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黒い幽霊氏は、左右にゆらゆらと蜃気楼のように揺れている。
オレの知り合いで不死者となると結構数が絞られる事になる。しかし、相手が旅人となると、ゾンビーフ氏みたく種族を変更していたりするので、オレの記憶にあるヒトと違ったりするんだよな………。
「あー、まぁ、俺っち達が会ったのは結構前でスからね。しかも、あの時以降全く接点も無かったし、仕方ないでスよ!」
何か、この一人称に聞き覚えがあるような、無いような。TYPE_R_03さんや。このヒト知らない?
『知ってる訳無いであります。あの不死者の所の奴でもなさそうでありますし、某とトワ殿が出会う前のヒトではないかと思うであります?』
なるほど。ヘイルデン要塞の所の不死者兵ではないという事は分かった。
うーん。幽霊の知り合いねぇ………。ん?
「まぁ、改めて自己紹介しておきまスよ。俺っちの名前はツィルディエンデっていうッス。前は幽霊だったけど、今は収穫の大鎌っていう種族でスね」
あー、何だか急に思い出して来た気がする。初期リスポーン地点である旧イッカク共同墓地で、オレと同じようにPKクソ野郎にリスキルされてた幽霊か。
あの頃はお互いにクソ雑魚だったが、ツィルディエンデ氏は見るからに高レベルになっていそうな雰囲気がある。いや、オレ自体は未だに雑魚だが。
「ゾンビーフっちとはあれから何度か顔を合わせた事はあるスけど、トワっちとはマジで久しぶりスねぇ。あれから何してたのかとかは聞かないスけど、トワさんも大分ゴツくなったッスね!」
ゴツ………? 今のオレはTYPE_R_03を全身に纏い装備している形だ。黒い不定形の中で淡く輝く骸骨。それがオレの見た目である。まぁ、確かにゴツ………不審な見た目であるとは思うが。
「ところで、こんな個室で二人で内緒話してるってのは何か有るんスか? 差し支えなければ、俺っちも一枚噛ませて欲しいッス!」
内緒話? まぁ、個室で話していたらそんな誤解もされるか。しかし、話していた事は“オレが行く観光地について”だ。
もしかして、ツィルディエンデ氏もオレに付いてきたいのか? いや、店の個室を使ってやる事といえば普通は商談だろう。それで勘違いをしてしまった、と。
チラとゾンビーフ氏がこちらを見てくる。申し訳ないが、オレはヒトの顔色だけでは察せませんよ。
「あー、ゾンビーフさんと話していたのは商談とかではなく、お勧めの観光地が何処かを聞いていただけですよ。オレがこの世界に求める目的は観光地巡りなんで」
「あぁ! そういえば、山に登る事が趣味だとか言ってたッスね! トワっちが、冒険とか攻略目的じゃないってのは、あの時既に分かってたッスよ。………実は俺っち、最近PKに遭いまして。それで、ちょっとやる気が削がれちゃってて」
なるほど。ツィルディエンデ氏は最初期に有ったPKに最近も遭ってしまい、世界のやる気が削がれているらしい。それで、オレの観光地巡りに同行したいんだな。つまり、傷心旅行だ。
しかし、PKか。オレも最近はアレだが、結構死んでいる記憶がある。まぁ、基本的に他の旅人には会わないので、その大抵はNPCなんだが。
不死者は、種族能力で生命力半減とかいうデメリットが付いているせいで、戦闘面でハンデを背負っているだろう。まぁ、その代わりに色々な有用な能力もあるが、LPが他の種族の半分というのは中々にキツいと思う。
そんな中でも、諦めずに冒険しているゾンビーフ氏やツィルディエンデ氏は偉いと思う。………で、何の話だったっけ。
「そうですねぇ。トワさんさえ宜しければ、私も同行させて貰えませんか? 単純にロドリックさんの動向も気になりますし、世界攻略ではなく、観光地巡りも良いモノだと思いますし」
話の流れ的に、ゾンビーフ氏とツィルディエンデ氏も同行する事になった。いや、ロドリック氏も居るんだが? 彼等が同行するにしても、彼女に了承を取った方が………いや、そういえば、奴もオレの観光地行きに勝手に同行しているだけだった。向こうに伺いを立てる必要無いわ。
彼等の要望を断るのは簡単だ。だが、オレはそれを許した。何故ならば、TYPE_R_03が居るとはいえ、ロドリック氏との二人旅は何だかなと思ったからだ。それなりに仲の良いゾンビーフ氏と、顔見知り?のツィルディエンデ氏が居た方が良いだろう。
そんな訳で、二体には然る後に冒険者組合でロドリック氏と待ち合わせしている事を伝える。
「ん? ロドリック? 元“勇者”の?」
そういえば、ツィルディエンデ氏には同行者を伝えていなかったな。今回の同行者は、TYPE_R_03とゾンビーフ氏とツィルディエンデ氏です。
「いや、んー、いや、何でもないスよ。別に俺っちには因縁とか無いでスし」
因縁? 最前線攻略者との因縁というと、ツィルディエンデ氏も結構強いヒトなのか?
ツィルディエンデ氏は5,14,37話のヒトです。




