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「あー………」
「おぉ」
「ふむ………」
オレ、エレイン氏、ラクガン氏の三者三様の言葉が出てきたが、これは目の前の光景に対するリアクションだ。小妖精は寝ているので今は居ない。
目の前に広がるのは海。大分前に森を抜けたのだが、思ったより直ぐにコレだ。
これはつまり、大陸の端まで来たという事だろうか。もしかしたら、滅茶苦茶デカい湖という線もあるが。
『海でありますね?』
やはり海らしい。
しかし、海か………。今迄はラクガン氏に乗せられてきたが、流石にそれもここまでだろう。ラクガン氏の体高が山脈級だとしても、流石に海は渡れない。比較的大陸に近い海底には足は付くだろうが、それ以降が問題だ。ラクガン氏はそれ程高い訳ではないからな。
エレイン氏が人形だったのならば、海中を偵察しつつ………みたいな事も出来ただろうが、今の彼女は蜘蛛人だ。つまり、ラクガン氏とはここでお別れな訳で………。
「いえ、私も行けるところまでは行きますよ? 途中で水没するかもしれませんが、私に呼吸はそもそも不要ですし、ある程度は私が運んだ方が貴方達も面倒が無いのでは?」
まぁ、それはそうなんだが。ただ、ラクガン氏の負担が大きすぎないだろうか。ラクガン氏がどうにも出来なくなった時点で移動方法を船等に切り替えるにしても、そこからラクガン氏はどうするつもりなんだろうか。海底を歩いてくるつもりか?
「その通りです。それ程深い海溝が無い限りは大丈夫でしょう。それに、いざとなった時のための緊急措置も取れますし」
緊急措置とは何なのだろうか。聞いてみたいが、今はそれを明かす気はないらしい。
「ラクガンはそれで良いとして、進めなくなった場合はどうする? 何が潜んでいるか分からない海域でどうするつもりだ?」
エレイン氏の尤もな意見。水面を進む乗り物といえば船だろうが、オレの持ち物には無いしエレイン氏達もそんな物は持っていないという。となると、造るしかないだろう。
『某は乗り物ではないでありますよ?』
最終手段はTYPE_R_03を乗り物状に変形して貰って………と考えていたのがバレたのか釘を刺される。ハハハ、嫌だなぁ、そんな事考えている訳ないじゃないか。………ホントだよ?
「そこらに生えている木を切り倒して、筏でも作るか? 私の糸を使えば接着や接合は容易だろう」
エレイン氏の蜘蛛の糸を使えば丸太を繋げる事は確かに容易だろうが、強度的に不安がある。この世界の蜘蛛の糸は塩水に強いとか在るのだろうか。
とりあえず、モノは試しとばかりに作ってみる。
TYPE_R_03が適当な長さに木々を伐採し、エレイン氏がそれらを繋ぎ合わせる。ものの数分でそれっぽいモノが出来上がったので、適当に海に浮かべてみる。
「浮力は大丈夫そうだな。となると、問題は推進力をどうするか、だな」
推進力と聞いて思い浮かぶのは、帆を張り風力を活かす事だろうが、操船技術を持たないオレ達にとってそれは難度が高い。それに、思った方向に進める技術も無いため北上出来るかは運任せだ。かといって、他に思い付く方法も無い。誰か、風を吹き出すとか水を放出するとかの魔法を使えないか?
「出来るよ!!」
全く期待していなかった小妖精がそれ系の魔法を使えるらしい。マジかよ。コイツを連れて来て、始めて役に立ったような気がするわ。
「というか、水精霊に頼めば、わざわざ魔法なんて使わなくても海流に乗せてくれるよ」
それは、目的地に向かう海流に乗せてくれるって事でいいんだよな? 乗せる海流はランダムですってなると、風任せの帆を張るのと同じだぞ?
それに、精霊に頼む? 精霊は気軽に何かを頼めるような便利な機構ではない。一体、オレ達に何を差し出させるつもりだ?
「そりゃあ、魔力でしょ。精霊も小妖精と近縁種だし。主食は魔力だよ」
小妖精と近縁種か………。何か嫌だなぁ。………ん? 何処かで自称精霊と遭ったような………。いや、今はいいか。
とりあえずは、魔力を渡せば精霊は働いてくれるって事だな? そうなると、魔力を持っているのはオレと小妖精だけな訳だ。しかし、オレの魔力量はゴミなので、必然的に魔力を支払うのは小妖精って事になるな。
「なんでよ!! そこの黒いのも魔力位あるでしょ!! 私、知ってるんだからね!!」
ヒュンと小妖精の直ぐ側を何かが通り抜け、筏の材料を切り出したために疎らに生えていた木々が吹き飛んだ。TYPE_R_03による無言の牽制。意味するところは、“黙れ”だ。
「そういえば、この間上空の魔力を吸収していたらしいな。それと同じような事は出来ないのか?」
上空の魔力を一旦吸収し、それをそのまま精霊に差し出すとか。
もしくは、詳しくないので出来るかどうか知らんが、その辺に漂っている魔力自体を動かす事とか出来ないのだろうか。
「それは無理。それに、精霊が欲しいのは生命魔力であって、自然魔力じゃないからね! まぁ、要するに精霊達は生き物が持つ“|生命力と混同された魔力《精神エネルギー》”が欲しい訳だね!」
何だそのオドとかマナとかいうのは。よく分からない言語を出さないで欲しい。
まぁ、小妖精の言動から察するに、精霊は生き物の魂が欲しいようだ。………確か何処かに魂を主食とする種族………不死者が居たような気がする。つまり、精霊は不死者って事か?
まぁ、それは兎も角。
「そのオド? とか言うのをやるとしても、オレの魔力は微々たるモノだぞ。海流を作り出すような精霊に頼むためには、オレ程度の魔力じゃあ足りないんじゃないか?」
「多分大丈夫じゃない? それに! トワだったら魔力を吸われても死なないでしょ!! 私は最悪、消滅するんだからね!! 絶対に嫌だからね!!」
確かに、小妖精の身体は魔力で形作られている。魔力枯渇≒存在の消滅という訳だ。
ただし、小妖精族は概念と化した妖精族と同系統なので、存在の消滅=死という訳ではないのだが。
訳分からん奴等に魔力を与えたくないオレと、生命を脅かされる可能性がある小妖精との、どちらが魔力を供出するか問題は何処まで行っても平行線だった。そのため、その時になったら再度考えるという事で一時棚上げし海に出る事となった。
モンハンワイルズ………遊べる時間は在るのだろうか……




