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南の島………の中継点である第三都市、シュピーゲルへの同行者は、ロドリック氏、ゾンビーフ氏、ツィルディエンデ氏、クオンの四体にオレとTYPE_R_03となった。………流石にこれ以上は増えないよな?
オレ達は諸々の準備を整え、今はゾンビーフ氏が用意した馬車に揺られている。
馬車とはいうが、車を牽く馬は居ない。代わりに二足歩行の人型の何かが牽いている状況だ。コイツはゾンビーフ氏曰く、錬金術で作り出した人造生命体というモノらしい。人造生命体といえば、オレも一体持っていたな。まぁ、ゾンビーフ氏から貰ったモノだが。
しかし、この人造生命体は分類的には住人扱いなのだろうか。
「分類的には道具ですね。生命体とは言っていますが、彼等に生命は宿っていません。まぁ、分かりやすく言えば魄があるだけで魂が無い状態と言いますか。私の目下の目標は、魂を作り出す事ですかね。………ここの運営がそれを許可しているならばの話ですが」
肉体を人工的に作成出来ても、中身が無い状態って事か。まぁ、魂の鋳造は基本的に運営の専門分野だからな。それを、ただの旅人であるゾンビーフ氏が作り出せるとは思えないが、当の神が許可しているのならば話は別だ。………出来るのかな?
まぁ、それは兎も角。車での旅は至って順調だ。人造生命体は通常の馬よりも強靭でタフだ。過剰労働で多少身体を欠損したとしても、ゾンビーフ氏が修復材を掛ければ直ぐに元通りになる。
「へぇ、これは良い物だね。多少倫理観を無視すれば、前線組の負担が減るだろう。私が言う事でも無いけどね」
「戦闘の肉盾代わりにするのは余りお勧め出来ませんね。人造生命体も修復材も高価な物ですから、赤字が嵩む一方だと思いますよ。お仲間に採算度外視の錬金術師で他人に奉仕するのが大好きな異常者が居れば話は別かもしれませんが」
作られた存在とはいえ戦闘時の盾にしようとするとは、元勇者の発言とは思えんな。まぁ、勇者に関わる称号を返上した事で、色々と吹っ切れたのだろう。知らんけど。
それと、ゾンビーフ氏の言い方がやや辛辣だ。折角作った代物が肉盾にされそうだったのには、何か思う所が在ったのかもしれない。
さて、そんな馬車の旅は非常に快調である。車に使っている素材を厳選し、ゾンビーフ氏が持てる錬金技術を凝縮したため、揺れも少なく───若干浮いているため揺れはほぼ無いらしい───痛覚を持つ一部の面子からは非常に評価が良かった。尚、オレやツィルディエンデ氏にはよく分からない。
「いやぁ、この車は随分と快適だね。前線組にも、ここまでの物を持っているヒトはまだ居ないんじゃないかな?」
「これも快適性を追求して採算度外視で作った試作品ですからね。流通している車よりも良いと感じるのは無理からぬ話です。流通している一般的な車は利便性と整備性を重視していますから」
ロドリック氏の目は、この車が欲しいと言っているが、ゾンビーフ氏には渡すつもりは毛頭無いようだ。まぁ、試作品かつ安全性もまだ確認出来ていないようだし、そんな物を他に渡すのは心情的に嫌なんだろうな。
その後もロドリック氏が馬車の事を褒め称え、ゾンビーフ氏がそれに応じていると、突如馬車が急停止した。急停止したという事は何か良くない事でも起きたのか?
『あー、何か外に何か命知らずが居るでありますね』
命知らず? 外に居るのは敵性存在か? まぁ、この馬車に居る面子に喧嘩売るのは命知らずと言えるか。
「おい! その車に乗ってる奴!! 一度だけ警告してやる!! 金目の物と乗ってる車、それと女!! そいつらを置いて行ったら命だけは見逃してやる!!」
外から五月蝿い声が聞こえる。話の内容的にこちらを恫喝しているようだが、頭大丈夫か? こんな人造生命体が牽く、よく分からん車を止めようと思ったな。オレが盗賊だったらあからさまに怪しいし警戒してスルーするね。
「これは、盗賊でしょうか? そう言えば、第二都市が崩落してから、街道沿いでも増えつつあるんでしたっけ?」
「今、ちょっと透過して外を見てみたッスけど、恫喝してる奴は懸賞金が掛かってる賞金首の住人だったスね。確か、旅人も引き込んだ中規模の盗賊クランの所属だった気がするッス」
住人の賞金首か。………そういえば、組合は旅人だけが作っている訳じゃないんだっけか。ベンジャミン氏の所も、ボスが住人だった筈だ。………まぁ、イッカクがあんな事になった以上、角が今も機能しているのかは分からないが。




