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「やぁ、お待たせ。待った?」
「いや、貴女の方が先に居ましたよね?」
待ち合わせ場所に行ったら、既に居たロドリック氏の第一声がコレである。明らかにロドリック氏の方が待ってる側だよな?
「まぁ、いいか。先に報告ですが、実は同行者が増えましてね。オレの知人なんですが」
「いや、構わないよ。私も勝手にキミに同行する身だしね。同行者の増減は私にはどうしようもない事柄さ」
増える同行者は、ゾンビーフ氏とツィルディエンデ氏だ。どちらもロドリック氏に一方的に因縁があるらしいが、両者が会ったらどうなるのだろう。
暫く二体で待っているとゾンビーフ氏が現れた。彼は今日も普人族に擬態している状態だ。
まぁ、ヒトと会う際はそちらの方が都合が良いだろう。吸血鬼面の方は凶悪な面相な上に、対面した事があるロドリック氏が覚えている可能性もあるしな。
「やぁやぁ、お待たせしてすみません。あぁ、貴女が同行者の方ですね。初めまして。私は、この街で錬金店を開いております、錬金術師のゾンビーフと申します。まさか、元“三代目勇者”にこうして会えるなんて思ってもみませんでしたよ。ところで、トワさんとはどうやって知り合ったのですか? 私が言うのは何ですが、彼は滅多に会えないレアキャラのような存在ですからね。最前線に居るような方と接点があるようには見えないのですが。あぁ、すみません。こういった事を聞くのは野暮でしたね。いや、私の野次馬根性が悪い形で出てしまいましたね。今回は南の島でバカンスだそうで、ロドリックさんの場合は最前線攻略に疲弊した身体と精神を癒しに行くという事で付いて行く事を決めたのでしょうか。いや、私も日々の業務に追われていましてね。まぁ、多くの旅人や住人の方々に御愛顧にして頂いている故の嬉しい悲鳴という奴ですね。しかし、私も一度リフレッシュ休暇を得たいと思っていたところに、トワさんからお声が掛かった次第でしてね。やはり、旅は道連れ。多くの方が居た方が道中も楽しいでしょう。前置きが長くなりましたが、これから宜しくお願い致します」
ロドリック氏とは初対面であるという事を白々しく強調して宣うゾンビーフ氏。それとロドリック氏相手でも変わらず話が長い。ロドリック氏の様子を見るに、途中から聞き流していたぞ。
そんな彼女はゾンビーフ氏の余りの話題の多さに、何に対して応えようか迷っている感じがする。
「初めまして? 何だか何処かで会ったような気がするんだが、気の所為かな? まぁ、いいか。ご存知のようだが、一応。私はロドリックという。それと“勇者”だったのは結構前の事だし、最近“元勇者”という称号も返還したから、私はもう“勇者”とは縁もゆかりも無いよ。だから、これからはただのロドリックとして接してくれると嬉しい」
ゾンビーフ氏を何だか見覚えがあるとか言ってますよ、この竜人。まぁ、実際会った事在るのでその感覚は正しい。
あの時のゾンビーフ氏は、いつもの饒舌は鳴りを潜め言葉少なめだったが、滲み出る雰囲気のようなモノがあるのだろう。ロドリック氏は、ゾンビーフ氏を不審げに観察しているようだったが、頭を切り替えたようで右手を差し出していた。
その手を両手でかっしりと握るゾンビーフ氏。ついでに口も開かれる。
「まぁ、私のようなヒトは大勢居ますからね。勘違いしてしまうのも仕方ない事ではあります。“錬金術師”と聞くと胡散臭く感じてしまうのもそうです。錬金術師は魔法術師の一種とされていますが、他の分かりやすい魔法術師とは違い、戦闘で敵性存在に攻撃魔法を使うよりも、室内で様々な材料を混ぜ合わせた実験や研究が主な仕事ですから。何をしているのか同業者でないと分かりにくいという側面もあります。それに加えて、研究の果てに生み出されるモノの効果も一律ではない。錬金術で作成したモノを扱うヒトの多くも錬金術師です。作成した物品に対して開明的な説明をするヒトも居れば、何も説明せずに売りつけるようなヒトも居る。まぁ、何と言うか、私が言うのも何ですが、閉鎖的なヒトが多いんですよね。旅人ならば兎も角、住人はそれが顕著です。自身の研究結果を他所に漏らさないようにするのは結構なんですが、それから始まり、ヒトとの交流を断つという風になってしまうヒトが後を絶ちません。世界の神秘を解き明かす事も含めて、彼等には是非とも協力してほしいのですが、中々そういう訳にもいかず───」
話し続けるゾンビーフ氏の前にツィルディエンデ氏が割り込む。こういった場合、霊体だと厚みとか無くて便利だな。
「はいはい。長話のヒトは置いといて。初めまして。俺っちはツィルディエンデというッス。宜しくでス」
「黒い幽霊のツィルディエンデ? 悪名高きPKクラン、“邪霊の目”の鉄砲玉じゃないか。何故こんな所に? うーん、トワさんの交友関係が少々心配になってきたよ。………まぁ、今は関係ないか。初めまして。“ただの”ロドリックだ。“休暇中の”でもいいかな。キミも“休暇中”でいいんだよね?」
PKクラン? 邪霊の目?
何だか色々気になる言葉が出てきたな。ツィルディエンデ氏が言っていた『自分とは面識は無いけれど』の下りは、これを指していたのか。
しかし、PKクランねぇ。ツィルディエンデ氏もPKに散々殺されていたのに、自分自身もPKになるとはな。何が有ったのかは知らないが、不穏な空気にはしてくれるなよ?
「そうッスね。暫く戻らない事はリーダーに伝えておいたから、このバカンスが終わるまではそういう事はしないつもりスよ」
そういう事とはPKの事だろうか。まぁ、ツィルディエンデ氏が如何に高レベルであろうとも、この面子だとそう簡単に殺られるような奴は居ないだろうが。
ん? バカンス? 何でそんな話になってんの?




