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ラクガン氏に連れられてどれだけ経っただろうか。時間感覚が曖昧なオレにとってはよく分からないが、結構な時間が流れたような気がする。何故なら、これまでエレイン氏が二度程ログアウトし、今も三回目のログアウト中だからだ。
向こうの世界で一生暇しているオレは、この世界が終わるまでならば何時までも居られるのだが、ラクガン氏はどうなのだろうか。流石にそろそろログアウトしたいとか無い? オレ達を乗せているから遠慮しているとか?
そんな訳で、TYPE_R_03を駆使してラクガン氏の頭部付近まで移動する。
「どうも。今少し話せますか?」
山巨人に耳があるのかは分からないが、山巨人よりも遥かに小さなオレの声でもやや正確に聞き取る事が出来るようだ。なんでも、通常の空気を介した振動ではなく、身体を通した振動を感知しているのだとか。
『勿論。こうして話すのは初めてですね。という訳で、自己紹介でもしておきますか。私の名前は落雁。既にエレインさんに聞いていると思いますが、これは私の好きな菓子の名前です。そして、種族は物質系巨人種の“山巨人”。元々は土傀儡人形でした。今回は私の我儘を受け入れて下さり、ありがとうございます。いつまで何処まで行けるかは分かりませんが、暫く宜しくお願いします』
ラクガン氏からの返事は、声ではなく振動で返ってきた。ラクガン氏の身体を介した振動なんだが、ここまで正確に聞き取れるものなのだろうか。
『今世界の運営神が掛けた、旅人補正のお陰であると思うであります』
なるほど。ところで、運営神を指して“新しく来た奴”ってのはどういう事だ。あの神を知っているオレは兎も角、この世界の住人である筈のTYPE_R_03が“神”について言及するのは初めての事ではなかろうか。TYPE_A_02も割とメタい事を言っていたが、とうとうコイツもそういう事を言うようになってきたのか。何かトリガーでも有ったのだろうか。
まぁ、それは後で聞くとして。今はラクガン氏の事だ。ラクガン氏はやはり物質系の種族だったか。肉体を持ってはいるが、血が通った身体ではないという事だ。つまりは、種族名に“人”と入っているが人類種という枠ではない。
ラクガン氏の為人は、巨人らしく大雑把なモノだと勝手に思っていたが、割と丁寧かつ穏やかな性質らしい。エレイン氏に聞いた。
オレはラクガン氏に合わせ、適当な自己紹介をしてから、エレイン氏のようにログアウトをしなくて大丈夫なのかを聞いた。
『私は他のモノに比べて長期間ログインし続ける事が出来ましてね。恐らくコレは、向こうの種族特性でしょう。他の旅人達が、食事や睡眠などの生存するために必要な行為が私には殆ど必要無いのです。そう言うトワさんは大丈夫なんですか? それとも、私と同じような感じで?』
ラクガン氏もオレと似たような境遇らしい。つまり、元の世界ではありと汎ゆる意味でやる事が無い暇な奴という事だ。
「こちらも同じような感じですよ。オレの場合は、殆どというよりも全て必要無いんですけどね」
“星の海”であるオレには、食事も睡眠も必要無い。少し前までは生きる意志も目的も無く、永劫を揺蕩う存在だった。
当時の“海”の中にも無数の“オレ”が居たが、大元である“オレ”自体が無であるため、意志を持つようなモノは居なかった。
他の世界の事を学びだしたり、“クオン”と呼ばれる存在を生み出したりしたのは何時の事で、何がきっかけだったのか。………うーん、特に思い出せないな。
まぁ、それは兎も角。ラクガン氏は長期間ログインし続ける事が可能性らしい。但し、一度ログアウトすると次のログインするまでの期間がそれなりに空くようだ。
ラクガン氏の主観では、野暮用を済ませた後すぐにログインしているらしいが………。まぁ、これは星間の時差によるものなのだろう。知らんけど。
ラクガン氏と他愛のない話をしていると、小妖精がやってきた。エレイン氏の蜘蛛の巣にてグルグル巻きにされて寝ていたようだが、遂に起き出して来たようだ。ここ最近は獲物にするような魔力源も無い故に、魔力流出を抑えるため、殆ど寝ていたのだが大丈夫なのだろうか。魔力枯渇で消えない? まぁ、オレとしてはコイツが消えようが、煩いのが消えるので願ったり叶ったりなんだが。
「何だか上空に魔力溜まりの雰囲気を察して来たよ。極点に近付くにつれて魔力が濃くなっている気がするよ。つまり、私の魔力不足が解消される兆しが出てきたという事。これは寝ている場合じゃないと感じて来たんだよ。という訳で、もうちょっと上に行ってくるよ」
そう言い残し、ラクガン氏の頭頂部まで登って行った。………ところで、キャラ違くない? 長らく寝ていたせいで自分のアイデンティティを忘れたのか?
『エレインさんから聞いていた人物像と違う気がしますが………。妖精種は魔力の大小によって性格や性質が違う事があると聞いた事があります。これは、住人だけではなく、旅人も当てはまるらしいのです。故に恐らくアレは種族特性によるモノなのでしょう。今の彼女は魔力が足りていない状態であると見受けられます。魔力欠乏が回復すれば元の性質に戻るのではないでしょうか?』
生者にも、空腹具合によって性格が変わる奴が居るって感じなのと同じなのだろうか。
オレには空腹という概念は存在しないので分からない感覚だが、抗いがたい欲求が満たされない場合、そのモノの性格や性質が変わるのは有り得る話なのかもしれない。
お盆も忙しくて更新とか無理でしたね…




