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はい。
月の観光旅行が終了しまして、月面基地へと戻って来た次第。
いやぁ、TYPE_R_03が言うように特筆すべき事は何も無かったね。ただ、星々の位置から、この星が何処にあるのか大凡把握出来た。まぁ、それが分かったたころで具体的にどうするという事でも無いんだが。
という訳で、例の輸送艦に乗って星へ戻る事になった。諸々の準備は基地に残ったTYPE_R_03の分身体が何とかしてくれていたようで、改めて何かをする事もないようだ。
ここまで乗ってきた輸送艦には動力が存在しない。そのため、TYPE_AA_00の主砲の中へと装填されていた。そもそもの規格が合っていないし想定された使い方ではないため、色々と問題が出てくるかもしれないが、オレが無事に星へ帰るためにはこれに乗っていくしか無いのでな。
………いや、戻るだけならTYPE_R_03の中に入って大気圏に突入すればいいんじゃないか? 太陽の熱にも耐えられるようだし、摩擦熱程度なら余裕だろう。
『別にそれでもいいでありますが、それを戻さなくても良いであります? というか、TYPE_F_01からの要請的に戻す方が良いであります?』
『そうだぞ。私が契約している旅人達が今後使えるように地表に戻すべきだ』
そういえば、そんな約束が有ったような、無かったような………。
今後何処かのタイミングでここへ来る事があるかもだし、元あった場所に戻しておいた方がいいか。
その後、特に何も滞りなく出発準備が整えられ、輸送艦に乗り込むだけとなった。骸獣やら吸血鬼やら勇者やらの存在が無ければ、スムーズにいくのだなぁ。まぁ、今回はあちらの勢力にオレ達がお邪魔した形になるが、勝てば官軍なので何も問題はないだろう。
『では、トワさん。お達者で。01はこのまま、ここに残る形となりますが本星で02と仲良くやってください』
TYPE_A_01は、分身体のTYPE_R_03と共に月面基地に残るようだ。01と02は使う身体が違うだけの同個体だから、その台詞だと何だかややこしいな。
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TYPE_A_01との別れを惜しみつつ………惜しんでいたのは向こうだけだが、無事に地表まで戻って来れた。輸送艦は無事………ではない。やはり耐久年数が大分過ぎていたせいか、あちこち表層が剥げていた。ここに来るまでは、TYPE_R_03が応急措置的にTYPE_R_03が覆っていたが、コレを再度使用するためにはある程度の修繕が必要だろう。
地表に戻って来たのは、オレとTYPE_R_03だけだ。TYPE_F_01は中間圏辺りで元居た場所に戻るとか言って、外へ滲み出て行った。
輸送艦の発射地点である、吸血鬼達の村は、オレの記憶にある最後の様子とは打って変わっていた。
あの時は、地下から輸送艦が飛び出して来た事によって、地面がめくれあがり村は壊滅状態となっていた。今は、輸送艦の発射口という穴はそのままに、周囲に建物が再建されていた。あれからどれ程経ったのかは分からないが、吸血鬼達は、この地を捨てずに村を復興したようだ。
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「やぁ。待っていたよ」
輸送艦を所定の位置に安置し地上に戻って来たら、見知った蜥蜴面がオレ達を出迎えた。
「確証は無かったが、ここに戻って来てくれるとはね。私が退場してから凡そ二ヶ月程経っている訳だが、月で何をしていたのか聞いてもいいかな?」
オレ達を待っていたのは、“元勇者”のロドリック氏だった。………しかし、二ヶ月か。時間感覚は分からないが、ロドリック氏の口ぶりだと長いのだろう多分。恐らくだが、月の裏側への観光が結構時間を食ったのかもしれないな。
「因みに、キミの仲間の山巨人と蜘蛛の方々は一足先に別の地へと旅立って行ったよ。流石に待っていられないそうで、キミに会ったら『ヨロシク』と言っておいてくれと頼まれてね」
ラクガン氏とエレイン氏は、もうここには居ないそうだ。彼等はオレの“とりあえず北極点に行ってみる”という目的に同行していただけだし、オレだけが月へと行った事で暫く帰って来ないと判断し、別の場所に観光でもしに行ったのだろう。
「それで、何でアンタはここに? 元居た所に帰ったんじゃないのか?」
「勿論、あの後仲間の所に帰ったよ。でも、私の休暇はまだ残っていてね。再度こっちに戻って来たという訳さ。いやぁ、大変だったよ。何せ、村が半壊したお陰でリスポーン登録地として使えなくなっていたから、再び近場から歩いて来るしかなかった。まぁ、この村を壊滅させた者の片棒を担いだ人間の贖罪として、復興を手伝う目的を果たせたからいいけどね。………そうそう、私はもう“元勇者”でもなくなったよ」
ロドリック氏は“勇者”の称号を返上したようだ。骸獣陣営に思考誘導されていたとはいえ、“勇者”が護る者と決めたモノ達を蔑ろにし、壊滅状態まで陥らせた事を気に病んでの結果らしい。
“元”であっても“勇者”の称号を失った事によって、ロドリック氏は“勇者”時代の頃よりも大幅に弱体化。まぁ、元に戻ったといえなくもないんだが、身体能力の再調整に難儀したようだ。それでも、竜人種の馬鹿みたいな膂力によって、復興支援は問題無かったようだが。
………それにしても、この発射口という名の大穴が残っているとは思っていなかったが。
「あぁ、それ? いずれ私達のような旅人が使う時が来るだろうから、村のヒト達で整備しようって話になって………いや、私が誘導してね。今までこの地は訪れるモノもほぼ居ない閉ざされた村だったが、コレを聞きつけた旅人が訪れるようになったら、彼等の居場所が無くなりそうだと思ってね。寧ろ、コレを利用した一大産業を作り出そうと画策しているところなんだ」
まさかの観光地化プロジェクトだった。それに、この大穴を彼等が管理する事で、輸送艦を使う奴等から利用料や通行料をブン取る名目が立つだろう。
何処で使うのかは知らないが、外貨獲得のチャンスでもあるようだな。
「そうですか。頑張れよ」
まぁ、オレには関係ないけど。
ラクガン氏もエレイン氏も居ないとなれば、ここにはもう用は無い。復興支援とかで何かを求められても困るし、さっさと別の場所へ行くか。
「コレには特に興味無いのかい? キミにも関係ある………いや、無いか」
大穴を開けたのは骸獣に協力していた吸血鬼だし、オレには関係ないですね。まぁ、相乗り状態になった事は確かだが、それだけで島を崩壊させた責任をこちらには負わせられないだろう。
「あー、キミはここの興味を無くしたようだが、これから何処へ行くんだい? もし良かったら私が同行しても良いかな?」
えー? やだ。
確かにこの島への興味は既に無いが、何処へ行くとも決めてない。とりあえず、イチバンへと帰ってどうするか考えようとしていたが、ロドリック氏と一緒に戻る? というか、このヒトは復興助力してるんじゃないのか?
「見ての通り、もう私の力を必要都市内段階に入っている。後の力事は彼等が何とか上手くやっていくだろう。というより、アレの運用には旅人である私を介在させない方が良いような気もする。そのため、私はここから離れた方が良いだろうな」
なるほどな。………うーん。因みにTYPE_R_03サンはどうですか?
『トワ殿とイチャイチャ出来ないから嫌であります。が、所詮某はトワ殿の道具なので、トワ殿の決定に嫌々ながらも従うしかないであります』
おい。誤解を招く言い方は止めろ。
念話だから誰かが聞いている訳でも無いだろうが、TYPE機辺りならワンチャンありそうだから止めろ。それに、今迄も別にイチャイチャしてないだろ。
旅は道連れ、世は情けと何処かでも言うようだし、今回はロドリック氏を加えてみても良いかもしれない。この島に来るまでもエレイン氏とラクガン氏と小妖精と一緒だったし、離れる時も誰かが居た方が案外楽しいかもしれない。
「まぁ、いいですよ。とはいえ、何処へ行くかも決まっていないので、それでもいいなら」
「勿論構わないとも。私はただの添え物と思ってくれれば」
添え物………。元とはいえ勇者が言う事なのか? まぁ、戦闘面ではこちらが圧倒しているし、そ思ってしまうのも必然なのかもしれない。………ロドリック氏の方が勝っているモノ………強いて言えば人徳か?




