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決着は一瞬だった。
そこかしこに苦痛の声を上げながら転がる盗賊達。床ペロしている盗賊達は、脚や腕の関節を外されるか、骨を折られるかして無力化されていた。ロドリック氏にやられるまでは何処に何人潜んでいるのか分からなかったが、見える範囲では結構居たようだな。
“勇者”を返上したとしても、ロドリック氏は最前線で戦っていた旅人だ。こんな場所に出てくる盗賊を一蹴する事など容易いのだろう。
盗賊達はうめき声を上げているが、見た限りでは死んでいる奴は居なさそうだ。賞金首や盗賊は基本的に生死問わずらしいが、ロドリック氏は敢えて殺すような事はしなかったようだ。
「さて、盗賊諸君。これでボクとキミ達の実力差は認識出来たと思う。では、ボクからの要求を飲んでくれるね?」
ロドリック氏は、唯一無事な状態の盗賊氏に声を掛ける。彼はオレ達を恐喝してきた個体であり、脅迫相手………もとい交渉相手としてロドリック氏がわざと攻撃しなかったモノでもある。
「ば、化け物………」
「化け物とは心外だな。最前線を攻略している人達なら、これ位は片手間にこなせるよ?」
そうなの? 最前線怖い。
こんな所業を簡単に実行出来るとなると、オレが行ったら速攻で身包み剥がれそうだな。
「盗賊ってもっと強いと思っていたんですが、あれはロドリックさんが強すぎるからなんですか?」
小窓から外を見ていたクオンが、隣のゾンビーフ氏に尋ねる。
「そうですね。ロドリックさんは元“勇者”だった事もあります。今の“勇者”は兎も角、ロドリックさんの代までの“勇者”は人柄と実力で選定されていましたからね。人数だけが頼りの盗賊団なんて、半分寝ながらでも討伐出来るでしょうね」
意識朦朧でも、あの程度なら簡単に殺れるのか。被害者達から化け物と評されたのも、強ち間違いではないかもな。
さて、外でロドリック氏の八面六臂の大活躍は全員が見ていた。勿論、ロドリック氏以外は誰も基本的には外へと出てはいない。
ゾンビーフ氏とクオンは車体に取り付けられた小窓から。ツィルディエンデ氏は幽霊系の特徴を活かして頭だけ外へと透過している。そして、オレは頭蓋骨を外して御者用の小窓から外へ出して観戦していた次第だ。頭部だけ外して視界確保って行為は久しぶりにやった気がする。
「ボクからの要求は簡単だ。ボク達はキミ達をここへ置いて行く。乗せる場所が無いから当然だね? でも、置いて行くからと言って、キミ達を見逃す訳じゃあない。ボク達への追撃はするな。折角、拾った生命を粗末にするのは許されない。本当は街へ出頭して欲しいところだけど………まぁ、それは好きにしなよ。但し、次キミ達を見掛けたら問答無用で殺す。それだけは覚えておくようにね?」
要求? 強要の間違いでは? 盗賊氏は顔を青くさせてガクガクと頷いている。
ロドリック氏の脅しが終わったのか、盗賊氏から踵を返し、こちらへと戻って来た。
「やぁ、お待たせ。いやぁ、まさか私の“勇者”としてのネームバリューが効かないとはね。やっぱり、今の時代は五代目勇者が人気で過去の事なんて忘れ去られているって事なのかな?」
「街へ入れない盗賊達が世俗に疎かっただけでは? そういえば、五代目ってもう決まったんですか?」
ゾンビーフ氏の話では、五代目もロドリック氏になりそうとかいう噂があった気がするな。しかし、ロドリック氏のこの口振りだと、そういう訳ではなさそうだ。まぁ、改めて五代目勇者なんてものになったら、わざわざ“元勇者”という称号を返上した意味も無いか。
「五代目勇者は先日決まったばかりだね。視聴者からの呼び方は、“断罪されて追放されたけど追放先で隣国の王子様に見初められた事で成り上がって元婚約者と泥棒猫にざまぁする悪役令嬢系勇者”らしいけど………。随分長いよね。どういう属性なんだろう?」
知らんがな。何だその小説の荒筋みたいな勇者名は。
ロドリック氏のような、爽やか王子様系がまだ分かりやすいぞ。………まぁ、こちらもオレは余り意味は分かっていないが。
盗賊達をその場に放置し、車は進んでいく。盗賊との遭遇というイベントは済ませたし、今後は面倒臭い事に巻き込まれないといいなぁ………。
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暫く進んだ先、道幅一杯に検問のような木製の柵と小屋のような物が建てられていた。
「んん? おかしいですね。こんな所に関所なんて無かった筈ですが………。第二都市が無くなった影響でしょうか?」
「そもそも、こんな所に関所なんて作る意味が無いのでは?」
周りは森だ。聞いたところによると、第三都市はまだまだ先の話だし、村落がある訳でもないという。………また嫌な予感がしてきたぞ?
とりあえず、柵の前まで進んでいくと、向こう側から何者かが出て来た。これまた人相と風体の悪い輩共で、真っ当な奴等ではない事は確かな気がする。いや、ヒトを見た目で判断してはいけないんだっけか。
「あー、悪いが、ここを通るためには通行税が必要なんだ。………とりあえず、出てきてもらえるか?」
先程の盗賊よりかは威圧的ではないが、有無を言わせないような雰囲気がある。何よりもその手に刃物を持っているのが凄い怪しい。
「あー、アイツも賞金首ッスねー。詐欺、恐喝、強盗殺人を何件かやらかした上に、衛兵殺して逃げた奴ッスね。アレも生死問わずッス。しかし、何でこんな所に居るんスかね」
賞金首に詳しいらしいツィルディエンデ氏が首改めをする。また犯罪者かよ。しかし、賞金首として手配されているのに、よくこんな所で顔出しできるな。
不沈の方舟を沈めるのに夢中で更新忘れていました。
我々は殺したいだけであって、死んでほしい訳ではなかったんだ。何で昼前に終わってしまうん?




