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唐突な敵ボス終了のお知らせ。
外で散っている火花は、骸獣が太陽に焼かれた残骸が流れているからだそうだ。
あぁ、だから手を下すまでも無いとか言っていたのか。その上で生き残っていたら殺すと。成程ね。
「骸獣の端末らしき吸血鬼達はどうなるんだ?」
「さあ? 本体が死んだら端末も道連れになるのが定めだが、通常の吸血種は第二人類種に奴等の遺伝子を注入されただけだからな。この輸送艦に乗り込んでいる奴は、外の奴と同じく焼かれている筈だが」
骸獣の影響が強い奴は、本体と色々同期しているらしく、骸獣が受けたダメージのフィードバックを受けるらしい。
つまり、さっきの老吸血鬼は既に消し炭になっている可能性が高い。
ん? さっきの奴が死んだって事は、ロドリック氏はどうなるんだ?
「あー、ちょっと、待って貰ってもいいかな?」
部屋の片隅の光の粒子が何か言ってる。今現在もロドリック氏は復活すら出来ないように、光の粒子の段階でTYPE_R_03に刻まれている状態だ。あの状態で喋る事が出来る事自体が驚きだが、まだ何かあるのだろうか。
「どうやら、向こう側の契約不履行で解除されたみたいだ。だから、そろそろ止めにしないか? 今更、地上の事をどうする事も出来ないし、契約自体が無くなったから争う事は無意味だ。………不意討ちもしないと勇者として誓うよ」
流石に諦めたか? 寧ろ、ここまでされてまだ心が折れてないっぽいのが凄いな。“勇者”には不屈の心が求められるのは、そういう事なんだろうか。
でも、契約が無くなった云々の前に、契約とか関係なくオレ達の邪魔しに来たんじゃなかったか? まぁ、何か話したい事があるみたいだし、少しばかり斬り刻むのを待ってみるか。
「ありがとう。契約者からのバックアップも消えてしまったから、この状態も長くは保たないけどね。私から、お礼と謝罪を表明するよ。ヒルダ達と仲良くしてくれた事と、今回の件で迷惑を掛けてしまった事だ。………今回の件は、彼女に思考誘導されていたとはいえ二割位は私の意思の元でやっていたからね」
二割位の意思だと、それも思考誘導された結果なのではなかろうか。いや、“勇者”の意思だと、オレが思っている以上に割合が高いのかもしれない。
「専用技能の効果も切れたから、私の無限リスポーンはこれで終わりだ。次に死んだ時は強制的に初期リスポーン地点に戻され、効果時間中に死んだ回数分のデスペナが加算される。まぁ、そんな訳で、私にキミ達の妨害はもう出来ないという事さ。するつもりもないけれど。………それで、厚かましいお願いなんだけど、私も目的地まで着いて行ってもいいだろうか?」
別にいいんじゃね? ここで、ロドリック氏を始末するのは簡単だ。しかし、ロドリック氏は目的地まで行きたいと言う。それに、オレにその望みを拒否する理由も権利も無いし。
「ありがとう。では、お言葉に甘えて。………ところで、これは何処まで行くのかな?」
知らんがな。オレもコイツ等に拉致されて来ただけだし、人工衛星に行くって事しか聞いてないな。
「人工衛星? このファンタジー世界にそんな物が?」
あぁ。この世界は大昔に栄えた超文明が滅んだ後の世界らしいからな。ただ、人工衛星と言っても、その大きさは衛星クラスだ。
宇宙に浮かぶ二つの月。その内の一つが件の人工衛星であり、今回の小旅行の目的地らしい。行って何をするのかは知らないが。
「へぇ………。あの月が人工衛星ね。まさか攻略最前線でも知られていない事をこんな所で聞くとはね。ロケットを使って宇宙に行くという事になるとも思っていなかったしね。先月の異世界に行くっていうイベントも、何かの伏線だったのか? うぅん。これを考えると最前線に戻るメリットって有るのかな………」
何かブツブツと言っているが、元勇者で高レベルの旅人が世界の攻略に戻らなくていいのか?
そう言えば、誰も見た事が無いような景色を見るのが好きとか言っていたな。いや、それなら余程最前線に戻った方がいいんじゃないのか? 少なくとも攻略の最前線なら、全旅人の誰も見た事が無い景色だろう。
いいんだぞ? とっとと帰っても。
『TYPE_AAの重力圏に入ったであります。これよりは“天蓋”を閉じ、着陸に備えるであります。因みに向こうには着陸用の機構は無いでありますので、不時着する感じであります。つまりは、衝撃に備えろでありますね』
つまり、座席にしっかりと座りシートベルトを装着して、うっかり死なないようにしろという事だ。
ロドリック氏にも同様に伝えておいた。流石にここで死に戻りはしたくないだろう。
外に映る月の表面が徐々に近付き、視界の端から黒い物が飛び出し輸送艦に取り付いてきた。アメーバ状のソレは輸送艦全体に纏わりついてくる。何だかコレに凄い見覚えがあるんだが。
その間に月の表面へと不時着したようで、ズズンと重い音が響いてくる。
『さっき取り付いて来たのは、月に居たTYPE_R_03の分体でありますね。某の身体をクッションにして、着陸の衝撃を和らげたであります。何も無しで不時着した場合、爆発四散する可能性が無い訳では無いでありますから。ついでに適当に引き摺って、向こうの基地へと接続するつもりでありますね』
さらっと怖い事言ってるが、何? ここまで来ておいて、不時着失敗で死に戻りする可能性もあったって事か?
まぁ、無事に着いたからよしとしておこう。オレは単なる旅行気分で来ただけなのだし。
「さて、目的地に着いた事だし、向こうの基地へと行くか。そこの蜥蜴も来たいのならば来ると良い。但し、妙な真似をしたら死んで貰うが」
「勿論そんな事はしないとも。ボクは唯のお客さん………でもないな。唯の通りすがりの同行者だ。特に気にしないでいいよ」
TYPE_F_01の号令によって、月の基地………TYPE_AA本体へと乗り込む事となった。ところで、外の骸獣は大丈夫? 太陽光でこんがり焼かれて宇宙の塵になった? なら、大丈夫か。
乗組員室の扉を開け、外へと出る。出口は輸送艦の先端にあるようだ。骸獣が居た所だが、奴が取り憑いたままだと使えなかったって事だよな?
「あっ」
前を浮遊していたTYPE_F_01の身体が弾け飛ぶ。何だ? 何かの攻撃か? 何処から?
戦闘用ではないTYPE_F_01は兎も角、純戦闘用のTYPE_R_03が反応すら出来ずに攻撃を受けた?
「え?」
後ろからロドリック氏の間抜けな声が聞こえ、TYPE_F_01 と同じように突然身体が弾け飛ぶ。こっちもか。
TYPE_F_01、ロドリック氏と来て、次はオレという事になるが………。平気だな? 何故?
『あー、通路は対魔素防護措置が取られていないんでありますねぇ。まぁ、これも恐らく予算の関係上取れなかったのかもしれないでありますが………』
魔素? そう言えば、何も対策せずに宇宙に行くと、宇宙空間に溶け込んだ魔素を身体の限界値を超えて無理やり取り込む仕様によって、普通の生物は死ぬんだったか。………なら、何でオレは大丈夫なんだ?
『何故も何も、トワ殿は某の中に居ますし。………いやぁ、さっぱり失念していたでありますねぇ』
『全くだ。私はあの少妖精を殺すつもりは無かったんだぞ。どうしてくれる』
うわ、出た。死んでなかったのかよ。いや、コイツは情報思念体だったか。身体は飾りみたいなモノなんだろう。
予算が足りないと安全対策が疎かになりがち。




