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“海の呼び声”といえば、サギハン氏がそうだったな。彼女は素知らぬ顔をしていたが、まさか骸獣調査のためにこの島に来ていたのか?
「いや、アレがここに居るのはただの偶然だ。サギハンが言っていた事の殆どは本当の事であるし“海の呼び声”としての意志は全く関係が無い。………まぁ、あやつがやっている事を少しは利用させてもらったがな」
サギハン氏はカイリ氏との音楽性の違いで出奔したんだったか。それで泳ぎ着いた先がこの島だった………という気がする。
サギハン氏の行動はクランとしての“海の呼び声”とは関係の無い行動のようだ。つまり、TYPE_F_01がここに居るのも狙ったモノではないという事だろうか。
いや、それよりも、TYPE_F_01は何時小妖精に取り憑いたんだ?
「私がこの身体に取り憑いたのは、魔力吸収に乗じてだ。小妖精という種族は魔素………魔力との親和性が高い。魔力という情報によって構成されているTYPE_F_01との相性は良いのだ。タイミングとしては、この小妖精が大気からの魔力吸収を行った際に、だな。その時、このモノは魔力不足で意志薄弱になっていたようでな。簡単に乗っ取る事が出来たよ。………いや、普段は許可を取るぞ?」
なんでも意志薄弱過ぎて、TYPE_F_01が入ってきた衝撃で小妖精は眠りに着いてしまったようだ。まぁ、奴は魔力不足で半分死んでたモノだからな。そんな中でTYPE機という超弩級の奴が無理矢理入って来たら失神してしまうのも頷ける。
まぁ、小妖精の件については分かった。それに、コイツについては割とどうでもいい問題だ。
サギハン氏の行動を利用した? ヒルデ氏の依頼で何かを集めているとか聞いたが、それの事か? そもそも、何を集めていたんだあれは。
「彼女が集めていたのは、残骸の破片だ。その殆どは海中に没していたからな。人知れずそれの後押しをしていたのだ。………この島の吸血種は、水中に潜る事が出来ない。それに、この島周囲の海流は複雑で、サギハンのような水棲生物のようなモノでないと海中を自由に探索出来ない。あの吸血種の長にとっても都合が良かったのだろう。陸地にあるモノは殆ど回収し終えていたようだしな」
残骸? の破片? 一体何の破片なんだ? 勿体ぶらずにさっさと教えろ。
「話の腰を折るな。奴等が集めているのは遥か以前、TYPE_AAに昇るために建造された物資輸送魔砲の補助機構、通称“擬装天蓋”の破片だ」
『マスドライバー!? 私の星では諦められた技術を、ここでは使えるという事なのですか!?』
何だかラクガン氏のテンションがおかしい。そんなに凄い事なのか? ただ、オレのにわか知識だとこんな所に造るようなモノではない筈だが?
『確かに、その通りです。マスドライバーは言ってしまえば、大量の物資を宇宙へと“放り投げる”技術。普通ならば、赤道付近に建造した方が効率が良い筈です。しかし、この星にはよく分からない力を使った“魔法”がある。一体どういう魔法を使って………あ、話の続きをどうぞ』
ラクガン氏の早口語りは早すぎてよく聞き取れなかった。ただ、滅茶苦茶興奮して振動していたのは分かった。
「宇宙へ輸送………? なるほど?」
エレイン氏も何やら呟いている。エレイン氏も、オレと同じく万年海の中だから余りピンと来ていないのだろう。
「貴方達がコレに興味を持ってくれるのは結構。私達の目的は、この“擬装天蓋”の修繕。………物資輸送魔砲の方は使用可能なのでね。そちらの修復は必要無い。そして、砲内部に巣食う骸獣本体の撃滅。“擬装天蓋”が修復され輸送砲が使える状態になれば、奴等は骸獣を宙へと打ち上げるだろう。今後のためにも輸送砲は使える状態にしておく必要はあるが、おめおめと骸獣を宇宙に行かせるつもりは無い。故にその前に叩く。骸獣の端末である吸血鬼諸共にな」
その叩くのをTYPE_R_03が担当するという訳だ。
しかし、アレだな。骸獣の本体が輸送砲内部に居るというのが分かっているのなら、さっさと倒しておけば良くないか? 輸送砲の全体的な修復はその後からでもいいだろうし、端末は本体が死ねば勝手に死ぬモノだろう。
テンションは上げ下げではなく、張るモノらしい。




