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山と谷がある話  作者:
10.再度北へ行こう
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 TYPE_F_01は無事なようだが、ロドリック氏はダメなようだな。ロドリック氏が弾け飛んだ後に残る光の粒子は、徐々に数を減らし消えていく。どうやら死に戻りしたみたいだな。

 彼女の言が正しければ、戻った先では絶賛重度なデスペナが課されている筈だ。

 ロドリック氏が死に戻り、例の老吸血鬼は燃え尽きた事で、この輸送艦に居るのはTYPE機達を除いてオレ一体となってしまった。

 そして、今から行く場所は全旅人(プレイヤー)未踏の地である月面だ。観光名所を探して各地をぶらついているオレが、まさかこんな所まで来るとはね。まぁ、今更な話か。


『それで、こんな所まで来させてオレに何をやらせたいんだ?』


『まずは、TYPE_A_01と本契約する事でありますね。02(端末)から聞いている通り、01(本体)はここで死に体となっているであります。TYPE_A_01が統制官を得る事で、TYPE_AAを本格起動させる事が出来るであります』


 惑星全体の監視と観測が専門のTYPE_A_01と、惑星の表面を焼ける戦略兵器のTYPE_AAが本格起動? 嫌な予感しかしないな。………いや、災害(レイドボス)級の骸獣を効率的に殺すためならば、正しい選択なのか?


 輸送艦の先端へと辿り着いたようだ。輸送艦は既に月面基地へと接続されており、後はハッチを開くだけとなっている。

 因みに、向こう側には空気が無いらしく、この待機スペースは既に真空だ。………これってロドリック氏が生きていたらどうするつもりだったのだろうか。オレに酸素は必要無いが、ロドリック氏は生者であるからして。まぁ、仮定の話はどうでもいいか。

 ハッチを開けた先には、黒い粘体が蠢いていた。黒い粘体は、棘々しい見た目になったり、身体を膨張させてみたりと、何だかおどろおどろしい感じを装っているが、どう見てもTYPE_R_03の分体ですね分かります。


『そういえば、ここに(それがし)の本体が居るって以前話していたでありますね』


『なぁんだ。誰も足を踏み入れた事の無い場所に行ってみたら、不気味な生命体が居たとかいうストーリーを考えていたのに、旅人(プレイヤー)殿はつまらない骸骨(スケルトン)でありますね』


 月基地に居たTYPE_R_03は、何だかオレを知らない素振りを装っているが、お前等って同個体で同期とかしてるんじゃないのか?


『某は、TYPE_Fみたいな情報生命体ではないので、それぞれの個体で同期するためには直接接触する必要があるであります。通信する分にはいつでも何処でも出来るでありますが、通信だけで同期出来る訳じゃないであります。………という訳で』


 オレが纏っているTYPE_R_03が触手を伸ばし、うにょうにょと蠢いている月基地のTYPE_R_03に触れる。

 何となく、月基地に居た方はこちらよりも巫山戯た性格な気がするが、長らく切り離されていた事でそれぞれ個性でも芽生えるのだろうか。………オレの星で寝てる奴は大丈夫かな?


『なるほど。TYPE_A_01の件でありますね。アレが使われる日が来るとは、例の神様々でありますね』


 おや? 割とメタな存在とはいえ、TYPE機から運営()の事を聞くとはな。

 オレがここに至るまでに得た情報によると、運営()この世界()娯楽遊戯(ゲーム)として公開したのは、星冥獣によって文明が崩壊した後の事だ。つまりは、一般的にな架空の世界ではなく、現実の世界という事なんだが。

 確か、星の権利者(オーナー)は兎も角、世界運営(ゲームマスター)は元々この世界の神だったとか。よく分からんが。


『そうと決まれば早速行くであります。アレが死んでいる場所はここから程近いでありますから、そんなに手間でも無いでありますし』


 月基地勤務の方のTYPE_R_03が先導し、颯爽と外へ出て行く。

 最強人造生物であるTYPE機には、通常の生命体に必要な諸々の要素が関係が無い。呼吸のための酸素も魔力も宇宙線ならぬTYPE_Oの怪電波も無視して、そのまま月面を闊歩する事が出来る。

 あの輸送砲が他の旅人(プレイヤー)が使えるとしても、TYPE機の協力が無ければここへ来たとしても無駄足になるんだろうな。そもそも、輸送艦の乗客用の部屋から外へ出られるかすら怪しい。


『さて、着いたであります。ほら、起きるでありますよ』


 確かに早いな。目と鼻の先とは言わないが、それ程移動した訳でもない。外敵が来ないとはいえ、観測用のTYPE機を遠い場所に放置するのは拙いと考えたのかもしれない。

 TYPE_R_03は月面に横たわり動かないTYPE_A_01を触手で小突いている。TYPE_A_02(ヘイゼル氏)の本体と言われるTYPE_A_01は、長くデカく戸愚呂を巻いた蛇のような生物だった。………そういえば、奴との初対面時に”翼ある蛇“とか言っていたが、こういう事だったのか。

 月面に残されたTYPE_A_01は活動を休止し、乾眠状態のようになっているらしい。新たな統制官と契約すれば活動を再開出来るだろうとは言われていたが、星冥獣を撃滅した第一人類種が滅んでから幾星霜。オレがここに来るまでは叶わなかったようだ。

 TYPE_A_01と契約するためには、直接身体に触らなければならないらしい。しかし、ここでTYPE_R_03の鎧を一部でも外すと、ロドリック氏と同じように魔力過多で弾け飛ぶので、TYPE_R_03には蛇の身体をくまなく覆っておいて貰う。これで、安心して契約に挑めるという訳だ。


『もしもし。今貴方の心に直接話し掛けています』


 TYPE_A_01に触れると巫山戯たセリフが頭の中に響く。久しぶり過ぎて忘れそうだったが、この声はTYPE_A_02(ヘイゼル氏)だな。何で01(本体)じゃなくて02(端末)の方の声が聞こえるんだ?


『それは、私がTYPE_A_01の意識体だからですね。本体は月から自由に動けません。故に、02という端末機を作り、01の意識を乗せたという事です。まぁ、この星程度なら(そこ)で観測でも問題無いんですが』


 じゃあ、端末機なんて要らないんじゃないか?


『いえいえ、月面で一人寂しく仕事するというのは中々大変なのですよ。当時一緒に居たのは、骸獣を殺す事だけが生き甲斐のTYPE_R_03と自我を持たない設計のTYPE_AAでしたからね。故に、どうしてもあちらで活動するための身体が必要だった訳です』


 つまり、暇だったんだな。

 まぁ、それはいいとして。ヘイゼル氏が出て来たって事なんだが、この契約ってどうすればいいんだ? 意識体がヘイゼル氏って事は、ここに居る奴は空っぽなんだろう? 中身が居ないのに、どうやって契約するんだ?


『いえ、契約は既に終わっています。端末機である私と仮契約を結び、本体であるそちらに接触した時点で、本契約となりました。いやぁ、これで私も大手を振って活動出来るというもの。まさか、トワさんが私の主になるとは。ヒトの縁というのは分からないものですね』


 お互いヒトではないけどな。

 まぁ、確かに出会った当初は、丁寧ではあるが何処か余所余所しさがあったな。何より存在自体が胡散臭かったし。


『では、トワさんも来た事ですし、計画していた仕事を成し遂げましょうか』


 目の前で死んでいた蛇が目を開き、その巨体を起こす。どうやら、意識体(ヘイゼル氏)が本体へと戻って来たようだな。しかし、情報収集がメインのTYPE機に、ここまでの巨大さは必要だったのか? 蛇を模しているのも気になる。


『私は、生命体タイプのTYPE機の中でも初期のモノですからね。TYPE機の元となった星冥龍の姿に近いのです。TYPE_R_05という例外も居ますが、私以降のTYPE機は基本的に星冥龍とは違う見た目になっています』


 星冥龍と呼ばれる奴は、第一人類種の味方をした星冥獣からの離反者だ。人類側に寝返ったとはいえ、星冥獣の姿をした奴を見たくはなかったのだろう。

 そのため、星冥龍の姿に似ているTYPE_A_01は月に追いやられ、以降のTYPE機は星冥龍とは似ても似つかない姿で造られる事となった。………TYPE_R_05(アル)の事はよく分からないが、きっと碌な事情ではないのだろう。


 TYPE_A_01に促され、月面基地へと戻って来た。TYPE_A_01は巨大過ぎて基地内部に入れないため、外で待機になった。ついでに、TYPE_A_02(ヘイゼル氏)の色違いみたいな奴を作り出し、それをこちらに同行させている。


『星冥獣を撃滅し骸獣が発生してから、現在まで凡そ数千年が経ちました。この間に駆除した数は一万と三千六百八十七匹。と言っても、戦闘型TYPE機が骸獣殲滅のために稼働していたのは、ほんの数百年程度。何分、安全装着のための統制官の寿命が先に来てしまいましてね。残念な事ですが。そして、取り逃してしまった骸獣は数十匹程度となります。しかし、現在までに生き残っている骸獣はほんの数匹です』


 オレが倒した事になっている骸獣って何匹だったか。………確か、三匹? ここへ来るまでに自然消滅した奴は勝手に死んだのでオレのせいではない。

 TYPE_A_01の口振りだと、残りの骸獣は十も居ないようだ。海底都市近くに一匹居るらしいし、残りの骸獣は多くて四匹か?


『現在まで生き残っている骸獣はそれなりに力を増しています。流石に星冥獣(オリジナル)に勝る事は今の所ありませんが、戦闘型のTYPE機が居ないと倒す事が困難になっているようです。既に詰んでいた骸獣は兎も角、存命中の骸獣の内、討伐されたのはTYPE_R_03と05が倒したモノだけですし。………さて、この生き残りの中でも面倒臭い場所に居座っているのが一匹居りまして。まぁ、純戦闘型のTYPE_R_03がやってもいいと思うのですが、足が付くと恐らくトワさんが矢面に立たされる訳なのですよね』


 TYPE_R_03が出張ると面倒臭い状態になる場所? 何処だそれ。いや、余り聞きたくない。どうせ、旧イッカクのようにTYPE_AAを使って爆撃しましょうって事なんだろ? つまりは、何処かヒトが多く集まるような都市だ。………海底都市とか?


『あそこは如何にTYPE_AAであろうとも、海水によるエネルギー減衰が見込まれるので撃っても余り効果が見込まれない場所ですね。………さて、お察しの通り、件の場所はヒト………特に第二人類種(今の人類)旅人(プレイヤー)が多く集まる都市です。その地下深くには、虎視眈々と身を潜める骸獣が居るようです。私としては、コイツを今の内に叩いておきたいのです。何故ならば、この骸獣はヒトの生命エネルギーを吸い成長しているのです。地下深くに潜む故に、地上の誰にも気付かれる事なく都市に住む人々の生命力を吸い上げ、際限なく成長していく厄介な骸獣なのです。放っておくと星冥獣と同格になる事も有り得るでしょう』


 なるほど。星冥獣に匹敵する可能性がある骸獣を今の内に駆除しておきたいのか。………それって、TYPE_AAを撃ち込むより先にTYPE_R_03を地下に送り込んでサクッと殺して来て貰うって事は出来ないのか? 足が付くとか言っているが、超兵器ならそんなヘマはしないだろう。

 まぁ、確かに、TYPE_AAを使えば地下に潜んでいようとも問題無く駆除は可能だろうな。地下深くに居た不死の王(ノーライフキング)を焼き尽くしたイッカク事件が良い例だ。但し、それをすると地上に居る奴は全員死ぬ。

 TYPE_AAを使う事が骸獣殲滅という命題において、確実で早いというのは分かる。だが、戦略兵器(こんなモノ)をそれだけの理由で向けてしまっても良いのだろうか。


『因みに、何処に撃つつもりなんだ?』


『地理的に言えば、”エウリパヌス“という国の首都ですね』


 おいおい。国の首都って人口密度やら何やらと一番ヤバい所じゃねぇか。そんな所に戦略兵器を撃つのか? 冗談じゃ済まないぞ。


『でも、このまま放置すると益々骸獣が増長するでありますよ?』


 いや、とりあえず地上に置いている分体のTYPE_R_03をそこに送り込めば済む話では? それに、エウリパヌスってのは、確か旧イッカクが所属していた国だ。イッカクに攻め込んだ自称”勇者“達の件で覚えている。

 つまり、TYPE_AAの目標は王都という事になる。コイツ等、イッカクのように全てを消すつもりか?


『まぁまぁ。第二人類種(ヒトモドキ)旅人(異星人)なんて、トワ殿にとっても、どうでもいいじゃないでありますか。それに、旅人(プレイヤー)は生き返るでありますし。骸獣の餌になる位なら、さっさと吹き飛ばした方が彼等の尊厳のためにもなるのではないであります? それに、あの街みたいにトワ殿が支配権をもぎ取れるかもしれないでありますよ?』


 いや、そういうのに興味無いって前に言ったよな? いいから、とっとと地上に居る奴でも動かして殺ってこいよ。


『うーん、おかしいであります。前の街の時はトワ殿もノリノリだったのに、何で今回は渋るんでありますか?』


 いや、イッカクの時はそれが最善手だった訳で。それにノリノリではなかったが。

 例のイッカクの時は、そこに居るだけで生者を不死者(アンデッド)にする不死の王(ノーライフキング)を一瞬で焼き尽くすためには、TYPE_AAの砲撃が一番確実だったのだ。TYPE_R_03でも不死の王(ノーライフキング)は悠々と殺せるだろうが、瞬間的に全てを殺せる訳ではないからな。

 しかし、今回は単に厄介な場所に居るというのと、王都住人の生命力を徐々に吸い取っているだけのこと。急を用する訳でも無いし、TYPE_AAなんて短絡的な方法を取らず、TYPE_R_03でサクッと暗殺でもしてきた方がいいんじゃないか?


『ならば、”深淵の骸獣“に撃つのはどうだ? あぁ、私達が契約している”海の呼声“という旅人(プレイヤー)達が攻略しようとしている奴の事だ』


 TYPE_F_01が別の提案をしてくる。それはそれでどうなんだ? 巻き添えであのヒト達死なない? それに、もしそれで”深淵の骸獣“とやらをやってしまった場合、オレが彼等の恨みを買ってしまうのでは?


『何故? 彼等と私達は骸獣を倒すという事を目的に契約を結んでいる。ならば、骸獣を結果的に倒す事が出来れば、過程等どうでもいいのではないのか?』


 いや、彼等は自分達がレイドボスを倒すのだと張り切っているのだろう。そのための準備も練習も文字通り死ぬ程やっている筈だ。それをオレが横から掻っ攫うのは、彼等の思いを無視している。ヒトでは無いオレでも割とどうかと思う行為だぞ。


『意味が分からない。それは、目的と手段が入れ替わっているだろう。骸獣を殺す事が正しい事である筈だ。それならば、彼等がやってもTYPE_AAが焼き殺しても変わらないだろう』


 いや、まぁ、手段と目的が入れ替わっているってのは、まぁ、そうなんだが。

 うーん、難しいな。骸獣殲滅が第一優先の超兵器にここら辺の機微を説明するのは。

 というか、海中に撃っても威力減衰で効果無くなるんじゃなかったか?


『全く効果が無い訳ではないだろう。さもなければ、骸獣共は揃って海中に没する筈だ。それに、範囲を絞って出力を集中させれば問題ないだろう』


 いや、それ撃ったところで骸獣に当たるか微妙じゃないか? それに、超出力の熱で骸獣周辺に居る奴等も諸共に死ぬだろう。”海の呼声“には、ヒラメ氏などの世話になった者も多い。オレ的には王都に撃つよりも忌避感が強い場所だ。


『なるほど。分かりました。私としてはトワさんの気持ちは少しは分かるつもりです。それに、強大な力を手にした事で傍若無人に振る舞うつもりも無いようで安心しましたよ。統制官はTYPE機(我々)の抑止としての機能を持たせるための存在ですからね。早々、力に溺れるような者には務まりません。世が世なら、直ぐ様解任されていたでしょうね』


 ヘイゼル氏が何だか頷きながら言う。もしかして、今の問答でオレって何か試されていたのか? ここでTYPE_AAを使って王都を焼いていたら、ついでにTYPE_R_03に焼かれていた可能性もあるな。やけにグイグイと来るから不審感はあったが、こういう事だったのか。


『いえ、某は第二人類種(ヒトモドキ)なんてどうでもいいので、とっとと王都を焼くべきだと思うであります』


 ですよね。


GWは11連休でした。

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