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ツィルディエンデ氏とロドリック氏の因縁について聞きたいところではあったが、話す気はなさそうだし無理に聞き出す意味は無いな。あと、オレには他のヒトの事情なんてのは、それ程興味が無い事柄だ。
ツィルディエンデ氏はそれなりに高レベルのようだから、何処かでロドリック氏と顔を合わせるタイミングでもあったのかもしれない。
「ところで、さっき話していた“エーテル”ってのは何なんですか?」
「あぁ。少し前に発見された超級素材ですよ。複数の旅人がいつの間にか所持していた謎の水溶液で、入手方法が未だに確立されていません。恐らく、コレではないかというモノがあるのですが、再現性が無いので不明なままなんです」
ゾンビーフ氏曰く。
鑑定しても出てくる説明は“水”もしくは“水溶液”であり、明らかに鑑定レベルが足りないと思われる超希少素材である事。
誰も詳細を確認出来ないが、その性能は破格、もしくは異常である事。一口飲めば、汎ゆる状態異常を癒し、古傷を含めた全ての部位欠損を修復し、死にかけであっても生命力と魔力を全回復させ、暫くの間“死ななくなる”という効果を持つらしい。経口摂取しなくとも、身体に掛ければ効き目は少し弱いが同じような効果を得られる事。
薬剤や錬金薬、武具類の素材に使えば作成の成功率が爆上がりし、凄まじい追加効果を得られる事。
多数の旅人が所持していたが、検証やアイテム作成に使われ現物が殆ど残っていないと思われる事。
“水”を所持していた旅人には共通点があるらしい事。共通点とは、“大断裂”を通り、通称“水の星”に行き、死に戻りした事らしい。
その“水の星”では、星の管理者と思われる存在に問答無用で握り潰され即死させられた事。この時に入手したのが鑑定不能な“水”であり、状況から“水の星”の水なのではないかという推測が立っている事。
この“水”は、その管理者曰く、“原初の生命”という名称らしい事。
尚、“大断裂”は既に閉じているので、“大断裂”が再度開かない限り、新たに入手及び検証は不可能。
「“エーテル”という名前は、便宜上の名称です。例の管理者によると“原初の生命”という名前のようですが、その破格の性能から何処かの誰かが“神の水”と呼び始めたらしく、それが浸透して今に至るようですね。因みにこの国一番と言われる鑑定師が見ても、只の“水”なので相当な代物ですね」
なるほど? “水の星”で手に入れた“水”ね? そういえば、オレも“水の星”とやらに行った事があるな。………いや、その“水”の正体には心当たりしか無いんだが。
オレのアイテムボックス内部を見てみる。………これかな?
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名称:永遠の生命
耐久:???
希少:EX
概要:惑星■■を覆う水。汎ゆる生命が溶けた原初の水。神の如きモノの身体であり、生きた海水。その身に取り込めば一時的に神の力を宿す事が出来る。
神の一部を取り込むという事は、神の一部になるという神事である。努々忘れるな。神に認識されるという行いを。
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やっぱり、オレじゃねぇか。
つまり? 大断裂で、オレの星に送られた奴等がコレを持っているという事か? しかし、オレの身体の総量が減ったという認識は無かった。寧ろ、違う奴等が“増えた”という認識だった。ならば、この“水”は一体………?
まぁ、いいか。次元口は閉じたし、オレが許可しなければ再度開く事も無いだろう。この謎の水は現在有る量よりも増えないだろう。
とりあえず、ここの神に付けるクレームが一つ増えたという事で。
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アイテム永遠の生命を認識した事で、特殊技能“神水支配”を取得しました。
名称:神水支配
希少:EX
概要:永遠の生命、通称“神の水”の支配権を得る。
“水”を服用した旅人、惑星●●の生命体、及び“水”を使用したアイテムを隷属化させる事が出来る。
追伸:諸々の不手際、誠に申し訳ありません。貴方様の身体がこちらのシステムに入り込んだのは完全に予期せぬ事態でした。尽きましては、貴方様の身体を使用したモノに対しての完全なる支配権を付与致します。
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なにこれ。………いや、追伸って何だよ。
神の余計な一手間のお陰で、とんでも技能が生えてきた件。
しかし、何だ? この………“水”支配? 言葉通りの意味で捉えると、コレを取り込んだヒトやアイテムを支配………オレがコントロール出来るって事か? 例えば、さっきツィルディエンデ氏が購入した“致命の護符”の効果無くしたり、強制的に徴収出来たり?
この“水”は元々オレの身体だから、オレがコントロール出来るのは当たり前だが、コレを取り込んだモノすら操作し得るってのは、正直やり過ぎな気がしないでもない。しかも、この“水”を使ったりしたのは旅人だろう。アイテム作成にしても、コレ自体に高い技量が要求される代物だ。そんなヤバいモノが使われたアイテムとは如何様なモノなのか。
コレの実際の効果を試すにしても、時と場所を選ぶ。流石にツィルディエンデ氏のを使う訳にもいかないだろう。
それに、この技能を他のヒトに知られたらどうなるか分かったモノではない。ゾンビーフ氏やツィルディエンデ氏にバレるのも危険だろう。
とりあえず、この件は保留で。
「どうしました? トワさん?」
「あー、どうやらオレも、件の“水”を持ってるんですよね。今知りましたが」
オレの言葉にゾンビーフ氏は目を見開き………目が血走っているぞ。一瞬吸血鬼面が見えた気がしたが、キモいぞ。
「なるほど。トワさんも“水の星”に訪れた事があったのですね。残念ながら、私は行った事がなく。というよりも、“大断裂”クエストはスルーしていたんですよね。どうやら、“大断裂”をスルーしたのは私以外にも結構居るらしく。そんな折に現れたのが、この“水”です。最前線攻略組を自称する一部の高レベル旅人は、この“水”の増産を望んでいるらしく、“大断裂”を進めている旅人を特定しようと大々的に“狩り”を行うつもりらしいですよ。つまり、その旅人に懸賞金を掛けて見付けようとしているんですね。それで、あわよくば“大断裂”を再度発生させて、“水の星”へ行き“神の水”を大量に仕入れようとしているとの事ですよ。まぁ、本当はもっと過激な事を言っていて、『“水の星”を侵略して、自身の管理下に置く事』が目的らしいですが。しかし、聞く所によると、“水の星”に行った方々は一瞬で即死させられたとの事でしたが、件の旅人はそれに抗する対策でもあるのでしょうか………?」
はぁ。この“水”欲しさに“大断裂”を再度発生させて、剰えオレの星を乗っ取ろうとしている? 何処の馬鹿だそいつは。
まず、“大断裂”が発生したところで、オレの星に通じる可能性はゼロだし、この星のシステムに囚われた旅人が星そのものに勝る事は不可能だ。
まぁ、そんな大それた事を考えつかせてしまう程、この“水”が魅力的って事なんだろうな。………何だろう。元がオレの身体であると思うと、回収した方がいいのか?
水の星:主人公の故郷。377,378話。
ただの水:“水の星”に送られた旅人が強制変換されていた“海水”の残滓。トワ君本体の身体。




