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小窓から外を確認していたゾンビーフ氏が言う。
「とりあえず、どうしますか? 確か、賞金首は旅人、住人に関わらず生死問わずでしたよね?」
「捕まえたら最寄りの街に連れて行かなきゃいけないし、とりあえず殺って放置しとくッスか? 討伐賞金は貰えないスけど、アイツ等はそんな高くはなかった気がするッス。その内、野生動物が綺麗にしてくれるのを期待するッス」
何だか不穏な事を言っているぞ。他の面子の反応を見るに、盗人はどこの星でもそんな感じの対処なのかもしれないな。まぁ、オレの星には居ないのでよく分からないが。
しかし、賞金首は捕縛したら街まで連れて行かなきゃならんのか。流石にそれは面倒臭い。何故、ここまで来たのに、わざわざ衛兵に突き出すためだけに戻るらなければならないのか。一番良いのは面倒臭いのに出会さない事だが、ツィルディエンデ氏が言うように死体を放置していくのが良いのかもしれないな。どうせ、奴等は生死問わずだ。その辺で野垂れ死んでもだとしても、誰の迷惑にもならないだろう。
「長らく前線に居ると心が荒むというが、君達も大して変わらないようだね。ここは、私が出ようじゃないか。称号すら無くなったとはいえ、かつては“勇者”で在った身。私の姿が威嚇になるかもしれないし、戦闘を回避出来るかもしれないだろう」
そう言うや否や、ロドリック氏は颯爽と外へ出て行った。
果たして、外の盗賊達はロドリック氏の事を“元三代目勇者”であると判断出来るのだろうか。ロドリック氏の種族は竜人種だ。竜人種は見た目が似通った個体が多いらしく、他の種族から見ても、パッと見では誰か分からない。
かく言うオレも、ロドリック氏とその他の竜人の違いが分からない。まぁ、ロドリック氏以外の竜人と会った事が無いので今の所判別出来なくてもいいんだが。
オレの懸念は的中していたようで、先程から声を荒げている盗賊は独りで出て来たロドリック氏に困惑しているようだった。
「何だ、お前は? 竜人? まぁ、いい。大人しく出て来たのは褒めてやろう。さっき俺が言った事は分かってるな? 金と女と車自体を置いていけ。なぁに、命までは取らねぇよ。俺達は寛大だからなぁ!!」
あ、コレは油断したら後ろから襲撃してくるやつだな。命は取らない。但し、この場ではって奴である。
襲われた側が街の衛兵に通報すれば、奴等に討伐命令が掛かるからな。目撃者は消すに限るという訳だ。………まぁ、こちらは消される訳にはいかないので抵抗するがね。主にロドリック氏が。
「うーん、少し前まではボクの顔も売れていると思っていたけど、今はこんなものなのかなぁ」
一人称がボクとか言ってるし、ロドリック氏は敢えて“三代目勇者”を演っているようだな。そんな事言われても、盗賊達にはピンと来ていないようだが。
「はあ? ごちゃごちゃ五月蝿えぞ!! 俺が言った通りにしろ!! それとも、命が要らねぇのか!?」
「やれやれ。やはり旅人の勇者というのは人気商売の色が強過ぎる気がするね。代替わりすれば先代の事なんて忘れ去られる運命なのかな」
そんな事言われても、オレはロドリック氏以外の勇者は知らない訳で。
盗賊はロドリック氏を元勇者であると認識していないようだが、勇者ではないロドリック氏はそれを名乗る事は出来ない。“元勇者”という称号も返上したから尚更だ。
「ところで、女も置いていけと言ったが、ボクも対象なのかな? 普人族のキミからは分かりにくいだろうけど、ボクも女なんだ」
「えっ、女? でも、蜥蜴はちょっと………」
盗賊氏は先程以上に困惑している。まぁ、ロドリック氏は声も低い方だし、知っていなければ分かりにくいよな。
かく言うオレもロドリック氏の性別はよく分からなかった訳で。まぁ、オレに性別は無いから、ロドリック氏の竜人族だけではなく、汎ゆる生物の性別を見た目だけで判断は出来ないんだが。
「女の子を見た目だけで判断するとか死ぬべきでは?」
クオンが不穏な事を言っているが、お前もオレと同じように性別無い存在だろう。この星でのガワは普人族の女だが、性別等の機微についてはオレと同じように知識として知っている程度で、本質的には分かっていない筈だ。
『某の性別はどうなのでありますかね?』
知らんがな。生物兵器であるとしても、普通は性別なんて余分な機能とか付けないだろ。………ん? でも、TYPE_R_04か05が上の奴等は全員“姉”とか言っていたな。つまり、雌?
「っんな事どうでもいいんだよ! 金を置いて行くのか! 俺達に歯向かって死ぬのか! どっちか選べ!!」
おっと。オレが無駄な思考をしている間に話が進んでいたようだ。
オレ達の回答は勿論。抵抗する事。
悪いが、盗賊氏達はここで死んで貰おう。
今旅の同行者の性別割合は推定女性が多め




