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いきなり目を覚ました魚人氏は、“海の呼び声”所属の旅人、鮫魚人のヨシダと名乗った。
ヨシダ氏は、この街から“海の呼び声”本拠地である海底都市への直通案内人を務めているらしい。
「組合にある張り紙には、海底都市へと辿り着くだけならば最速と書かれていたのですが、どの程度のモノなのでしょうか。あと、危険度も」
「あぁ。そうだな。もう一つのプランである遊覧船に乗っていくよりかは大分早いが、潮の影響やらがあるから具体的な数字は出せねぇ。張り紙を見たなら分かっているだろうが、儂が案内するのは海底都市への直通ルートだ。勿論、海の危険生物と出会す事もあるだろうし、潮で流される可能性もある。だが、“海の呼び声”が長年の研究の果てに構築したルートだ。そこらの奴が適当に作ったルートよりも確度は高いだろう。ただ、命の保証はしない。それでも良いってんなら、契約書に署名してくれ」
そう言って差し出したのはペラい紙。こんなので契約書になると思ってんのか。
「ここの街の紙は質が低くてな。恐らく潮風の影響だろう。まぁ、契約魔法が施してあるから紙質は余り関係ないんだが」
契約書に書かれている事は簡素だ。ヨシダ氏が案内したツアーで、どのような事が有っても案内魚人であるヨシダ氏は、如何なる賠償責任を負わないという事らしい。
めちゃくちゃな契約書だが、これでいいのか? ゾンビーフ氏とロドリック氏によると、“海の呼び声”のエンブレムとカイエン氏の署名が入っているため、契約書としての信用度は高いらしいが………。大丈夫? 仮に、ヨシダ氏の案内で盗賊とか海賊の根城に案内されて死に戻りになったとしても、ヨシダ氏に罪は無いって事になるぞ?
「ここは旅人専用の案内ツアーだと言っただろ? それに、わざわざ“命の保証無し”と書いてあるのに訪れるような物好きだ。勿論、住人用の契約書はしっかり書いてあるが、旅人相手ならこんなんで大丈夫だろ。儂が無体な事はしないモンだと信用してもらうしかないな」
まぁ、確かに命の軽い旅人相手ならば、こんな程度の契約書で良いのかもしれない。
恐らく、このめちゃくちゃな契約書は命の保証がそもそも無い案内ツアーの中で、わざと死んだりしてヨシダ氏や“海の呼び声”に無茶を吹っかけた馬鹿が居たのだろう。
それに、ヨシダ氏が実は無法者であり、海賊やらの場所に連れて行かれたとしても、こちらにはロドリック氏という心強い護衛が居る。戦闘区域が水中とかでも無い限り、彼女がその辺の犯罪者相手に遅れを取る事も無いだろう。
「これは、各自で署名でしょうか? 私達で一つのグループなのですが」
「そうなるな。グループの代表者にすると、そのグループから抜けた奴には効力を発揮しないからな。すまんが、この条件を飲めないのなら遊覧船の方へ行った方がいいだろうよ」
ゾンビーフ氏はこちらを確認するかのようにオレをチラ見してくる。まぁ、特に問題無いだろうし、それでいいのでは?という意味を込めて頷いておく。
そういえば、この面子の代表者はオレだったな。という事で、ゾンビーフ氏から契約書を受け取り率先して署名する。
「………ん? トワ? 種族はよく分からんが、中身は骸骨兵っぽいか。………もしかして、お前さんがヒラメが言っていた“トワさん”か?」
ヒラメ氏? ヨシダ氏はヒラメ氏と同じく“海の呼び声”の仲間なんだろうが、どういう意図でオレの名前を出したんだ?
それと、ヨシダ氏がオレの正体がよく分からないと言ったのは、TYPE_R_03がオレの全身に装備しているせいだ。TYPE_R_03が真っ黒いせいで中身の骸骨が見えにくいらしい。
「多分、その“トワさん”で間違いないと思いますよ。長い事会っていませんが、ヒラメさんはお元気ですか?」
最後に見たヒラメ氏は半身になってTYPE機に身体を明け渡す、二重分身とかいう変な技能を使っていたな。
“海の呼び声”の面子は基本的にカイエンのリアル身内という設定。




