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「………誰だ貴様は。どうやってここは来た? いや、喋らなくていい。死ね」
開口一番そんな事を言った奴は、オレには視認出来ない速度で拳を振るったようだ。ようだと言うのは、先の攻撃はオレには全く知覚出来なかった。だが、それでもTYPE_R_03を抜く事は出来なかったようで、間抜けにも眼前に拳だけが突き出されている形だ。
「なんだ? コレは?」
TYPE_R_03の表面で受け止められた拳は、徐々にズブズブと沈んでくる。おい、オレの顔に当たるだろ止めろ。
「くっ! 何だこれは!?」
TYPE_R_03の謎空間に収納しているのか、オレの顔に届く事は無かったが、端から見ると黒いスライムにズブズブと沈み込む形で非常に不気味だろうな。というか、コイツ………は誰なのかは置いておくとして、まだ始末しないんじゃないのか? いや、用が済んだのなら、ここで始末してもいいと思うんだが。
「貴様! 知っているぞ! ヒルダが連れてきた小妖精だな!? クソ! 嫌な予感がしたのは気の所為ではなかったか!!」
おや、もしかしたら会った事が有るのだろうか。小妖精の事を知っているという事は、オレも知っている可能性もある。しかし、オレには気付いていないのは取り憑いているTYPE_R_03のせいだろうな。で、コイツ誰?
『ヒルダの近くに住んでいた老吸血種だな。見た目が大分若返っているから常人では分からないだろう』
あー、何かいつもエレイン氏に飴を押し付けてくる老人か。まぁ、あの中で飴を食べられるのはエレイン氏だけだったからな。小妖精は、ラクガン氏の身体に張り付いたオブジェと化していたのでカウントしていない。
「落ち着け。お前を今どうこうするつもりはない。我々は同じ艦に乗るよしみで挨拶に来ただけだ。我々は平和的に物事を進めたいと思っている。お前も発射前に死にたくはないだろう? さっさと発射準備を完了させて大人しくしておく事だ」
「何………貴様等は一体………?」
老吸血鬼は何だか混乱している。まぁ、TYPE_F_01の言い草だと、敵方ではなく寧ろ同陣営の偉いヒトみたいな感じだ。相手を煙に巻く方向にシフトしたのだろうか。
TYPE_R_03は老吸血鬼を雑に引き抜き、部屋の中へポイ捨てした。相手とこちらの力の差を見せ付けた形だろうか。
老吸血鬼は床にへたり込み、こちらを見上げている。身体性能の高い吸血鬼の力が全く通じなかった事で心が折れたのかもしれない。
そのまま、取って部分が少し歪んだ扉を再度無理矢理閉める。何だか見ただけでもベコベコに歪んでいるんだが、この状態で開くのか?
『いやー、有意義なアイサツでありましたね。これで奴は暫く大人しくしていると思うであります』
『発射前に暴れられてはかなわないからな。まぁ、奴等にとっても宇宙へと上がる手段はこれだけだからな。無茶はしないと思うが、釘を刺しておいた方が良いと判断した。奴には、ほぼ死に体の骸獣起動という役割もあるからな』
TYPE機達とオレは意気揚々と一般乗車席へと移動する。果たして、アレで大丈夫だったんだろうか。非常に不安である。というか、あの吸血鬼も骸獣も今始末しない理由は何なんだよ。理由を聞いても適当にはぐらかされるから聞かないが。
『………ん? 誰か入ってきたな。島の吸血種ではなさそうだ。となると、旅人か?』
え? 旅人? エレイン氏辺りが追い掛けてきたか。………それとも?
一般乗車席の扉が吹き飛び、人型の何かが入ってくる。
「やぁ、探したよ。まさか島があんな事になって、こんなモノが生えて来るとはね。あの時言っていた、キミ達が狙っていたのはコレの事だったんだな。ならば、私はあの時宣言した事を実行に移させて貰う。そう、キミ達の邪魔を全力で行う、とね」
「止めとけ。妨害行為に徹したとしてもアンタに勝ち目は無いぞ。それに、いいのか? 被災した吸血鬼達を助けに行かなくて? 助けを求めるヒトを助けるのが勇者なんじゃないのか?」
現れたのはロドリック氏だった。………の割に、何だか物々しいというか禍々しい雰囲気を感じる。確か、爽やか系勇者を謳っていた筈だが、こんなんだったか?
「あぁ、彼女達の事はいいんだ。向こうは向こうで上手くやるだろう。それよりも、私は契約を果たさなければ。そうだった。思い出した。私はあの方との約束を果たさなければならない。そのためには、キミ達は邪魔だな」
ロドリック氏の身体がブレ、一瞬の内にオレの眼前へと迫り、賽の目切にされて背後の座席へとぶち撒けられた。
おいおい。まだ懲りてないのかよ。勇者が逆立ちしたところで、最強兵器であるTYPE_R_03には勝てないって学ばなかったのかね。
ロドリック氏だったモノの欠片は光り輝きながら収束し、寄り集まりロドリック氏が形成された。
………は? 死に戻りにしては早すぎないか? それに、ここは死に戻り登録出来なかった筈だ。何がどうなっている?
「これは、“勇者”の専用技能で、一定時間、死んだとしてもその場でデスペナ無しで復活出来るというモノなのさ。勿論、効果時間が過ぎた後に、とっても重いデメリットが待っているけどね。現役勇者の時代でも使った事は無い奥の手だけど、今はここで切るべきだと思ってね」
ロドリック氏の決死の特攻スキルという事か。
しかし、ロドリック氏が結んだ契約とやらが気になるな。吸血鬼達を守ると言っていたロドリック氏が、守るべき彼等を見捨てて、態々オレ達の妨害に出張って来たのだ。オレが思う以上に強固な契約なのだろう。
それを、誰と結んだのか。………まぁ、状況的にさっきの老吸血鬼か?
ならば、オレ達が輸送魔砲の内部に入り込んでからの妨害とか、全くの無意味だと思うんだが。ロドリック氏の実力的にオレ達を外へ叩き出すなんて事は不可能だし、この輸送艦を破壊なんて以ての外だ。………何しに来たんだロドリック氏。
片肺の半分程を肺炎でやられました。
まさに死にかけましたが、私は何とか元気です。(残機0)
ほぼ寝たきりで時間だけは無限にあるので、可能な限り書き溜めしたい所存(体調による)。




