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中継地点である第三の街に着いたという事で、とりあえず冒険者組合に行ってきた。目的は勿論、リスポーン登録だ。
これで、海底都市に行くまでに死に戻りしても、ここにならば戻ってこられるだろう。オレとクオン以外のヒトは済ませているようだが、海底都市への行き方の情報集めついでだ。
イチバンを出る前は、この街で“海の呼び声”の奴等を見付けられるかどうかは、よく分からなかった。ワンチャン、情報の一つや二つでも拾えればなと思っていた位だったのだが、案外あっさりと見付けてしまった。
「港に出れば、“渡し船屋”とかいうヒトが案内してくれるらしいですよ。但し、命の保証は無いのだとかでお勧めはされませんでした」
ゾンビーフ氏曰く、冒険者組合に広告が貼られていたそうな。
何でも、“海の呼び声”が主催している“渡し船”には二種類あるようだ。
それの内訳は、時間とカネが掛かるが命の保証有りの、主に住人にお勧めの安全プラン。それと、命含めた汎ゆる保証は無いが、格安かつ爆速で行ける旅人向けのプランがあるらしい。
「どうします? 別に急ぎでもお金に困っている訳でもないですし、住人向けのプランで行きますか?」
「あー、そうですね。………いや、とりあえず爆速プランで行ってみましょうか」
命の保証無しプランは、顧客が旅人である事を活かした行程なのだろう。どんな危険が待ち受けているのか知らないが、何となくそちらの方が面白そうだ。
それに、オレとクオン以外の同行者は軒並み高レベルの旅人だ、そう簡単には死なないだろう。
特に他に寄る所も今は無いので、港へと直行した。ゾンビーフ氏が聞いた所によると、“渡し船”をやっているのは目つきの悪い鮫魚人の旅人らしい。それがやっている店は一見分かりにくい所に立地しているが、行けば分かる、見れば分かるとか何とか。
「えー、と。あぁ、アレですね」
ゾンビーフ氏が指差した先。どう見てもボロボロの掘っ立て小屋だ。小屋の側面は水路に面しており、そこから小舟が突き出しているのが見える。確かに、舟があるのは分かるが………よく、あの小屋だと分かったな?
「内部から生命反応がしますからね。臭いからして、普人族でない事も確かです。それに、共通語で“渡し屋”という看板と、“海の呼び声”のエンブレムが飾ってあります」
生命反応? そんなモンを感じ取れるようになってるのか。不死者だからか? いや、臭いとか言っているし、吸血鬼の能力かもしれない。
掘っ立て小屋にはゾンビーフ氏が言うように、小屋と同じようなボロボロの板が掲げられていた。文字が掠れていて分からんが、“渡し屋”と書かれているらしい。“海の呼び声”所属である事を示すエンブレムもあるらしいが、オレにはよく分からない。
「見た目は凄い怪しいスけど、早めに見付かって良かったッスね! チーッス!! 誰か居ませんかー!?」
突撃までが早い。ちょっと外から様子を見るとか無かったのか。
ズンズンと進んでいったツィルディエンデ氏を追い掛け、オレ達も掘っ立て小屋の中へと入って行く。中も外と同じようにボロボロだったが、誰かが手入れをしているようでそれ程汚くはなかった。
「生活感はありますが、誰も居ないようですね。先程は反応が有ったのですが………留守でしょうか?」
「ここに居るのは魚人ですし、海へ行っているのでは? 舟は使っていないようだから、“渡し”の仕事をしてはいなさそうですが」
その魚人が住人なのか、旅人なのかでも、状況は変わりそうな気がするな。
もし、住人ならば、出掛ける間際の状態だったのかもしれないし、旅人ならば、ログアウトしている可能性もあるんじゃなかろうか。
まぁ、ログアウト状態でゾンビーフ氏の感知に引っ掛かるかどうかは知らないが。
「なるほど。ログアウト中もあるこもしれませんね。検証勢からの情報だと、ログアウト中は身体に精神が入っていない状態であって、旅人の身体自体は生命活動を継続しているとか。例えるならば、冬眠と同じような状態らしいですね。ログアウト中は無敵という訳ではないので、出来るだけ安全な場所で行えというのもこの辺りから来ているとか何とか」
問題の魚人氏は程なくして見つかった。別室で簡易ベッドに打ち上げられ………横たわった魚人が寝ていたのをクオンが発見した。ボロ小屋だとしても、ログアウト部屋では鍵くらい掛けろよ。
「これ、どうします? 彼?彼女?が起きないと“渡し舟”を依頼どころじゃありませんよね?」
まぁ、無難な所で書き置きを残して、一先ず帰るってのでいいんじゃないですかね。もしくは、暇な奴がここに残るとか。
「ふむ。ならば、私がここに残ろう。休暇中とはいえ、この街に居る知り合いに会うのは少し気まずいんだ。ちょっと、うるさ………いや、お節介な人でね…………」
聞けばロドリック氏のファンクラブなるモノがあるらしく。それの中核メンバーがこの街在住なのだとか。休暇なんだし、会いに行ってもいいんじゃないか? ついでにファンクラブの伝手を使って、情報集めも出来るかもしれないし。
「いやぁ、私が“勇者”を辞めた事に納得がいっていないらしくてね。他のメンバーとも話したんだが、少しの間距離を置こうとなって」
なるほど? そのヒトにとっての、“理想の王子様像”が“勇者”を辞めた事で崩れてしまったという事か。ところで、そのファンクラブって“勇者”を辞めたのに機能してるんですかね。
少し話し合いの結果、例のファンクに会いたくないロドリック氏が居残りで、オレ達は第三の都市の観光に繰り出そうとした。………ところに、嗄れた声が聞こえた。
「ん? あぁ、客か?」
魚人の目覚めが非常にタイミングが悪い。いや、オレ達はこの魚人に用が有ったのだから、起きてくれて良かったんだが。都市の観光はこれが終わってからでもいいだろう。
先日MetaQuest3Sが届きまして、筆者もVRデビューする事になりました。ところで、この話はVRではないんですよね。




