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山と谷がある話  作者:
10.再度北へ行こう
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 ラクガン氏からウキシマ氏に乗り換え、海を行く。

 ラクガン氏の身体はあの場に放置してきた。彼は追々オレ達の後を追って来るのだろう。………まぁ、本体(ラクガン氏)はオレ達と一緒に居るのだが。

 エレイン氏の隣に座る………座る?小さな岩塊がラクガン氏だ。あのデカすぎる巨体から分身体を生み出し、自らの意識を乗せる事で小回りの利く端末として動かせる技能(スキル)があるらしい。

 そんなこんなで、オレ達一同はウキシマ氏の傘の上に乗せられた筏に乗っている。

 幾ら巨体といっても、クラゲの傘に重力物を乗せたら重さで潰れないだろうかと思ったが、全くもって大丈夫そうだった。

 ウキシマ氏曰く、帝王海月はクラゲに在るまじき事に骨を持つらしく、傘の外皮の内側に直上から身を守る用の軟骨を備えているという。………クラゲの構造的に色々無理が出そうなモノなんだが、この星(ゲーム)のクラゲはそういったモノなのかもしれない。知らんけど。

 まぁ、兎も角。クラゲの傘の軟骨に支えられ、北極へ向けて進んでいる訳だ。

 海に棲む獰猛な海獣やら魚類やらは、ウキシマ氏の巨体に恐れ慄き近寄っては来ない。中には命知らずの奴が居るのだが、近寄って来た段階でウキシマ氏が持つ通常のクラゲよりも強力かつ凶悪な毒によって返り討ちに遭い死んでいるので問題は無い。

 オレが言うのも何だが、海には面倒臭い奴等が多い。ウキシマ氏がこの巨体で生きていけているのは、本体の実力が高い証左だろう。


「ところで、アレって置いてきて良かったんですか?」


 アレとは即ち、ラクガン氏の本体である。


「ええ。あの身体は地上を移動するのは便利ですが、あれ以上は海に潜る必要がありましたからね。それに、この身体ならば皆さんと一緒に北極まで行けますしね」


 今のラクガン氏は、あの巨大な身体を脱ぎ捨てた故の貧弱ボディだ。まぁ、向こうが本体なので、こちらに居るのが貧弱なのは当然なんだが。

 あの巨体に見合ったタフネスはこの身体には無い。重さを置いてきた故にオレ達に同行出来るってのは確かにそうなんだが、あそこまで成長させた身体を置いて行くってのは何だかな。


『余り重いと俺が潰れちまうからな。今でも割とギリギリなんだぜ? 落雁の本体なんて、俺がどうこう出来る大きさ(スケール)じゃねぇからな』


 ウキシマ氏は、今も無駄にビカビカと身体を発光させている。それって海獣避けとかの効果でもあるんですかね。


『いや、誘引させている。移動しつつ、(モンスター)を引き寄せて殺す事でレベリングを兼ねてるんだよ』


 どんな時にもレベリングを欠かさない廃人(プレイヤー)の鑑だな。………でも、オレ達の安全のために、それ暫く止めて貰っていいか。

 オレの要請は聞こえなかったのか、聞こえたが無視しているのか、ウキシマ氏は無駄発光を止めようという気はなさそうだった。


『そういえば、お前等………特にそこの骸骨兵(スケルトン)は何で北極になんて行きたいんだ?』


 そりゃあ、行く事が出来る手段が有るのならば、とりあえず行ってみたいと思うのが普通なのでは。


『この星の北極付近には島がある。俺は陸に上がれねぇから、他のプレイヤーに話を聞いただけなんだが、そこは年中太陽()が昇らないらしい。所謂、極夜の世界だな。そのためなのかは知らないが、その島は吸血鬼が治める国が牛耳っているらしいぜ。その島に住む奴が全員吸血鬼かどうかは分からないが、吸血鬼は好戦的な奴が多いらしいから気を付けろよ? 血を抜かれたり………お前等の面子でそれは流石に無いか』


 吸血鬼? あぁ、種族特性で日が昇っていると弱体化するんだっけ? ゾンビーフ氏はどうだか知らないが。

 しかし、北極は年中極夜なのか。季節毎に極夜になるってなら分かるが、年中ってのはどういう事なんだろうな。

 吸血鬼に血を抜かれる云々は、まぁ………そうだな。骸骨兵(スケルトン)のオレ、山巨人のラクガン氏、蜘蛛妖人(アラクネ)のエレイン氏、小妖精(羽虫)のアリスという面子で、血を吸いたいと思えるような奴が居なそうってのは分かる。

 骸骨兵(オレ)山巨人(ラクガン氏)小妖精(アリス)には血液自体が無いしな。残った蜘蛛妖人(エレイン氏)は、その見た目的に血を吸いたいとは思われないだろう。多分。

 しかし、吸血鬼の国か………。これはオレの偏見なんだが、吸血鬼って自意識(プライド)が高い奴が多いから、平和的に観光出来るか不安だな。TYPE_R_03という超武力を持っているとしても、国を相手に戦おうとは思わない。そもそも、そんな事をしでかしたら観光どころではないだろう。


『浮島は来ないのかな?』


『はぁ? 行く訳ないだろ。そもそも、俺は陸地で活動が出来ないんだっての』


 ウキシマ氏は、オレ達を例の吸血鬼が多く暮らす島に送り届けたら、元の縄張りへと帰るらしい。

 陸に上がるクラゲか………。肺呼吸が出来ないのもアレだが、クラゲの柔い身体では陸地では身動きが取れずに干乾びて死ぬだろうな。そもそも、この巨体だと自重で潰れるかもしれない。


 あれから特に何事もなく、例の吸血鬼が支配するらしい島に辿り着いた。………まぁ、何も無かった訳ではないが、誘引を止めないウキシマ氏が全てを無かった事にしてくれたので、何事も無かったといえよう。

 巨大クラゲであるウキシマ氏は浅瀬へ入る事は出来ないとかで早々に別れた。後は筏に乗り換え、ウキシマ氏の無駄に長い触手で島方面へと押し出してもらっただけだ。


「なるほど。日が昇らないとはこういう事か」


 エレイン氏が感慨深げに言う。エレイン氏は極夜を知らないとみえる。まぁ、彼女は普段は海中で暮らしているから日を見る事自体が稀なのだろう。

 ウキシマ氏からの情報によると、この島周辺は年中太陽が昇らない極夜地帯であるらしい。地軸どうなってんだと言いたいが、それがこの星の特徴なんだろう。北極が年中極夜ならば、南極は白夜なのだろうか………。知らんけど。

 必要のなくなった筏はエレイン氏のアイテムボックスに仕舞われ、オレ達は島へと降り立った。


『トワ殿、(それがし)はこの島には入らず、沖合に待機しているであります。恐らく、不快になるでありますから』


 不快? 誰が?


『トワ殿と周囲のモノ共であります。島の周囲には居るでありますので、必要になったら呼べであります』


 TYPE_R_03が居るせいで、オレ達が不快になる………? それって、どういう事なんだ?

 いや、なるほど。こういう言い方をするって事は、ここは骸獣案件か。骸獣絶対殺す兵器であるTYPE_R_03は奴等の存在をはっきりと知覚してしまえば、殺す以外の選択肢が存在しなくなる。

 この島に骸獣が居る可能性があるが、それを発見し殺す段階(フェーズ)に入ってしまえば、態々こんな所まで観光にやってきたオレ達に迷惑を掛けてしまう。………といった所を考え、島には入らない事を選択した。なるほど。オレの事を便利に利用するだけだったTYPE_R_03も、幾度か成長して他のモノ達の事を慮る事が出来るようになったんだな。

 でも、必要になったら呼べって事は、観光に満足したら島ごと殺すって事なんだろうか。


 しかし、この島に骸獣か。まぁ、確かに?

 TYPE_O(太陽)怪光線()が殆ど届かないってところで思う所はあったよ? 日光に弱いらしい吸血鬼………というよりも骸獣が居そうだなってな。そう考えていたところに、TYPE_R_03のあの態度。これは絶対に居るじゃねぇか。

 ともあれ、これから臨む場所はオレ達にとっての敵地だ。何が居るのかはまだ分からないが、相応の覚悟をして行かねばなるまい。


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