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「貴方達に戦力は期待してはいない。奴等は私達で片付けるから、貴方達は骸獣に付かないようにしてほしいだけだ。あちらに付かれると、少々面倒臭いんでな」
小妖精はチラリとオレを見ながら言う。あー、はいはい。オレに説得をしろという事だな。
「あー、コイツの言う通りです。対骸獣戦でオレ達に出来る事は何もありません。………もしかしたら、将来的に何かが出来るようになるかもしれませんが、今のオレ達には無理です。オレは明確にTYPE機側です。エレインさんやラクガンさんが、骸獣側に付くとなるとオレが困る。しかし、残念ながらTYPE機は困らない。骸獣諸共、貴方達を潰すだけなので。………因みにこちらには、純戦闘型のTYPE機が居ます。骸獣側に勝ち目は殆ど無い。無為に死にたい訳でもないでしょう? 悪い事は言わないので、骸獣側に付くのは今回だけでなく止めた方がいいですよ」
「………貴様が骸骨顔で良かったよ。今の貴様に表情が有ったら、きっと無性に殴りつけたい面をしているだろうからな。………まぁ、私も怪獣大戦に巻き込まれて死ぬつもりは無い。蚊帳の外に置かれるみたいで癪だが、戦闘に加わらなくていいというのは善い事だ。ツマミ片手にその様子を観戦させて貰うよ」
エレイン氏は、オレの説得に応じて敵対はしないようだ。ツマミを片手にTYPE機の戦闘を無事に観戦出来るかどうかは分からないが、無闇に戦闘に加わるとか言われなくて良かった。
『私も右に同じですね。こんな形ですが、私も戦闘向きではない。回避出来る戦いは出来るだけ回避する。私は平和主義なのですよ』
ラクガン氏は普通に動くだけで、一般的なモノは殺せる気がするが、本人的には戦闘向けではないらしい。温厚そうな性格なようだし、荒事は好きではないのかもしれない。オレと気が合いそうだ。デカ過ぎる身体が他のモノの邪魔になるのを厭って、僻地に移動しただけはあるという事か。
しかし、平和主義? 多分だが、自分自身の平和を守るためになら、何でもするタイプだと思う。オレもそうだし。
一先ずこれで、意思確認は出来た。彼等が敵対しないのならば後は簡単だ。とりあえず後の全てを、TYPE_R_03にお任せすればいい。
うんうん頷いていると、トトトと軽い音が聞こえた。何か、音的に誰かが凄い速さで登ってくるような………。
「中々出発しないから、何か問題でも起きたのかと思ったが………何をやってるんだい?」
そういえば、下に居たロドリック氏の事を忘れていたな。
ロドリック氏にも斯々然々。
「なるほど。この島の地下に骸獣というレイドボスが眠っているんだね? しかし、長らく不明だった“世界獣”クエストがこんな所に埋まっていたとはね。………知ってるかい? “世界獣クエスト”というモノが初めて世に出た時は、最前線に居た旅人達は血眼になってそれを探したんだ。最前線を支える旅人たる自分達が、世界に関わる物語を知らないなんておかしい!ってね。それを探す過程で、幾つかのクランが瓦解したらしいけど………。まぁ、結局それは見つからず、捜索は中止されたんだ。それが、まさかこんな形で出会うとは………」
そういえば、ヘイルデン要塞のフルバ氏も大手クランの依頼でレイドボスを探しに来たんだったか。あの時探していたのはヘンシェル氏達らしいが、世界獣探しもあったんだな。
まぁ、フルバ氏の件は情報屋に対する雇用体制が杜撰で、それが元でクランを抜けたらしいが。
「こうして最前線を離れてみて、よく思うよ。最前線なんて気取っているけど、私達は何も分かっていないってね。高レベルになると誰よりも強く偉いなんて驕るヒトが多いんだ。残念な事にね。存在強度なんて、ただの指標でしかないのに。………さて、トワさんの申し出はありがたいが、ボクは吸血鬼達に付くよ。あぁ、“世界獣”とやらが“星の敵”だという事は分かっている。だが、ボクはヒトの期待や希望を裏切れない。裏切りたくない。………ボクは“元”であろうと、勇者だ。骸獣の味方ではなく、助けを求める吸血種の味方でありたいと思っているよ」
つまり、オレ達と敵対するという事で良いのだろうか。大丈夫? 負け戦だぞ?
「自分の実力に自信があるみたいだね。だが、ボクは最前線の“元”勇者。ただの骸骨兵相手に遅れは取らないよ。但し、キミ達と敵対したい訳じゃない。ボクは彼女達の味方でありたいだけで、骸獣とやらの味方をする訳ではない。どちらも一緒だと思うかもしれないが、ボクにとっては明確な違いがあるんだ」
吸血鬼達は骸獣の端末だから、広義な意味では同じ奴等だぞ。骸獣が死ねば、その端末である吸血鬼達も一緒に死ぬ。そして、TYPE機がやる気になった以上、奴等に未来は無い。そんな中で、態々アイツ等に味方する意味なんて無いだろう?
「骸獣とやらが死んだら、彼女等は道連れで死ぬのか? 本当に? だが、それでも助けを求める声があるのならば、ボクはやり遂げなければならないと思う。勝ち負けというつまらないモノに拘るのは、もう止めたんだ」
ロドリック氏は自身の熱を吐くように言う。その熱い台詞は確かに勇者っぽい。




