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ロドリック氏の今後の進退については置いておくとして。
とりあえず、ロドリック氏のやろうとしている事は無意味で、恐らく雇い主の目的を阻害しかねない事を教えてやろう。上手く行けばロドリック氏の戦意を喪失させる事も出来るかもしれない。
「私が受けた命令は、ここからキミ達を排除しろという事だけだ。だが、今迄の経験上、キミ達を倒すのは不可能だ。そして、情に訴えるのも効果が薄いだろう。ならば、キミ達にうんざりさせてやる気を無くさせるのが最適た判断した。どちらにせよ、私は契約で縛られている故にここから逃げるという手段は取れない」
うんざりさせるねぇ………。確かに毎回毎回意味の無い突進で、TYPE_R_03に斬殺されている様子を見続けるのは辛いのかもしれないな。オレは何とも思わないけど。
「そうか。なら、勝手にしてくれ。じゃ、後は任せたぞ。態々オレを巻き込んだ責任は取ってくれ」
そう言って、オレはその辺の席に座る。窓でも有れば外の様子が見れるんだが、ただの輸送艦にそんなモノは付いていないか。
『しょうがないでありますなぁ。あ、そこのボタンを押せば外が見れるでありますよ』
ポチッとな。おぉ、外殻が全面透明になって外が見えるようになった。いや、透明になった訳じゃなくて、外の風景を映し出しているのか。
「この輸送艦は既に起動しているが、発射までには暫く掛かるだろう。あの吸血種がこれを止める手段を持っていれば停止する事もあるだろうが。まぁ、無理だろう」
この輸送艦含む輸送魔砲は第一人類種が残した超技術の遺物である。骸獣の影響を受けているとはいえ、第二人類種である吸血鬼がこれを理解出来ているとは思えない。
何らかの方法で、起動出来たとしても停止する術は知らないだろうとの事だ。まぁ、アレを操っているらしい骸獣は、宇宙に上がる事が目的だから停止する事なんて考えてなさそうだ。
尚、この会話中もロドリック氏は死に戻りを続けている。その姿は哀れだが仕方ない。ロドリック氏が取った方法は、まともな感性を持つ奴だったら有効だったかもしれないが、オレには効果無いんだ。
オレ以外の奴は全員死ぬ。そういう事だ。
尚、その作業に当たっているTYPE_R_03は、身体を三つに分けて分業している。
外を見たり内部を観察したりしていたが、何と言うか飽きた。ロドリック氏の方は相変わらずだし、そろそろ出発しないものか。
『最後に使用されてから、かなりの年月が経っているでありますからねぇ。発射のための点検やら準備やらに時間が掛かっているんだと思うであります。TYPE機並みの頭脳は積めなかったようでありますし』
TYPE_R_03は雑誌に応じつつも、ロドリック氏を斬り刻む動作は止めない。ロドリック氏の例の勇者専用技能にどれ程の効果時間があるのこは知らないが、先にロドリック氏の心が折れそうな気がする。
まぁ、彼女は一生死に戻りし続ける可能性も加味して、あのような状態になっているのだ。全ての責任はロドリック氏にあるのであって、無間地獄に耐えかね彼女が壊れてしまってもオレは悪くない。
「そろそろ動き出すようだぞ。外を見てみろ」
TYPE_F_01に促されて外を見る。さっきまでは赤い光が点灯していたが、今は緑の光になっている。何となく準備が完了したという証なのかなと益体もなく思った。
『ザザ………、ザ……』
何処からか雑音が聞こえてくる。恐らくスピーカーが壊れているだけなんだと思うが、何を言っているのか分からない。
「どうやら発射するようだ。迫るGに備えろと言っている」
重力に備えろ? まぁ、確かに地表から宇宙へ向かって巨大な弾丸を撃ち出す訳だから、普通なら相当な重力が掛かるだろう。しかし、これは第一人類種が作った超技能の塊だ。そういった問題なんて無いんじゃないのか?
「この程度の施設で、そんな事に割く予算は無かっただろうな」
TYPE_F_01にあっさり否定されてしまった。でも、第二人類種という労働力を撃ち出すんだぞ? 第一人類種ほど頑丈でない奴等を守るための設備とか無いのかよ。
「そのための設備が、ここの生物収納エリアだろう。逆を言えば、ここから出ると死ぬ。貴様は骸骨兵である故に、中身が出る事は無いから死なないだろうが、幾つか骨は折れるかもしれないな」
「なん………!!」
ビリビリと空気が震える音がする。オレの身体は凄まじい圧力で座席に押しつけられた。輸送艦が発射されたらしい。外を見ると風景が物凄い速度で流れていく。と思ったら、外側が黒いモノで覆われたように暗くなる。
「どうやら、上空の擬装天蓋を抜けたようだな」
輸送艦は、例の島の上空にある擬装天蓋に到達。そのまま擬装天蓋を纏いつつ、突き破ったようだ。
TYPE_F_01曰く、この擬装天蓋を纏う事で、輸送艦の保護及び人工衛星まで誘導の役割を熟すらしい。
保護って、今現在掛かっている重力はどうにもならないのかよ。
「この星の重力圏を抜けるのは一瞬だ。そんな機能有る訳ないだろう。そら、もう抜けるぞ」
言葉通り、身体に掛かる重力は軽くなった。いや、星の重力圏を抜けたから、ここは既に無重力なのでは。
思わず外を見ると、眼下に青い星が見える。あの星も、その大多数を海で占めるようだな。………ん? 何か外で火花が散っているように見えるんだが? ここって既に真空だよな?
「あの擬装天蓋には、二つの役割が有ると言ったな? 一つはこの弾丸の保護。そして、もう一つはTYPE_AAまでの誘導。星の重力圏を抜けると擬装天蓋は、船の帆のようにして膜を開き太陽風を受ける。後は流れでそのままだ」
成程。輸送艦自体に推進装置が無いから打ち上げられた後はどうするのかと思っていたが、ここで例の擬装天蓋が役に立つのか。………ん? 輸送艦を覆っていた擬装天蓋が展開する? という事は………。
「つまり、外側に取り憑いている骸獣は、TYPE_Oに焼かれて死ぬ」
肺炎は何とか治ったが、完治はまだまだ先な気がする。
健康には気を付けましょう。




