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「あぁ。最近は忙しいらしくてこちらには来ていないが、元気にやってるらしいぞ。まぁ、アイツと儂では活動範囲が被らないせいで、ほぼ人伝なんだがな」
どうやら、ヒラメ氏は余りログインしていない様子。海底都市に行けば居るだろうと思っていたが、そういう訳でもないようだ。
空飛ぶクジラに乗った事のあるヒトだし、“南の島”について聞いてみようと思っていたのだが。
「それで、いつ出る? 特に予定が無いなら、儂はこれからでも行けるが?」
ヨシダ氏がログインしてくる前は、この街を散策する事を考えられていたが、これといって予定は無かった。他の同行者に問題が無いのならば、オレとしてはさっさと行っておきたいところだ。
「そうですね。リスポーン登録も済ませましたし、ロドリックさんの件もありますし、これから向かっても問題ないのでは? まぁ、懸念が無い訳ではなく………。ところで、これから出るとなると、洋上で日が暮れると思うのですが大丈夫ですか?」
「儂が使うのは、勝手に目的地まで運ぶ舟だからな。遭難といった問題は起きないだろう。それに、向かう先は海底都市だろ? そもそも日の光が届かないような場所に向かうのに、陽光が必要か?」
それは確かにそうだが。確か、この案内魚人が使うのは、“目的地で沈む舟”だったか? その目的地までには何が有っても到達するが、その目的地で必ず沈むという呪いのようなモノが掛かっている舟らしい。
それに、オレ達の目的地は海底。太陽光なんてモノは届かず、暗視技能が無ければ何も見えないような所だ。つまり、日が沈んでも関係が無いという事。………多分。
という訳で、ヨシダ氏に促される形でさっさと出発する事となった。
ヨシダ氏が出したのは、ボロい小舟。表に出ていたモノでは無いが、見るからに今にも沈みそうな舟だ。大丈夫かコレ?
「これが、海底から引き揚げた沈没船を元に“海の呼び声”が作った“とある地点で絶対に沈む舟”だ。何度か実証試験をして効果が確認されているから、大体大丈夫な筈だ。絶対に大丈夫とは言い切れないが、おそらく大丈夫だろう。まぁ、元々命の保証はしていない旅だから問題ないだろ?」
目的地に到達するまでは舟自体は転覆する事は無いが、乗っているヒトの安全までは保証しないらしい。まぁ、余程酷い時化でも無ければ大丈夫だろう。いざとなったら、TYPE_R_03に抱えて貰えばいい。それに、オレはやクオンは兎も角、他の面子は高レベルの旅人だ。その程度の危険なんてのは自分で何とかするだろう。
という訳で、とっとと出航となった。出航する前はヨシダ氏に海の怖さ等を散々言われ脅されていたが、特に何事もなく舟は進んで行く。………そもそも、“海”そのものであるオレに海の怖さを説かれてもな………って所である。
沈まない沈没船はどんぶらこと流れ、とある地点まで目前となった。
いやぁ、出航してから時化で高波に遭ったり、強風で吹き飛びそうになったが、ヨシダ氏の言う通り舟は全くの無事だった。船内に海水が入る事すらなく、オレ達がびしょ濡れになっただけだった。………いや、波を被っておいて、水が中に入らないのは色々とおかしいな?
「そろそろ目的地だ。その地点に辿り着いた時点で、この舟は沈む。ただ単に沈むだけじゃない。その真下の海底がこの舟の目的地点だ。そこの近くには海底都市付近まで続く海流がある。海底都市に行くにはその海流に乗っていく事になるが………水中を進む準備は大丈夫か?」
まだ大丈夫じゃないですね。特にロドリック氏が。
ロドリック氏以外の面子は、水中でも問題なく行動出来る。オレとゾンビーフ氏、ツィルディエンデ氏は不死者であるため、生命活動が必要無いし、クオンに至っては汎ゆる環境で活動出来るように各種生存技能を持っているらしい。
対して、ロドリック氏は戦闘に関わる技能を重点的に習得しているため、水中は門外漢のようだ。
さて、このような状況下でロドリック氏を水中対応させるためにオレが取れる行動は一つ。“変質魔法”を使用し、運を天に任せるのみだ。………いや、ロドリック氏程の高レベルの旅人に効くとは思えないけどね?
「ところで、ロドリックさんのレベルって幾つなんですか? あぁ、答えたくないって場合なら、大丈夫です」
「いや、察するところによると、トワさんにとっては私のレベルが関係するのだろう。特に減るモノでもないし、何なら前線組の大抵の者は知っているし教えるのも吝かではないよ。そうだね………。私は竜人族のレベル9だよ」
と言われても、高いのか低いのかオレには判断出来ん。レベルが9ならば、オレの12よりかは数字的には低いのだが、竜人族が所謂上位種族だった場合は話が変わる。
ロドリック氏は勇者に選ばれる程の実力であり、元々この世界攻略の最前線で身体を張っていたヒトだ。かなりの高レベルに違いない。………うーん。無理では?
「私からもいいかな? トワさんはこれから何をするつもりなのかな? 出発前に言っていた心当たりとやらを聞かせて貰っても?」
ロドリック氏から、何をするつもりなのか問われたので、オレの心当たりである“変質魔法”の特性について斯々然々。
「なるほどね。対象者のレベルが術師のレベルと離れていると成功率は下がる………と。ところで、トワさんの種族レベルも聞いていいかな? もしかしたら………という事もあるからね」
「まぁ、そうですね。ロドリックさんが明かした以上、オレも喋らない訳にはいかないですし。………オレは骸龍骨兵のレベル12ですね。レベルの数値はロドリックさんよりも高いみたいですが、所詮は骸骨兵なんで」
竜人と骸骨兵。………うーん、この名前負けが酷い感。一方は旅人達の頂点レベルであるが、片方は戦闘能力皆無の骨だ。まぁ、でもこうなったらダメ元で賭けてみるしかないか?
「ふむ、なるほどね。ところで、これは余談なんだけどね? この国の王の種族は龍人族で、竜人族の上位種族だと言われているんだ。つまり、龍は竜より上位の存在と言う事のようだね。それで、トワさんの種族は龍骨兵と言う事だが………恐らく私の種族よりも上位の種族だろう。ついでに、レベルも私よりも高い。つまり、トワさんが言う“変質魔法”も成功するんじゃないか?」
まさかの、オレの方がロドリック氏よりも種族もレベルも高かった件。
竜人族に比べてオレの戦闘能力は皆無だが、この世界の機構的にそういう事になっているらしい。だが、それが事実ならばオレの試みは成功するかもしれない。
さて、ロドリック氏は何に変化するだろうか。
実はトワ君はレベルだけならトップ帯という罠。尚、戦闘能力と生活力はゴミ。




