってどういう原理なんだろうな。
『その辺は今更な話でありますねぇ。肺が無い骸骨兵のトワ殿がどうやって発声しているのか問う事と同じでありますよ?』
それはそう。呼吸不要としておきながら、発声する事は出来るとかどういう仕組みなんだ。空気なり液体なりを振動させるんだろうが、果たしてオレは何処を震わせているのか。………骨とか?
まぁ、そういった理論が想像しか出来ない不思議な事は棚に上げておこう。恐らく解決は不可能だ。
つまり、鰓呼吸でなくても呼吸出来るのは、何か不思議な力が発生していて、全部運営のせいなんだという事で。
「ここだ。お前さん達には分からんだろうが、ここから海流に乗って海底都市まで行く。恐らく海流の中で自在に動けるのは儂だけだろう。故に、全員で手を繋ぐか、身体の何処かを掴め。一体になって行かないと確実に逸れるからな」
目的地である海流まで辿り着いたようだ。まぁ、本当の目的地はまだずっと先なんだが。
ヨシダ氏の言う通り、水中での行動に適しているモノはオレ達の中には居ない。変質魔法でロドリック氏は魚類になったようだが、泳ぎは苦手そうなフォルムなので除外している。
ついでに、この海流に乗ったら最後、この場所へ戻って来る事は出来ない。それは泳ぎが達者なヨシダ氏でも不可能な事だ。まぁ、海流から外れれば戻って来られるのだろうが、少なくともオレ達には無理だ。
ヨシダ氏を含む全員と一体にならなくてはならないという事で、全員をTYPE_R_03の触手を伸ばして掴む。
これで逸れ防止になるのはいいが、物理無効という特徴を持っている筈の幽霊であるツィルディエンデ氏をも物理的に掴んでいるのはどういう事だ。
いや、こういった不思議現象はもう気にしないでおくか。ここは異世界。オレの常識では理解出来ない事もままあるだろう。
海流に乗ってどんぶらこと流れた先、海底都市へと辿り着いた。あれからここまでの道筋は、ほぼ流れに乗っていただけなので楽なモノだった。時折、ヨシダ氏に指示されて漂う場所を変えるだけだ。勿論、それをやるのはオレではなくTYPE_R_03なのだが。
「いやぁ、長いような短いような旅でしたね。暗視スキルが有ったとしても、ぼんやりとしか見通せないのは少々不安でしたよ」
ゾンビーフ氏や他の面子も同じような感想らしい。まぁ、宛が見えないってのは案外疲れるモノらしいからな。
不死者に疲労という概念は存在しないが、精神的に来るモノがあるようだ。オレはそもそもの感性が鈍いのか、そういったモノは感じないが。
ともあれ、当時の目的地である海底都市に辿り着く事が出来た。案内人であるヨシダ氏とは都市の入口で別れ、オレ達だけで都市内部へと入った次第だ。
オレが最後にここへ来たのはいつだったか。何だか余り思い出したくない思い出だった気がする。
海底都市に着いたという事で、この都市の元締めである“海の呼び声”の面子に挨拶してこようという話になった。居るかどうかは分からないが、カイエン氏やヒラメ氏と出会えたら重畳だろう。
えー、結論から述べると知り合いは居ませんでした。今は例のレイド戦の佳境に入っているとかで、“海の呼び声”の中核メンバーは深淵に潜む骸獣討伐に向かっているらしく、カイエン氏はそれの陣頭指揮を取っているとか何とか。
まぁ、あの蛸さんはアレで超火力偏重の旅人らしいからな。はっきり言って、旅人の火力はTYPE機に比べれば誤差のようなモノだが、例の骸獣を殺すためにはその誤差も必要という事らしい。と、TYPE_R_03が言っていた。
『海中戦特化のTYPE_M自体の火力はTYPE機の中ではそこそこレベルでありますからね。相手の骸獣も海に特化しているようでありますし、戦闘の相性は余り良くないのであります』
TYPE_Mは自身の劣化コピーを作成して数で押すタイプらしい。そのため、TYPE機単体の戦闘力として見ると余り強い部類ではなく、骸獣を討伐するためには旅人の力が必要なんだとか。
それならば、純戦闘特化であるTYPE_R_03が火力として介入したらさっさと終わるのでは?
『まぁ、トワ殿が考えているように某が参戦すれば早めに討伐は可能でありましょう。但し、今迄骸獣討伐のために力を合わせてきた有象無象共に、全ての元凶であるトワ殿が恨まれる事必至でありますね』
この話は止めておこうか。少なくとも、向こうからの要請が在った場合のみにしよう。まぁ、オレ達はそんな事に関わらずにさっさと“南の島”に行くんですけどね。




